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初任務

 気力のないバルガードが持っていた紙をロアは取り上げると、サチコに近付き手渡した。

 紙にはこの世界の文字がズラズラと書かれており、まだ慣れていないサチコは難しい顔をしながら何とか解読しようとする。



 「えっと...これはこうで....」



 「......『弟とスパイダウルフの討伐依頼』、その下は詳細。簡単にまとめると、依頼主はその弟の姉で、弟と共に魔獣の討伐を経験させて欲しいという事です。場所はイザゼル帝国所属、エルブレト街です。」



 「じゃあ私はこれからその街に行って、弟さんを守りながら魔獣と戦うんですか?私に....その...」



 「えぇ。貴女が他人を守りながら戦える程器用と思っていませんし、一人だったとしても未熟な貴女は不覚を取られかねません。ですので、ステア様。サチコ様とご同行で向かってください。」



 暇そうにボーッと部屋の隅を見ていたステアは叩き起されたようにロアの方を見て目を丸くしていた。



 「あ、あたし?まぁ別に良いけど、あっち地元だし。期限は?」




 「特に定められていませんが、それ程時間を弄する仕事ではないです。なるべく早くのご帰還を。

 さぁ、取り敢えずこの場で展開するものはもうありませんので、私はこれで失礼させて頂きます。バルガード様?後は...よろしくお願いします....ね。」



 表情を変えなくても伝わる威圧的な声、「覚えてろよ?」と言っているようなロアの発言にバルガードはビクビク怯え、ロアの背中に何回もペコペコと頭を下げていた。



 ――こう言っちゃあれだけど...何だか、自分を見てるみたい....



 思惑とは裏腹に『カッコイイリーダー』の概念から遠ざかるバルガード、ロアが居なくなっても尚テンションはガタ落ちで黒いオーラを放っていた。



 「まぁ...二人とも....頑張ってくれな...俺は.......遺書でも書くかな...ハハ....」



 バルガードのから笑いに誰一人も反応せず、サチコはどうしていいか分からなかった。オドオドしていたサチコの肩をステアは叩き、外へ行こうとする。



 「...あ!忘れていた!ちょい待ちサチコ!」



 先程のテンションからは出るはずもない元気な声でバルガードは声をかける。サチコはいつも以上に早く振り向き、そんなバルガードの切り替えの速さに驚いていた。



 「えっとな、ロアさんの事なんだが....ロアさんがここに在籍しているのは誰にも言うなよ。それと俺に関してもな。」



 「え?...理由聞いてもいいですか?」



 自分の過去話に対して、今まで機械のようなロアが発した人間らしい弱さを宿した言葉をサチコは思い出す。

 ロアに関しては特に気を付けていかないと思っていたサチコだった。



 「ん〜、まぁ良いだろう。ロアさんは昔までイザゼル帝国の兵士だったんだ。だが、色々あって国を捨ててここへ来た。

 王国としたら兵力を失った上、情報もゴリアム皇国へ渡り、刃を向けられる可能性もかみして今や指名手配犯。ロアさんの名をイザゼル帝国の人間が聞けば直ぐに飛びついてくる。

 俺に関しても経緯は違うがロアさんと似たようなもんだ。俺とロアさん、この二人がここにいるってなったら、イザゼル帝国はこのギルド事潰しに来るって訳だ。」



 ――ロアさんがイザゼル帝国の兵士....確かに教育中の教え方も上手かったし、結構徹底的にしてたなぁ...

 だけど、何で国を捨てたのか。"色々"って纏めたけど、もしかしたら感情を失ったのも関係してるんじゃ....



 サチコはそこで考えるのを辞めた。変に詮索してロアを傷付けるのも嫌だったし、自分がされたと考えると良く思えなかったからだ。

 サチコは"知りたい"という欲求を何とかして胸奥深くにしまった。



 「はい、分かりました。」



 「...それと、あと一つあるんだ。」



 バルガードはハキハキとしていたのが、言いずらそうな声質へと変わり、その反応にサチコもあまり良い気がしなかった。


 バルガードは胸ポケットから別の紙を取り出してサチコに手渡した。


 受け取ったサチコはその紙を開いてみると、そこには写真のような絵で一人の男性が描かれていた。

 ボサボサの青黒い髪で、前髪は目にかかりそうなくらいにまで伸びている。両耳から顎にかけて無精髭が延び、体格もそれ程がっちりしている訳でもない。

 服も所々ボロっとしていて、あまりいい物を着ているとは思えない姿。まるでホームレスのような男性だった。



 そしてその男性がみえると部屋の空気が悪くなるのをサチコは察した。誰しもがその男性から目を逸らし、重い空気が部屋中に漂う。



 「....あの、この人は...一体誰なんですか?」



 「....この世界で生きる者なら誰しもが知っている有名人、通称『自由人アズザ』。この世で一番強いやつだ。」



 「え!?こんな人が?...その....そんなに凄い人なんですか?とてもそんな人には...」




 「まぁ一見はダラしないダメ男みたいな印象なんだがな....サチコ、これも厳守案件なんだが...このアズザになんにも関与しないで欲しい。

 街でコイツを見掛けても、盗みを働いていたり、物を壊していたり、強姦、暴力....殺人をしたとしても見て見ぬ振りをしてくれ...」



 サチコは何を言っているのか分からなかった。バルガードは何処か抜けている印象があったが、人に対しての想いは本物で、正義に関しては馬鹿正直と思っていたので尚更のこと。

 そんなバルガードが目の前で人が殺されても黙認しろと言うのだから、サチコの頭の中は一瞬真っ白になった。



 「ど、どういうことですか?何で人が殺されてるの黙ってみるような....」



 そんなサチコの問いにバルガードは目線を下げ、歯を食いしばりながらプルプルと震えていた。

 バルガードの反応から何かしらの理由があるのは察していたが、それよりも疑問の方が大き過ぎてさらに問う時、ステアがサチコの肩をポンッと叩いた。



 「これから後は私が話すよ。さっさと身支度して玄関前集合ねサチコ。バルガード、それじゃあ行ってくるわ〜。」



 「あぁ、済まない....よろしく頼んだぞステア。」



 ステアはサチコの背中をドンドンと片手で押しながら部屋を出ようとする。サチコは混乱している中、バルガードの方を見るが、彼がサチコと目を合わせることは無かった。



 サチコはステアに言われた通り、自分の部屋でモヤモヤした中で身支度を済ませた。簡単に布に纏めて玄関の方へ行くと、少し大きめのリュックに縦長の布を地面にずっていた。



 「うし、じゃあこれからサチコの記念すべき最初のお仕事行きますか!エルブレト街までは歩きで一日ちょっとくらいだ。まぁ、比較的に近めだな。」



 「え?歩きなんですか?前ここに来た時の馬車みたいなのは...」



 「あれはウチにそんな置いてないし、そんな大荷物での移動でもないしね。基本、超長距離以外は使わないよ。

 それ以外に楽な移動手段はあるんだけど、さっきこっそりロアから言われてね。サチコの為に歩けだとさ。」



 ステアは腕を伸ばしながら歩き始め、サチコはそれに着いていく。日を跨いで歩きでの旅、勿論初経験でどれ程しんどいのかサチコには想像出来ないので不安。しかし、それ以上にサチコは先程のアズザの件が蜘蛛の糸のように頭に纏わりついて離れなかった。

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