灰色の十字架のメンバー
その後もサチコはロアと共にギルド内を紹介させてもらっていた。バルガードの長室、各々の個人部屋、外にある小さい訓練場なんかも紹介され、サチコは思っていたよりもギルドが大きいことを実感させられていた。
ギルド内の紹介が終わりかけた時、ロアにバルガードからの連絡があり、二人は長室へと移動する。
長室は玄関から右手の廊下の奥にあり、部屋自体は細長い感じだった。目の前には来客用なのか、小さい丸机を挟んで長椅子が二つあり、その先には少し空間を開けて大きめな机が設置されていた。後ろには書冊が棚に隙間なく入っており、その机に堂々と座っていたのバルガード。
本来なら凄い緊張する場面だが、バルガードは何故か砂埃で包まれ、頭から少し出血していた為、緊張出来ずにいた。
だが、そんな気持ちは直ぐに思い直されることになる。バルガードと丸机のちょっとした空間に五名が両脇に整列していた。
その中にはラーズとステア、そしてあと三人に関しては完全に初対面でサチコは唾を飲んだ。
サチコは丸机の前に立たされ、ロアはバルガードの後ろ隣に移動してサチコを見詰める。
「よし、全員揃ったな。いや、悪かったなサチコ。出迎えようとしたんだがちょっとした用事に巻き込まれてな、連絡すんのも遅れちまった。」
「いいえ、全然大丈夫です。ロアさんに色々とギルド内紹介させてもらってましたから。」
「そうか....うし、じゃあ早速だが灰色の十字架...まぁ、正確には復国軍だけど、エリート達を紹介するとするか!サチコと対面あるのは〜ラーズとステアだけの筈だから、まずこいつの名はリーヤだ。」
そう言われ紹介されたのはラーズの隣にいる青い髪の毛の女性。ツインテールで髪に癖があるのか所々クルクルしている。肌はツヤツヤでラーズの肩程の低身長、腕や足も綺麗で細い。腰まである白く厚い上着を着用し、中に着こなす茶色の薄着が見える。上着に合わせるように白いミニスカート、そして足には黒いスパッツを太ももから足首まで履いている。
サチコを見て白い歯を見せながら眩しい笑顔を向ける感じから、現代でいうギャルに近いものを感じた
「リーヤだよ!よろしくねサッチ〜。」
リーヤは顔の近くでピースをしながら挨拶をしてくる。まんまギャルでサチコは少し戸惑いながらもペコペコとお辞儀していた。その様はまさに陽キャ慣れしていない陰キャだった。
「んで、こいつはエンスっていうんだ。」
次に紹介されたのは短い茶髪の薄目の男性。肉付きのある男性とは違い、モデル体型のようなシュッとして高身長な人だった。科学者のようなブカブカの白いコートは足元まで伸びきり、清潔感溢れ、街中にいたら必ず振り返ってしまうような顔が整った男性だ。
「どうもサチコちゃん。何やら新天地出身なんだってぇ〜?とっても興味深い、後で話を聞かせておくれよ?」
エンスは片手を顎に置きながら顔を傾げてそんな事を言う。何処か色っぽく感じ、内心ドキドキしていたサチコだった。
「それに最後はノトレムだ。」
ノトレムと呼ばれる人物....否、大きなガタイと全身に緑色の鱗、大きく剥き出しになっている牙、黄色の獣のような瞳。人との共通点は二足歩行とズボンを履いているだけ、蜥蜴人だった。
「サチコ・マエダ.......」
ノトレムは大きく重量感溢れる足音を出しながら列を外れてサチコの目の前に立った。ギラッと光る眼光と威圧感で押し潰されそうになり、涙目になりながら小さくサチコは震えた。
「は、はいぃ...」
「.......宜しくね、サチコちゃん!僕は蜥蜴人のノトレム!よろしくね!あ、これサチコちゃんが来るって聞いたから菓子作っておいたんだ!小腹がすいた時に食べるといいよ〜。」
ノトレムは目も口元も緩みきってサチコの手を握ってポケットからクッキーのような菓子が入った布袋を渡してくれた。握る手、そして先程から頭を撫でているノトレムの手は、第一印象から感じられた威圧感は完全に消えて心地いい優しい手つきだった。
クッキーも色々な動物の形に切り取られておりとても可愛らしく、緊張が解けたせいか、サチコも凄くテンションが上がっていた。
「え!いいんですか!?こんな美味しそうなもの頂いちゃって...」
「あぁ良いとも。気に入ってもらって嬉しいよ。これから困ったことがあったらなんでも相談してね!僕達は家族なんだからね!」
咄嗟に出てきた"家族"というワードにサチコは目を丸くする。ノトレムを見るが、彼はニコニコしているので聞き間違えではないと思い、バルガードの方に目線を向けるが、彼も微笑んでいた。
「そうさサチコ、俺達の成し得る事は簡単じゃない。色んな困難がこれから待ち受けるだろうが、俺達にはこの世界のどの組織よりも強く太い絆がある。
お互いを支え合い、血縁を超えた繋がりが俺は大事だと思ってるからな。」
「.......家族。」
そう呟きながら自分の家族にあたる人物達を思い出した。
産んでくれた両親に二つ上の兄、両親には産んでもらって感謝していると言っても正直、サチコは心の底から感謝などしていなかった。
生まれてきてよかったと、心から思ったことがないから当然のことである。
そして、兄に対しては尊敬の念は少しばかり存在していたが、恐怖の対象だった。いじめっ子三人や両親とは違うベクトルの怖さ、自分がどうなっても関係なし、もっと落ちていろと目で何度も訴えかけられていた。
家族に対しては暗いイメージしか浮かんでこなかったが、今目の前には新しく家族に迎えてくれてる人達がいる。
それぞれがどんな性格でどのような物が好きなのか分からない。だが、少なくとも日本にいた時よりもずっと良い関係を築けると確信的にサチコは思っており、ニコッと笑った。
「私....これから一生懸命頑張ります。皆さんの背中に追いつけるよう、努力するのでこれからよろしくお願いします!!」
サチコは声を張って頭を下げ、バルガードも微笑みながら頷いていた。
「あぁよろしくなサチコ。まぁ、これで一応顔合わせは終わったんだが....サチコ、帰ってきてすぐで悪いが仕事だ。」
「え!?もうですか!?」
ギルドに来てから暫くは休めると思っていたサチコは目を丸くしてバルガードに尋ねる。バルガードはから笑いしながら一枚の紙を取り出した。
「あぁ。俺的にはもう少し落ち着いてからの方がいいと思ったんだが、ロアさんに強く推されてな。まぁ根負けしちまった。」
「当たり前です。サチコ様が熟練者なら少し休んでも問題ありませんが、まだ半人前。教育の感覚が少しでも身体に残っている内に現場へ出た方がいいです。」
――そ、そっかぁ〜。まぁロアさんの言い分は分かるけど、休ませて欲しかったなぁ〜。
...大きな不満が出てこないのはロアさんのスパルタ教育で神経が麻痺してるのかな?良いような悪いような....
肩をガクッと落としてため息が出そうになるサチコだったが、ある事が気になりすぐに質問を投げかける。
「あ、あの!"現場"って...まさか.......戦場...なんですか?戦争の手伝いとか....」
そんなことを聞くとバルガードが黙ってジッとサチコを見つめた。この行為で嫌な予感が的中したかと思ったが、バルガードはそんな不安をかき消すように笑った。
「ハハッ、何言ってんだサチコ?流石にそれはないぞ。サチコにまだ実戦っていう実戦は早いからな。軽い仕事だから肩の力抜いてもいいぞ?いくらロアさんが鬼でもそこまで人情無くしてるわけじゃ」
バルガードは笑いながら話していたが、ロアがジッとバルガードを見詰めているのに気が付き、目線が合うとガタガタ震えて何度も小さい声で謝っていた。
それでもロアは目線を外さず、バルガードは真っ青になって項垂れていた。
――勝手に地雷踏んで勝手に自滅してる...バルガードさんはロアさんに頭が上がらないのかな?関係性としてはバルガードさんの方が上の筈だけど....




