オマケ壱・ロアの例え表現
聞いた言葉、覚えたい言葉を紙類に書き込み記憶する。学生ならば誰しもが行う行為であり、学生の仕事とも言えるだろう。多くの者はこの仕事を嫌っており、これを好き好んでやる者はそう多くはない。
それは社会人になっても同じ、ジャンルは違えど殆どの者は仕事を好き好んでやりたくはない。この仕事が楽しい、この仕事をずっと続けていたい、そう思えるのは本当に僅かな人間。
そんな僅かな人間の心境をサチコは身をもって味わっていた。ロアの教育期間内での必要知識の習得。それは殆ど学校での授業と変わらず、ロアが知識を語り、サチコはそれを紙に記す。
サチコは親に認めてもらうため必死に勉強していたが、それを好き好んではいなく、寧ろ大嫌いだった。努力に沿わず結果は着いてこず、いい成績をとっても継続し続けなければ意味をなさない。
そんな遠回りの努力にサチコのモチベーションはダダ下がり、勉強を嫌悪していた。
だが、今のサチコはそんな大嫌いな勉強をしたくてたまらない。覚えなければ異世界に対応出来ずに時には命に関わる、そんな理由も勿論あるが、異世界についてサチコは興味津々だった。
現代の日本では存在しない生物、存在しない知識、そして魔法。まるでテーマパークを訪れた子供のようにサチコは夢のような時間を過ごしていた
「.......と、まぁ段階魔法にはこのように数多く存在します。当然段階が上がれば上がる程魔法としては強力、そして習得が難しいものです。ですが、時と場合にとっては、段階四の魔法より段階二の方が役立つことも有り得ます。」
サチコはロアの語った知識を必死に紙に書いていた。目をキラキラ輝かせ、脳に理解させてるのか頷きながら執筆、同時に浮かんできた質問もロアに問いかけた。
「つまり、段階が高いのを集中的に覚えるのは間違ってるって事ですか?」
「えぇ。重要なのは威力ではなく数、個性魔法が優れない者は時間がかかりますが段階が高い魔法を重点的にやります。ですが、サチコ様の場合かなり強力故、戦法を幅を広めるためにした方が良いでしょう。
元々、段階魔法は補助のようなもの。イザゼル帝国の兵士ですらそこまで極めようとはしません。」
「そうなんですね...イザゼル帝国の兵士さんはどこまで習得したりしてるんですか?やっぱり最大の段階六を使ってる人も?」
サチコの質問にロアは空を見つめ、顎を触りながら思い返していた。
「...まぁ、居ますよ。ですが、ほんの数人程度です。私が知る中だと確か二人居たはず....」
「え!?そんだけしか居ないんですか!?そんなに難しいものですか?」
「習得する魔法にもよります。これは段階魔法全てに当てはまりますが、自分にとってやりやすいかどうかもあります。
私も習得していますが、やりやすい部類でもだいぶ難関でしたね。」
サチコは「へぇ〜」と声を漏らしながら執筆し続けるが、あることに気がつき手を止めてしまった。
「習得してるって....段階六ですか!?」
「えぇ、十種類あると言われている一つは。まぁ....あまり効率的にいい魔法ではないので、普通に個性魔法使った方がいいのでほぼ使いません。
さながら..."ボロボロの倉庫に重宝されている壊れかけの剣"と言った所でしょうか。」
ロアの言った例え話でサチコは目を細め、頭を抱えた。
必死に解こうと思えば何を言いたいのか理解できるのもあるが、解き明かすのには時間がかかり、分かりやすくするための例え話がまるで逆効果だった。
サチコは頭で解読しつつ、別のことでも悩んでいた。
――ロアさんなんでこんな例え話下手くそなんだろ...そりゃあ人には苦手は存在するだろうし、おかしな話じゃないんだけど、教えるの上手いし知識も豊富なのに例え話が苦手なんて違和感が....
本人に直接問いただすことは当然できないサチコは一人悩んでいた。きっと解けないと感じていた難問だが、ふとサチコはその回答のようなものを浮かばせた。
――もしかして...わざと?私を悩ませるため?違う、それじゃあ教育の意味が無い。なら...え!?もしかして....私と仲良くなりたい...?変な冗談言って距離詰めるみたいな?そ、そんな訳ないじゃん!!こんな根暗な私と!で、でも...
サチコはチラッと恋をしてる人間のようにロアをチラ見する。ロアはそんな目線を向けてくるサチコに無表情ながら少し困惑していた。
――もし、本当にそうだったなら私はどうすればいいんだろ?ストレートにつっこむのは何か失礼っぽいし...そうだ!私も同じステージに立てばいいんだ!!お互い冗談を言い合える、そんな仲をロアさんは求めているかもしれない!!
「.......先程から何をチラチラ見ているのですか?」
「へ?あ、す、すいません。ちょっと分からないことがあって....」
「分からないことがあったら遠慮せず聞きなさいと言ったでしょう?ただでさえ新天地出身なのですから、分からないことだらけでしょうに。」
ロアはため息を吐き零しながらそう言うと、サチコは唾を飲み込んで意を決し、発言した。
「い、いや〜聞きたいのは山々なんですけど、何から聞いたらいいかって...そ、そうですね〜例えるなら..."目次すらない怪文章のような魔法辞典"ってところですかね!」
「..........何意味のわからないことを言っているんですか?そんなくだらないことを考えている暇があったら知識を覚えるのに集中しなさい。」
「はい....ごめんなさい.......」
「大体貴女は知識を身につけるのが遅いですし、集中力も継続しないのですから余計な事は考えないで下さい。身体作りや体術の時だけよく身につければ全てヨシだと思っているのですか?ならこの知識もただのオマケ、囁かながらの休息だと勘違いしているのですか?
いえ失礼、勘違いではなくそうなのかもですね。でなければそんな発言が出来るわけがありませんからきっとそうなのでしょう。ですが態々貴女の為に時間を割いている私の身にもなって欲しいです。世界の常識から何もかも分からない相手に一から教え、勉学になると途端に要領が悪くなる貴女は小さな子供に教える以上に手間がかかるんですよ?
そんな貴女の為に分かりやすく伝わるように私が例え話を交えて説明しているのに、今必要も無い下らない事を考えるその思考力を勉学の方に入れて欲しいですね。そうすれば幾分かマシになるはずなのですが、そうでしたね。貴女はこの時間が一時の休息という認識をしているかもしれないんでしたね。
いいですか?一つ言っておきますがこんなのは常識も常識、この先に話さなければならない事が山ほどにあるんですよ。しかもその他にもまだ出来損ないの体術や魔法修練に時間を割くので更に時間は狭まるんです。なのでこの時間が如何に重要なのかは言うまでもないでしょ?それが分かったら下らない事を考え、この時間を休息と勘違いしてしまった自分を恥、戒めにしなさい。
それに加えて貴女は...........」
仲良くなりたい、ただ一心で起こした行動の結果はこんな調子で話し続けるロアの一時間にも及ぶ説教だった。




