第三の試験
数十分後、泣き止んだサチコは目をゴシゴシ拭き取りながら小屋に入った。
中ではロアが椅子に座って本を読んでいた。片手でページを開いてもう片手で肘をつき、足を組んで読書をしており、声を掛けていいかサチコは迷っていた。
すると、自然とロアがサチコのことに気がつき、本をゆっくり閉じて着いてくるよう指示する。
サチコはロアの後を追い、小屋の外を出て森へと入ってく。三ヶ月前のロアとの戦闘を思い出し、サチコは身震いをしてしまった。
しばらく歩くと、小さい物置が見えてくる。ロアはその物置でゴソゴソと何かを漁り、大きな袋を取り出す。
人一人入りそうな大きさで、中には何かが詰まっている。
ロアはそれをサチコの前に放り投げ、サチコの目の前で開封する。
すると、そこには見たことも無い男性がいた。
手足を縛られており顔のアチコチには痣、服もボロボロで水気のあるものを飲んでないのか唇や肌がカサカサだった。だが、まだ微かに息が聞こえ、衰弱してはいるものの生きていることはわかった。
ここで問題なのは何故サチコの前にこの男性を用意したということ。サチコは嫌な予感がして、冷や汗かきながらロアに目線を向ける。
「こ、この人は....」
「...国の上級国民です。二ヶ月ほど前、下級国民の女性を襲っていたところ、偶然私が見掛けて確保しました。今から行ってもらう第三の試験に適している存在、状態と思いましたので。」
ロアはサチコに近寄り、銀色の短刀を手渡す。サチコは思考が纏まっていない状態のまま何となく受け取る。
「サチコ様、第三の試験...及び最終試験を始めます。この短刀でこの男を殺してください。」
「....え?」
「魔法を使うことは禁止します。己の手でこの者を殺傷して下さい。やり方は貴女に任せます。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!な、何で私がそんなこと!」
サチコは追いつかない頭のまま彼女に質問する。突然言い渡された重大なことに戸惑いを隠すことは出来なかった。
「"何で私が"?それは貴女の試験だからですよ。」
「それはそうですけど...でも、意味がわからないです!この試験はなんの意味があるんですか!?」
「第二の試験終了時、サチコ様は八割程信頼しております。残りの二割の為、そして人の殺傷に慣れてもらうためです。」
「.......慣れ?」
ロアはサチコとの距離を縮め、殆どゼロ距離まで近付いた。お互いの息が聞こえ肌で感じる程の距離、一見心高鳴ってしまうような距離感だったが、サチコの目を見るロアの目が緊迫状況を維持していた。
「サチコ様、貴女は我々の活動....復国軍がこれから行うことを明確に理解出来ていますか?」
――どういうこと?復国軍の活動って平和だった国を復活させる事に関することだよね?国に関してはステアさんに色々教えてもらったし、その時はロアさんも聞いているはず。
ロアさんは私に何を...
ロアの質問に対して正解がわからず、口に出そうで出なかったサチコだったが、ロアが続けて話をしてくれた。
「恐らくサチコ様は復国軍についてはいい印象をお持ちでしょう。世のため人のため、明るい未来を築くために行動する。二つの国のような差別的ではなく平和的な国、争いのない国を作ると。」
「だ、だったら」
「ですが、それが全てではありません。良く考えればわかること。我々は二つの差別国家を潰して新たに王国を建設させようとしている。つまり争いが....私達の理想の為に本来しなくていい殺し合いをする。...我々は一つの戦争を引き起こそうとしているのですよ。」
サチコは言葉が出てこなかった。シアラ達から聞いた世界の現状は良くなく、それを変えるために平和な国作りをする。しかし、サチコにとってこの戦いは戦争に結びつけていなかった。戦争とは残虐非道で悪いイメージが強く、復国による戦いは良いイメージがまだあった。要は想像力が足りなかった。
故にバルガードの誘いにも喜んで受けたし、ステアの話も何の違和感もなく聞き入れた。だが、よくよく考えればロアの言葉が当てはまる。
――私達は....一つの戦争を.......
「戦場で人の生き死にビクビクしてる兵士は、態々高い場所に貴重品を置いて取れなく困っている若者のように役立ちません。そして、それらの兵士をカバーできるほど復国軍は余裕が無い。
さぁ、覚悟を決めてください。我らの力になりたくば、早い段階で慣れた方が良いのです。」
ロアはサチコが持っている短刀と共に手を握り、サチコに短刀を握らせた。
それでもまだ思考が追いつかないサチコに対して、ロアは倒れている男に目を向ける。
「この男は暴行・拷問により情報は吐かせ終わりました。その際、我ら復国軍のことも耳にしているのでこのまま帰す訳にもいきません。
貴女が男を殺さないと決めるならそれもいいでしょう。その後、しっかり私がこの者を処分し、貴女への信頼は一気に無くなり試験失敗。当然、貴女も処分対象です。」
思い出す第一の試験、苦しくて辛くて痛みに染った出来事にサチコは小さく震える。
「さぁ、分かったのなら早く終わらせましょう。貴女が我らの仲間になる為、信頼される為に。さぁ....」
ロアに促され、サチコは目線を倒れている男に向ける。息も弱々しく、このまま自然に亡くなってもおかしくない程の衰弱。サチコはゴクリと唾を飲み込み、自然と手に持っていた短刀にも力が入る。
――この人は結局生きることが出来ないんだ。私が手にかけようと手にかけなくても...だったら、私がやった方がまだいい....それにこの人は今も苦しんでる...きっとそう。だから、私がこの人を助けなきゃ。
サチコはゆっくりと短刀を振り上げ、その男の命を断ち切ろうとする。だが、振り上げてからサチコの手と意思にブレーキがかかる。
動画の一時停止のようにピタリと止め、思い直していた。
――違う!やっぱりこんなの間違ってる!慣れた方がいいのかもしれない...だけど!
「.......できません。」
「そうですか、残念ですサチコ様。それでは約束通り貴女と男を私の手で処分させていただきます。
言い残すこととして、何故その決断をしたか教えて貰ってもいいですか?その男と何かしら面識が?」
「違います...私はこの人を知らない....だけど、こんなのおかしいですよ。人を殺すのに慣れが必要なのは分かります。ですけど、この人を今ここで手にかけるのは納得いきません!」
サチコはキッとロアを睨みつける。ロアはやはり無表情だったが、サチコはそれでも彼女に訴えかける。




