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サチコの作戦

 ロアは獣のように変形している右手を更に別の形へと変形する。右手が五つの筒に姿を変え、それぞれが青色の光を怪しく光らせる。

 サチコは息を呑んだ。緊張、不安を感じながらも、彼女は決意を固める。



 ――チャンスは一回きり...ちょっとしたミスも許されない、完璧じゃないといけない....

 私は今まで何事も完璧にこなせた試しが無い....だから正直自信は無い。けど、それで立ち止まれない。立ち止まる理由にはならない。



 「...段階二・煙(レベル二・スモーク)!!」



 サチコは両手を地面に向けて広げ、黒い煙をその場で発動。サチコはたちまちに煙に包まれ、ロアは少し距離を離して様子を見る。



 ――ありきたり....いや、当然の行動。こんな更地での中〜遠距離戦。現段階で彼女にそんな戦いは出来ない。



 「....なら、そうするしかありませんよね。確かに姿形は見えなくなりましたが、それで私が攻撃を止めると思ったら間違えですよ?」



 ロアは右手の筒を黒い煙にゆっくりと向けると魔力を集中させ、青い光、機械音が比例して大きくなっていく。

 殺さぬよう、しかし無事にすまぬように力の調節を行っていると、煙からサチコが持っていた短刀が猛スピードで飛び出る。


 ロアは身体半歩、当たり前のように横に避ける。見た目はかなり余裕のある感じだったが、ロアの内心は少しだけ驚きを感じていた。



 ――まさか今用いる武器を放つとは...確かに選択肢としては有り得る話、ですが彼女はもっと慎重派と思いました...



 そして次は黒い煙からサチコが飛び出し、何のフェイントもなく直線でロアにかけていく。

 調整は既に終わらせていたロアは、すぐに筒をサチコに向けるが、発射直前にあることに気がついて攻撃を止める。


 サチコの右手、親指と人差し指で何かをつまんでいるような形になっていた。

 つまでいる物は見えないが何かをつまんでいる、ここでロアはサチコの行動に合点がいく。



 ――彼女の習熟度と照らし合わせると、予測し得るのは細くて頑丈な糸...|段階三・硬化糸《レベル三・ロックストリング》。短刀に絡みつけ、私を拘束させるのが目的ですか。

 成程、少しは考えたようですね。しかし、読めてしまえばなんということは無い。除去するか、利用するか、煮ようが焼こうが好きにさせてもらいます。



 サチコはロアとの距離を四m程近付くと、摘んでいたものをグッと手で掴み、ロアの身体に糸が当たるように勢いよく横へ引っ張る。

 だが、サチコの魂胆を見切っていたロアは左手の大きな刃でそれを切り裂く。


 しかし、そこにはロアの想定した糸は無かった。何かが切れる音も感触もなく、ロアの思考が一瞬停止する。



 ――まさか、フェイント?



 するとサチコは右手に魔力を集中させ、思考が止まっていたロアもすぐに意識を向けた。

 サチコは歯を食いしばり、自分に溜まっていた魔力を全て集中、右手を勢いよく翳し、黒い禍々しい魔の波動を打ち込む。


 だが、それは意図的なものか否か、ロアの頭上に波動が打ち込まれ、ロアは身をかがめてそれを避ける。

 ロアが想定していなかった展開の流れに思考がまともにまとまっていない隙に、サチコは更に距離を縮める。


 大きく飛び跳ねて一気にロアに接近する。

 対してロアは左手の刃をチラつかせ、サチコを返り討ちにしようとするが、サチコがいつの間にか握っていた左手を勢いよく横へ振ると、ロアの右足に何かが引っかかり仰向けに倒れてしまった。


 サチコはロアが地面に背を着かせると同時に馬乗りをし、爪を立ててロアの首元に手を伸ばす。ロアはまとまらない思考のまま、左手の凶器をサチコの喉元へ伸ばす。



 だが、二人とも攻撃は未遂。寸前で止まった。



 先程までの荒々しい音は消え、サチコの息切れだけが聞こえる。汗がポタポタと無表情のロアの額に当たり、苦しそうにロアを見詰める。

 ロアもじっと見返していたが、ゆっくりと目を閉じて息を深く吐いた。



 「...本命は左でしたか。私としたことが....」



 「ロアさんなら....絶対に気が付くと思ったから...わずかな動作を見逃さずに対処すると思ったから....左手に意識を向けさせないために少しわざとらしく右手を...」



 「そうですか....私の頭上に放った魔法も私の動きを?」



 「はい....三ヶ月前、ロアさんに襲われた時のことを思い出して...ロアさんは空の移動もしていたって。そうなったら、私はどうすることも出来ない....」




 「成程、これで八割の疑問は解消されましたが、これについて疑問が残ります。」



 ロアは既に元の手に戻していた右手で自分の喉元に伸びているサチコの手を指した。



 「私は貴女の教育係、貴女との実力は大きく離れ今回は貴女の殺傷ではない。故に致命傷はさせない。

 ですが、貴女は何故攻撃を止めたのですか?これで私の息の根を止めてしまうとお思いですか?私に気を遣う程余裕があったのですか?」



 サチコはロアから目線を外さずゆっくりと息を整えていた。飲み込みずらい唾を飲み、ゆっくりと口を開く。



 「...三ヶ月前、バルガードさんに言われたことを思い出したんです。」




 「バルガード様に?」



 「『ロアさんの過去を聞かないこと、表情を崩させない』って....それがどれだけ重要なのか分からなかったけど、ロアさんに踏まれていた時に私が(スモーク)を使った後、ロアさんは真っ先に足を外した。

 それは足を攻撃されて表情が変わることをおそれてたんじゃないかって...だから、きっと絶対に守らなきゃいけない約束なんだって思って...」



 「..........」




 「私の目的はロアさんを倒すことじゃない...認めてもらうことです。お願いしますロアさん。私の事....認めて下さい!」



 サチコは今にも泣きそうに弱々しい表情でロアに懇願する。否定された場合のことばかり頭に過り、息をするのも辛くなる。


 現代で決してされることはなかったサチコ自身への尊敬や信頼、全くの無縁と思って諦めていたが、だからこそサチコはそんな時が来ることを夢に見、憧れていた。

 だからこそ、それが現代で失敗する度心が折れそうになっていた。


 そんなサチコの心情とは裏腹に、ロアは相変わらずの無表情でサチコの目をじっと見る。



 「.............フンッ」




 ロアはサチコを鼻で笑った。サチコは顔を固まらせ、小さな声を漏らした。鼻で笑われた、それだけで結果は明らか、サチコは負の感情に押し潰されそうだった。



 ――また....またダメだった。私って何でこんなにダメ人間なの?親は凄い人でお兄ちゃんも頭がいい。なのに....なんで私だけ....



 今にも崩れ落ちそうだったサチコだったが、ロアから思いもよらない言葉をかけられた。




 「失礼、昔からの癖で...何せ、喉元に攻撃の意志を留めたまま下手にお願いされたのは初めてだったもので。」



 「え?あ!ご、ごめんなさい!!」



 サチコは手を引きながら勢いよく立ち上がりロアから離れた。ロアは左手を元の姿へ戻しながらゆっくりと立ち上がり、服の砂埃を叩いた。




 「こんな形になった以上、試験は終わりとさせてもらいます。試験を通して感じたことですが、サチコ様。


 まず咄嗟のことに反応できていなくて気持ちからして入るのが遅い。

 身体能力全体的に基準としては低く、すぐに息を切らしてしまう。

 詰めも甘く、反撃やトドメを差せれるタイミングが数えるのを諦めくらい多かったです。魔力も使い方が荒く、失敗した場合のことも考えていないのも欠点です。」




 相変わらずの容赦のない言葉の攻撃にサチコは目線を下げて手を握り、必死に目から出そうな涙をこらえる。



 「....しかし、発想力は中々にいい線いっています。貴女の個性魔法(オリジナルマジック)も強力と思われますし、イザゼル帝国の一般兵士よりかはいい働きが出来ると思います。」



 「...え?じゃ、じゃあ!」



 「そもそも、あそこまで追い込まれておきながら失格など....そこまで私も子供ではありません。サチコ・マエダ様。第二の試験合格です。お疲れ様でした。ですが、改善余地がまだまだあるのも事実。この程度で満足しては我々のちか」



 ロアの言葉が止まったのはサチコがその場で座り込んでしまったからだった。両手で口元を隠してボロボロと大粒の涙を流して声を抑えている。



 「...何を泣いてるんですか?」



 「だって...凄く嬉しくて...ぅぅ...人に認めてもらうなんて...初めてで....ごめんなさい......すいません......」



 「.......私は小屋に戻っています。気持ちが落ち着いたら来てください。急がなくて結構、嬉しいのなら思う存分感じて下さい。それが...感情を持ち得る者の特権であり、宝なのですから。」


 

 ロアはそれだけ言い残すと小屋へと歩いて行く。

 溢れ出てくる嬉しさは涙に変わり、サチコは思う存分泣いた。

 長年夢見てきていた、人から認められるという課題。家柄関係なく、サチコ自身を一人の人間として認められた、早く泣き止もうと心の中で何度も思うが溢れ出てくる涙を止められない。込み上げてくる歓喜を抑えられなかった。


 涙で埋まっていく視界で両手を見つめ、ギュッと握りしめるサチコだった。

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