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不運の呪い

 まるで砂の山に棒を刺すように、慎重にゆっくりと刺していく。

 サチコの意識がハッキリとしてくるが、あまりの激痛にそれ以外の事は考えられなくなった。



 「痛っっっっっ!!あああああッ!!」



 「でも仕方がないで済まないのが戦闘、戦場というものです。今の貴女はイザゼル帝国の兵士一人分にもなりやしない。ただの足でまとい、邪魔者にしかならない。」



 刺された痛みが今度は横へスライドされるのが感覚で分かる、これもまたゆっくりとロアがサチコの背中を切り裂いているのだった。

 サチコは痛みで意識が吹っ飛びそうだったが、ロアの一言が頭に残り、走馬灯のように思い返した。



『何でアンタみたいな頭の悪い子が産まれたのよ!本当に私の子供なのアンタ!?』



『私に恥をかかせるような点数をとって...情けなく思わないの?こんだけ言っても点数変わらないのは必死になってないからよ!あの人だってまだ多少マトモな筈なのに....これからは学校から帰ったら寝る直前まで勉強しなさい!!』



『お前さ、何のために産まれてきたの?母さんが可哀想だ。母さんがお前を身篭った途端、父さんが死んだんだ。お前疫病神だろ?さっさと死ねば?邪魔者でしかねぇんだよ、お前なんて。』



 ふと思い出してしまう苦しい日常、家族からの罵倒。何故今それを思い返してしまうかサチコ自身分からなかったが、それが逆に力に変わっていく。

 激痛に耐えながらも徐々に起き上がろうとしているサチコに、ロアはピクっと眉毛を動かす。



 ――彼女は今激痛に晒されている。それこそ反撃出来ないような痛みが全身を包んでいるはずなのに、何故立ち上がろうとする?この痛み以上の何かを感じている?



 「ぅぅ....うぅぅぅぅ!!」



 サチコは震えながらも両手で徐々に起き上がっていく。痛みを超える決意がサチコに満ちていき、力が湧いてくる。



 ――嫌だ!もう見放されたくない!!誰も失望させたくない!!私はやるんだ...皆に認めてもらう!私を必要として欲しい!!



 サチコは咄嗟に家族二人から受けた罵倒を思い返した。常日頃から怒鳴られ続け、挙句の果ては最早居ないものとして扱われた日々。そんな生活をさせてきた母親を、兄を、サチコは初めて恨んだ。

 それと同時に徐々に魔力が溢れていく。ドス黒い物が奥底から魔力と共に押し上げ、黒目も光を無くしていく。



 ――お母さん、お兄ちゃん....ごめんなさい...今まで生きてこれたのは少なくともあなた達がいたから。だから、感謝はしてる。だけど、皆に認めてもらうため、今だけは...あなた達を憎ませて....恨ませて...



 「ぅぅう!!段階二・煙(レベル二・スモーク)!!」



 サチコの両手と地面の間から煙が発生し、二人はあっという間に包まれた。


 ロアはサチコの行動に疑問を抱いていた。何を考えているのか検討がつかず、まだ踏み続けている見えないサチコを見つめる。



 ――何故(スモーク)?踏みつけられている以上、視界を外しても意味は無い。この魔法はあくまで目隠し、敵から姿を見えなくするのが目的とされるのですが...もしや....



 ロアは嫌な予感がし、万一があってはならぬと足を退け、両手を左右に広げる。



 「段階二・疾風(レベル二・ウィング)



 ロアの両手から瞬間的な突風が発動される。その風は辺りの煙をあっという間に消し去り、視界が晴れていく。


 目の前には距離を離してすぐに立ち上がり、息を切らしているサチコの姿があった。

 彼女は口元の血を片手で拭き取りながらロアの目をじっと見つめている。だが、それは集中だけでなく何かを考えているようにもロアは感じる。



 「...足が外れたらさっさと攻撃すれば良かったのに、何を躊躇しているんですか?」



 「はぁ....はぁ...そんな余裕なんてないですよ....目の前の事で精一杯で...」



 「....なるほど。ならば、もっと余裕を無くしていきましょうか。貴女に何があったか検討付きませんが、魔法を使えるとなれば、それなりの戦闘を出来るのでは?

 ...個性魔法・魔兵器調和オリジナルマジック・メカニズム



 ロアの両腕、両足が銀色へと変化していく。そして機械音と共に変形していく。

 脛は細い金属の二本の棒だが、足首から下は三本指の大きな鳥のような形、太腿は普段より太くなって重音が聞こえる。

 脇から手首までは無数のナイフが周りに生え、手は猛獣のように爪が鋭くなっている。


 重心を深くし、今にでも襲いかかってくるように感じさせるロアにサチコは身構える。


 サチコはそれに応じるように頭の中で辛い経験を思い返し、その度に家族を憎み続ける。

 少なくはあるが徐々に魔力が膨れていき、サチコはグッと拳を作る。



 ――あの時....この世界へ来たばかりの時のあの感じを思い出せ...今はあの感じが必要なの....あの霧が欲しい...



 サチコの強い願いに応えるかのように、身体を満たす魔力が溢れ出し、霧へと化していく。

 ロアは当然サチコの危険性を理解していた。たが、いざ目の前にするとサチコの魔力の大きさと禍々しさに冷や汗をかいてしまう。


 ロアはようやく一歩踏み出し、辺りを覆う薄い黒い霧へと侵入する。すると突然目眩と吐き気、体調が劇的に悪くなる。ロアはすぐさま魔力を器用に扱い、体内に魔防を敷いた。


 魔防とは防御魔法とは違い、魔法だけに対する鎧のような物。保護具のようなものだ。


 防御魔法のように完全にダメージを遮断することは難しいが、ある程度抑えることは出来る。最も、実力が離れていれば魔防だけでダメージを受けないというケースもあるが、ロアとサチコの力の差はそれ程開いていなかった。


 ロアは魔防によって顔を保つことに成功するが、相変わらず少しだけ気分が悪く身体全体にだるさを感じる。



 ――報告書には目を通してありましたが成程、今の私には中々厄介な魔法です。こうして魔防を張っていても魔力が消耗するだけ....今回は殺す事が目的でないだけに扱いが難しい、近距離での戦闘が不利なのは一目瞭然。



 「....中〜遠距離戦といきますか。貴女にとってやりずらいとは思いますが、それも」



 遮蔽物の無い更地の戦闘、そこでの中〜遠距離戦闘はロアにとって好都合。だが、これはあくまで試験。サチコの成長を見るのが真意なのだが一方的な展開になってしまうと悟ったロアはあまり気乗りしなかった。


 だが、それはすぐに甘い考えと悟ることになる。

 言葉を止めてしまったのはサチコの目付きだった。漆黒の瞳でロアを捉え、瞼を細めて睨み付けている。

 それと同時に冷たい殺気がロアに向けられた。目に見えない殺気という名の刃物が突き刺さり、ロアはブルっと震える。


 その殺気の影響か、ロアは足に力を入れてサチコの接近を想定して身構える。


 足に力を入れた瞬間、地面を踏み締めた筈の足裏は地面を滑り、ロアは前に転んだ。

 そして真っ先にロアの目の前に飛び込んだのは、先端が尖っている地面に落ちていた小石だった。



 ザクッ!



 確かに刺さった。音はハッキリと聞いていないが、ロアがうつ伏せになってから動いていない事にサチコは慌てていた。自らが望んだ力を出せたが、そのコントロールがまるで出来ていない。



 サチコは急いでロアの元へ駆け寄ろうとしたが、ロアはバッと立ち上り、霧の領域から離れた。頬からは血を垂れ流しており、左手に付いた血液をジッと見る。



 ――成程、このような性質ですか。"呪い"と括ったはいいですが、具体的な効果は知らなかった。さっきのは偶然ではなく、魔法の性質。

 彼女の意志、私の魔防で程度は変わるようですが、些細な事で傷害を負ってしまう。



 「これ一つとは思えませんがこの現象...不運の呪い(アンラッキー)とでも呼びましょうか」


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