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第二の試験開始

 サチコは何時もの時間に目覚めて服に着替え、毎朝のトレーニングにだるさとため息を吐きながら外へ出ると、いつもなら朝食作りや魔獣を寄せ付けない結界魔法の管理をしているロアが両手を前にギュッと握りながら待っていた。

 服はいつも着ていた上着やズボンではなく、薄着も今までとは異なり半袖短パン、動き易い格好になっていた。



 「あれ?ロアさん?どうしたんですか?」



 「サチコ様。およそ三ヶ月という今日まで、私の指示に文句を言わず、誠実に取り組んで頂きありがとうございました。

 時よりギルドの仕事で私が空けている中、こっそり魔具による監視もしていましたが、サボることなく実行してくれていた貴女の真面目さには感服致します。」



 「え?あ、こちらこそありがとうございます...」



 ロアの切り出しにまだ理解が追いつかなく、サチコはぺこりと頭を下げる。



 「その努力が実ったか否か、今判断したいと思います。この教育で身につけた知識、魔法、体術を駆使し、私を納得させてみて下さい。道具も配布します。この短刀をお使い下さい。」



 ロアは胸ポケットから取り出した短刀を投げて、サチコの足元に突き刺した。教育中には木で作られた短刀を使用していたので、銀色に輝く本身を持つのは変な気分だった。



 ロア自身も自前の短刀を抜き取り、その本身をサチコに向ける。



 「私は今から貴女を攻撃します。貴女がどんなに悲痛な叫びを出そうと決して手は緩めません。貴女の身体をナイフで、体術で、魔法で徹底的に痛めつけます。

 そしてサチコ様はそれに対応し、私を殺すつもりで攻撃して下さい。そうでもしなければ私を納得させるのは程遠く、傷一つつけられません。」



 「え?そんな急に...」



 「因みにこれは第二の試験となります。合格は私が納得する。不合格は貴女の戦闘不能です。それでは、開始致します。」



 「そ、そんな。ちょっと待っ」



 サチコがタジタジしているのもお構い無し、ロアは地面を蹴りあげ、一呼吸つけるうちに接近。短刀を大きく振り下ろし、サチコは慌ててそれを受け止める。

 教育でも何度も木の短刀でやっていた動作だったが、刃が重なる音と重さ、そしてロアの殺気に近い敵意にサチコは冷や汗をかく。


 ロアはその刃に更なる力を込めてサチコの刃を振り払うと、すかさず蹴りをくらわす。

 蹴りはサチコの腹にめり込み、サチコは息と痛みを吐き出しながら後ろに飛ばされる。



 「....戦闘に待ったもクソもありません。殺らなければ殺られる、それが戦闘の大前提だと教えた筈ですが?」



 「ゲホッ!ゲホッ!....そ、それはそうですが」



 「次からは容赦しません。体術なり魔法なり好きに使って私を納得させてみてください。」



 まだ体勢が整っていなく、しりもち状態のサチコにロアは持っていた短刀を投げつける。

 サチコは自らの短刀で何とか防ぐことには成功したものの、その間にロアは接近。サチコのすぐ横まで移動していた。


 ロアは見下ろしながら足を上げてサチコの顔を蹴り抜く。右足がサチコの頬に当たり、サチコは衝撃による目眩に襲われたが、蹴られた衝撃を利用して転がり離れ、すぐに立ち上がった。



 サチコはユラユラと揺れている視界でロアを見ながら、蹴られた頬を片手で抑えた。ズキズキと痛みが残り、鼻にも接触したのか鼻血が出ていた。



 「攻撃を防ぐことに意識がいき、次なる攻撃に反応・対応出来てません。教育で何度も言っていた事ですが、すぐさま体勢を整えたのはいい傾向です。学んだ事を思い返し、意識して下さい。」



 ロアは地面に置いてある短刀を取り、ゆっくりサチコに向ける。サチコもようやく思考が固定、短刀を軽く握って目の前のことに集中し、ロアの行動にいち早く反応し対応出来るようにする。


 ロアがナイフを左手で回し始めると、視界端で右足が動くのがわかる。

 それは足を踏み込むのではなく蹴り上げる動作、教育で鍛えた反射神経と感覚でサチコは飛んでくる小石を避ける。


 サチコが動き出したのと同時にまたロアは急接近。

 今度は短刀をサチコの横腹目掛けて突き刺そうとしていたが、サチコはそれを間一髪で躱した。

 お互いの身体が向き合っている状態でサチコはロアの伸びきった左腕を右手で掴んでそれを自分に引き寄せ、左手でロアの顎を掌で斜め下に押す。


 ロアはサチコを軸として回るように地面に叩きつけられるが、空いている手で後頭部を防いで衝撃を吸収。

 それと同時に右足でサチコの横腹を蹴り、痛みで離れたその隙を逃さずすぐに立ち上がり、サチコとの間合いを作った。



 相変わらず集中していたサチコだったが、教育の成果が見えてきて心がふわついていた。



 ――何だか自分の身体じゃないみたい。身体が軽くてこの集中力、さっきのだって咄嗟にスムーズに出来た。教育で教えられてやってきた事だけど、こんな実感が湧くのは初めて....私、生まれ変われてる。



 そう思えば思うほど集中力は増し、この試験を合格する意思が固くなる。ロアを睨みつけるように見ていると、ロアが指で『仕掛けてこい』と挑発してくる。


 それに応じてサチコは前へ右足を踏み出す。それと合わせるように短刀を、ロアが短刀を持っている左手首目がけて突き刺す。

 それに応じてロアが手を引いて避けると、サチコは腰と腕を捻り、ロアの首元へ短刀を振る。


 ロアは半歩下がりそれを避け、何歩か距離を放す。



 「....そうです。それが正しいです。短刀は急所狙いが定石、そして私相手にも戸惑うことなく出来ることは素晴らしいことです。」



 「ありがとうございます。ロアさんに気遣ってる余裕なんて、私にはありませんから....」



 「そうですか。なら、もう少し戦闘を加速させていきましょう。|段階三・電光《レベル三・ライトニング》」



 ロアから魔力を感じたのと同時に、右の掌から小さい雷がサチコへ飛んでくる。集中していたがいきなりの魔法で反応が遅れ、雷はサチコの左足に当たる。

 左足は後ろへ弾かれ、痛みで顔を顰めると接近したロアの右手が目の前に現れる。



 「|段階三・電光《レベル三・ライトニング》」



 「きゃぁぁぁぁ!!!」



 雷が今度は顔面に当たり、サチコは悲鳴をあげて両手で顔を抑えながら後ろへ倒れた。

 暴れるようにうつ伏せになって手を退けると、血がボタボタと垂れている。文字通り電流が走り意識と視界がチカチカする。顔が焼けるように熱いが、何とか目を開けて息をすることは出来ていた。



 ――これが魔法の力....痛い....



 そんな動揺している暇なく、ロアはサチコの背中を踏みつける。痛みで声を上げたサチコだったが、後頭部に添えられた手を感じると声が止まった。



 「|段階三・電光《レベル三・ライトニング》」




 後頭部に先程の電撃が走る。より脳内をかき混ぜられているような感覚になり、身体に力が入らず意識が更に遠のく。


 サチコは電光(ライトニング)は殺傷能力がないと教えられたが、殺傷能力がない=安全という考えに近い捉え方をしていた事を後悔する。


 身体がピクピクと痙攣し、サチコは先程までのやる気が消失、ボーッと地面を見ていた。



 「...魔法を使い始めたらこれですか。確かに、教育期間は体術が七割型占めていましたし、仕方ないといえば仕方ありませんが....」



 ロアはため息を吐きながらそんなことを言うと短刀を握りしめ、サチコの背中を衣服越しにズブズブとゆっくり刺していく。

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