特別な魔法
「何を言ってるんですか?勘違いしたのなら訂正します。私は"特別"といい"特殊"と言っていません。特別が全て優れているものだと思っているなら考えを改めた方が良いかと。」
「え!?...じゃあ、そんな大した事ないんですか?」
「どうでしょうね。それは魔法の性質で別れますが....取り敢えず、感情型の解説に入ります。感情型は言葉通り、感情によって魔力供給され、魔法を使うことが出来ます。
そして、これからは普通型と比較したメリットとデメリットを説明します。
まずはメリット。一つ目は平均的に魔法の最大値が高く、普通型では辿り着けないレベルの魔力規模を見せつけることが出来るらしいです。以上です。デメリットは....」
「ちょ!?ちょっと待ってください!!え!?メリットがただ魔力が高いだけなんですか!?」
サチコは期待していたのと真逆のような発言に、ロアにしがみつくように言い寄った。普段では絶対にしないこの行動も、浮かれていた分ショックが大きかったから故だった。
「...えぇ。メリットはそれだけです。
デメリットの一つ目は発動のしずらさ。魔法発動に適した感情状態出なければ個性魔法所か段階魔法すら扱えません。
そして二つ目は訓練のしずらさ。これは一つ目と類似しています。魔法すら扱えず、訓練もままならない。例え魔法を使えたとしても、感情の大きさで変化する魔力、自分がどの程度の魔力でどのような魔法を扱えると認識することすらままならない。
そして三つ目は魔力管理が出来ない部分。人間は感情に飲まれて冷静な判断がしずらい生物です。故に、力加減を誤って戦闘中に魔力切れとなるのが容易に想像つきます。
加えて、潜伏や隠密は苦手としています。理由としては、少しでも対象の感情になってしまったら魔力が漏れて敵に発見されます。
四つ目は....といきたいところですが、辞めておきましょうか?」
ロアの容赦のないダメ出しによりサチコの心はズタボロ。いつの間にか身体から力が抜け、手を地面に着いていた。
「...いえ....続けて下さい......」
――数十秒前の私の希望...返して欲しい....
「...四つ目は魔法、或いは適した感情がバレやすいという点です。それにより憶測・対策を建てられやすく、次回の戦闘は勿論のこと、初めて戦う時には既に見透かされて自分に不利な立ち回りをされやすいでしょう。
そんなところですかね。私の見解としまして感情型は手間がかかると感じます。
そして、色々な報告を踏まえ私の目や耳で判断すると、貴女の魔法は"呪い"。そして適する感情は"憎しみ"です。」
そんな言葉が再びサチコを傷付ける。どう足掻いでも希望が持てるような魔法ではなく、忌み嫌われる魔法なのは目に見えていた。
――なんで...こんなんになっちゃったんだろう...私が暗いからなの?....人から尊敬されて憧れるような魔法を使って、人から褒めてもらいたかったのにな〜。
サチコは涙を流しながらから笑い始めた。ズーンと心と身体が重くなり、地面にめり込んでしまうのかと錯覚する程落ち込んでいた。
「....救済の補足をいれるとするならば、対象感情が憎しみで幸運とも言えます。確かに発生は遅いと思いますが、その分相手を憎んだその時は膨大な魔力、安定した戦闘が出来るでしょう。」
「そう....ですか。良かった〜。」
ロアのフォローに少し心が軽くなったサチコ、胸に手を当てホッとしながら何とか立ち上がる。
「はい。実際目の前にしていない人物を対象にしていたのにも関わらず、あの威力を出せるとなると潜在能力は期待出来るのでは無いでしょうか?
例えるなら........"超強力な魔獣の手綱を握る病弱な中年男性"と言うところですかね。」
「なるほど...」
――.......???????
勢いに反応したサチコだが、ロアの例え話が全く分からず頭の中は"?"で埋め尽くされていた。表情も固まり、必死に頭の中で解読しようにも更に混乱するだけだった。
――ん?どういうこと?病弱な中年男性??なんでそんな人が出てくるの?
「...分かりずらかったですか?なら....もっとわかりやすい例えは...そうですね....
"超絶優秀な兵士が装備を失い、裸になって敵兵士に土下座している"と言った所でしょうか。」
「...なるほど、よく分かりました。ありがとうございます。」
――余計に意味わからないよ....これ以上突っかかるとまた意味不明なこと言われそうだから納得しとこ...
冷静沈着で徹底主義の完璧人間、そんな印象をロアに感じていたサチコだったが、少し抜けている所も見えて若干安心した。
「それなら良かったです。なら、これからすべき教育順番も見えてきます。
一に体術。二に知識。三に魔法です。」
「一に...ってことは体術が最優先?何でですか?」
「魔法もろくに出せないとなると体術しかありません。知識など後の産物、目の前の事を最低限処理できる戦闘能力が必要です。」
「で、でもさっきみたいに想像で」
「それは実戦で使って下さい。人間は常に適応して生きる生物、訓練や実戦でもそのようにしていても次第に慣れていき、いざと言う時に効力を無くします。」
――あの三人を恨まなくならない事は無いと思うけど、薄れては行くのかな?感情が魔力に変わるって考えると、その可能性もある....
うぅ....運動はあんまり得意じゃないんだけど....
「わかり...ました。」
「理解が早くて助かります。それでは早速身体作りから始めるとします。まずは.......」
それからというもの、サチコはロアとマンツーマンで身体作りに徹底した。トレーニング、食事、睡眠時間も調節される毎日。
超A級のトレーナー指導と言えば聞こえはいいが、ろくに運動もした事の無いサチコへの配慮は全くなく、車のローギアから慣らすのではなく、トップギアに近いスパルタ教育だった。
毎日のノルマ筋トレが終わってもそこから体術とその知識を叩き込まれ、サチコは身体どころか精神も疲れ切っていた。
途中、挫折しそうになり、ナルテミ村へ逃げ出そうとサチコは何度も頭によぎったが歯を食いしばり我慢する。
それは元々我慢強いからというだけでなく、シアラ達の期待に応えたい、ロアに認めてもらいたかった。
現代にいた時で経験した後ろ向きでの我慢ではなく、前へ向き続ける我慢にサチコは少しだけ自分が変わっていけていると実感したのだった。
ある程度身体作りが形になってくると、今度は体術に集中する。
どのタイミングで相手との距離を詰めるか、どのようにすれば相手の攻撃を避けやすく、同時に反撃を取れるか、事細かく教えられた。
そこからさらに日が過ぎ、徐々に知識と魔法の方にも本格的に手を出してきた。
身体を動かさず頭を働かせる時間は幸福にも思え、魔法は好奇心がやはり強く、やる気に満ちていた。
魔法に関しては、三人の事は極力考えず、地獄のような日々を思い返してロアに対する不満をイメージするよう言われていた。
流石にロアに対してそれ程嫌味を思っていた訳でもないので、現代でイジメられた三人よりかは魔力は混み上がらなかった。
サチコはこの案を拒否したが、ロアは迷わず自分を憎むよう指示する。
この言動にこれまでのスパルタ教育もこの時の為にしてくれていたのかと思うと、憎まなければならないのに何処かホッコリ暖かくなってしまう。
個性魔法は感覚的に操れる部分が多いらしく、日常生活から戦闘にも役立つ段階魔法を集中的に行った。
段階魔法は六段階あり、一・二は主に日常生活、下級レベル。三~五は戦闘、中級レベル。六はより優れたものでなければ触ることすらままならない上級レベルらしい。
サチコはその間、一~三までは習得。ただ、魔力量や時間も相まってひと握りしか出来ない。
回復力は優れないが魔力消費も少なく使いやすい回復、黒い煙を発生させる煙、短い頑丈な糸を発生させる硬化糸、手に重りを載せることが出来る石力。
どれも派手さはなく地味ばかりで、少量の雷攻撃を出せる電光や、火を放つ火砲をやりたかったが、ロアは断固拒否。サチコは頭を縦に振るしか無かった。
忙しい日々は流れに流れ、三ヶ月という時が流れた。




