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三年ぶりの手合わせ③

「こ、腰ですか?」

「うん。ヨノンって頑張り屋だから筋肉と技術は確実に付いてきてる。それなのに僕に簡単に力負けするのは筋力が足りないからじゃない、腰を使わないで腕の力だけで何とかしようとしてるんだ。

 腰を軸にして、腰の動きに合わせて上半身も動かす。そうすれば、もっと威力が上がってたし、僕をもっと追い詰められてたはずさ。」

「成程....腰を使うですか...」

「そう!それに何も攻撃だけじゃない。防御だって腰がしっかりしてれば地面に足が着き、払い飛ばされることも少なくなるだろうね。だからヨノンはこれからは下半身強化と腰の使い方を主軸にすればいいんじゃないかな?勿論、柔軟訓練も忘れずにね?フフッ。」



 爽やかに笑うケトラに対し、ヨノンは自分の腰をマジマジと見つめ、ケトラがしたように自分の腰を掴んで揉んでみたりする。筋肉が付いているのかどうかなのかなど判断は出来ないものの、今までの訓練を思い出して下半身に負荷をかけた場面は走り込みくらいだったのを思い出す。



 ――これから何をすればいいのか、ケトラ様は手合わせの度に教えてくれる。自分で自分のメニューを作らないのは、ケトラ様に甘えている能無しだと思われるかもしれない。

 ただ、俺は間違ってないと思う。凄い人に教わっているんだから、その人が教えてくれるまでは全力で甘え、そして確実に実力を付けるんだ!



 明日からの自主訓練に形が明確に分かり、やる気に満ち溢れるヨノン。そんな彼の熱にあてられたのか、ケトラは一度収めた刀を取り出した。



「ヨノン、剣を抜いて。折角の再会記念、特別に君に技を教えてあげるよ。腰を...身体全体を使わざる得ない技。君が得出来るような技だと思うんだ。」

「は、はい!是非お願いします!!」



 手合わせをしてもらって指摘をしてくれたのに加えて技を教えて貰える。ヨノンにとってはご褒美三昧であり、ケトラの気分が変わらないように急いで剣を抜いた。


 ケトラの指示通りに、ヨノンは右から斬り掛かるケトラの剣を受け止めるように自らの剣を縦持ちにして待機していた。


 準備はそれだけ。合図があるとケトラは宣告通り、軽く剣をヨノンに振る。ヨノンがその剣を受け止めた次の瞬間、ケトラの身体全体が懐へ急接近し、その事に気を取られていると剣を持っていた手に激痛。

 視線と意識が一瞬自分の手の方へ行き、慌てて戻した頃にはケトラの拳が自分の目の前にきていた。


 ケトラの教えてくれる技を見逃さないよう目を凝らしていたが、全く見ることは出来ずにヨノンは放心していた。


 顔からして理解出来ていないと察したケトラはさっきの事を説明するべく、再び構えた。



「....切る側は片手で剣の根元を持ち、力は剣を落とさないくらいの力で持ってて。その状態で斬りかかり、相手がそれを受けて鍔迫り合いになった時、対抗しなくていい。流れに身を任せると、鍔迫り合いが軸となり、剣は半回転する。そこで剣の頭を受ける側の手にぶつけ、意識が乱れている隙を付いて空いている手で好き放題するって感じ。

 どう?実際受けてみて、実践で使えると思う?」

「分かりませんが...でも、使えたとしたら凄いと思います!!だって、全然何されたか分からなかったし、対応なんて出来ませんよ!!」

「まぁね。この技の本命は最後の空いている手だけど、一番重要なのは剣を握っていた手の動き。鍔迫り合いで剣が半回転したとしても、相手の手元まで剣の頭が届く?ううん、手首がより曲がらないといけない。曲がりたがる手首に合わせて身体を動かす。そして足を動かすには腰を動かさないといけない。

 つまり、私がさっきやった小手からの左パンチは、自然と腰の入ったパンチになるって訳。」

「成程....俺、この技めちゃくちゃ練習します!実践で使えたら凄く強いと思いますし!」



 目に火が浮き上がりそうな程燃えるヨノンだったが、そんな彼のやる気を見てケトラは少し困ったような顔をしていた。



「う〜ん....そんなに練習はしなくていいかもしれないよ。この技って結構条件キツいし、大分リスキーなんだ。頭の端に置いておくくらいが丁度いいかな。」

「え?条件ってそんなにキツイんですか?感じ的にそもそも条件なんて無かったように聞こえますけど...」

「そうだね。でも、この技って結構穴だらけで、条件ってのも相手次第って感じだから運要素が強くて、ここぞって時に使える技だからね。あんまり期待しないようにね。

 さて、僕はそろそろ行くよ。君との久しぶりの手合わせは凄く楽しいんだけれど、君が気にしたように僕は着いたばかりで色々と片付けなくちゃいけないことがあるんだ。ごめんね?」



 ケトラは剣を鞘へ収めると、ヨノンに軽く頭を下げる。その姿を見たヨノンは慌てて剣をしまい、その場で腰を直角にして頭を下げた。



「とんでもないです!貴重な時間を使って頂きありがとうございます!俺、ケトラ様が望むような兵士になれるよう、これからも精進します!!」

「うん、期待してるよ。それじゃあねヨノン。また今度、手が空いた時にはここに足を運ぶから、その時はよろしくね。」



 ケトラはヒラヒラと手を振ると、その場を去っていく。彼女との手合わせに加えて次の約束も出来たことにヨノンは感激し、彼女の背中を今一度見ようとする。

 すると、歩き去っていくケトラの後ろから付いてくるミネルがジーッとヨノンを見つめていた。それは彼を観察しているような目線ではなく、また別の何かにヨノンは感じていた。


 だが、ヨノンにはその視線が何を意味するか分からずに戸惑っていると、自然にミネルは彼から目線を外してケトラについていったのだった。



 ――な、なんだったんだ?ミネルさんとは初対面って訳じゃないんだけど、話した事ないからなぁ〜。仮面越しに色々と警戒されてたのかな?....貴族とただの下級国民の兵士の組み合わせ。そりゃあ不自然だよな....どう見ても。

 ....ケトラ様が軽すぎてあんまり違和感を感じないんだよなぁ〜。



 ケトラと今後も関係を持つならば、従者であるミネルにも気に入って貰わなければならないと感じたヨノンは、頭をポリポリかきながら顔を曇らせて自分の寝床へと向かっていく。



 一方、ケトラとミネルは司令塔に足を踏み入れた。真っ黒な外見とは違い、中は皇都の城のように清潔感に溢れていた。真っ白な壁に真っ赤な絨毯、そしてそれらを照らす金色のシャンデリア。高級感が溢れる内装ではあるが、城通いに慣れきっていたケトラにとっては変わらぬ風景であり、少しガッカリしていた。


 すると、少し早歩きで付いてきたミネルはケトラを睨むようにして話しかけてくる。



「ケトラ様。前々からお伝えしたかったのですが、ヨノンとの接触は程々にして頂きたい。少々、親密になり過ぎていると思います。」

「なんでだい?彼と仲良くなって何がいけない?寧ろいい事じゃないか。彼が成長してくれれば、ゴリアム皇国にとっての力となる。」

「彼は他の貴族達の差し金の可能性があります。ケトラ様がそういった人物をほっとけないのをいい事に、情報を聞き出したりなど....

 ズボノ様の差し金の可能性は十分に考えられます。あの方はケトラ様がこの要塞に行く事を喜んでいました。厄介払いではなく、ヨノンとの接触があると見て笑ったに」

「ミネル!!...考え過ぎだよ?」



 ヒートアップしたかのように話すミネルに対してケトラは少し大きく声を上げた。ミネルはその声に負け、自分の高まる感情を抑えつつ頭を下げた。



「申し訳ございません....しかし、私の気持ちも理解して頂きたいんです。ケトラ様はお優しいですが、あまりに敵が多い。」

「そうだね。皇王になる気もないのに上に立っている僕は、出世欲に溢れる貴族達にとっては邪魔者だろうね。どうにかして僕を落とそうとしている。そこは十分に警戒するけど、ヨノンは心配するような事は無いよ。

 彼は驚く程に純粋、正義感溢れる良い人間だ。僕の寝首を搔こうとしているとは到底思えないよ。」



 そう諭してもミネルには葛藤があるのか顔が晴れない。そんなミネルに少し困っていると、ある事を思い出してケトラは右手に持っている縄を気にしながら話しかけた。



「ミネル...これ、ごめんね?こんなこと僕、したくなかったんだけど....」

「いえ、ケトラ様が気になさることはありません。この要塞に私が滞在するなら、こっちの方が良いです。流石にずっと黒服なのはゴメンですから。」



 ミネルは微笑しながら自分の首に付けられている銀色の首輪を触った。その首輪は、以前サチコが付けられた魔力を電気へと変える手錠の首輪バージョン。手錠に比べて大きさも費用もかかる為、貴族レベルではないとそうそう利用しない。

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