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三年ぶりの手合わせ②

 最短距離で一気に間合いを縮め、彼女に剣を振る。ケトラは真剣を振られたにも関わらず、微笑みながら半歩後ろへ下がると、ヨノンの剣は彼女の手前スレスレの空間を斬る。

 ヨノンは更に一歩踏み込み、反動を付けるようにして彼女の横腹目掛けて振るが、踏み込んだ分ケトラは下がり、再び空を斬る。


 それでもヨノンは構わずに振り続ける。ケトラに向けて何度も斬撃を繰り返すが、全ては空を捉える。まるで予知しているようにケトラは表情を一切変えず、紙一重で避け切る。


 諦めずに攻撃を繰り返していると、ようやくケトラはヨノンの斬撃に対して剣を使った。斬撃を受け止め、彼女に剣を使わした事にヨノンは一瞬舞い上がる。


 しかし、その気持ちの隙を突いたのか、ケトラは力強くヨノンの剣を振り払い、無防備になったヨノンの腹に鞘をぶつけた。

 痛みを感じた直後に身体の酸素が外へと放出、剣で殴られた勢いを止め、そのまま杖代わりにして膝を折っているヨノンはすぐの反撃は出来ずにダメージと呼吸の回復をしていた。


 雪が振り続ける環境下でも湧き出る汗を感じつつ、疲労と痛みで顔が歪む。しかし、その顔はすぐに笑顔へと変わり、ダメージを受けていなかったかのように再びケトラに斬り掛かる。


 今度はヨノンの連撃をケトラは全て剣で受け止める。フェイントを入れ混ぜたヨノンが練習してきた攻撃パターンは彼女は初見。にも関わらず、想像上のケトラ以上に彼女は彼の攻撃を受けきる。


 フェイントには決して引っかからず、受け止めた剣は大地に根を張る大木のようにビクともしない。自分の技が通用しないにも関わらず、ヨノンの笑顔はキレを増していた。



 ――凄い!やはりケトラ様は次元が違う!この三年間、再びケトラ様と手合わせできる日を夢みて、尚且つそれが実現した時には驚かせることができるまで成長したと思っていた。

 だが、実際にはまるで通用しない!三年前と同じく、高さが見えない厚い壁を突きつけられているようだ!この人の力の底が見えない!



 三年間必死に鍛え上げた身体と技、それのどれもが通じない。普通なら落胆するのが自然だが、ヨノンはケトラの底知れぬ力量を改めて実感して感激していた。


 だが、このままで良いとはヨノンは思っていない。憧れの人物に一泡吹かせる為、彼は鍔迫り合いに弾かれたのを利用して少し後ろへ下がった。



 ――ケトラ様....俺は何も三年間がむしゃらに肉体強化に挑んでた訳じゃないんです。貴女を驚かせるのなら、少しいやらしい事をさせて貰います!



 ヨノンは唾を飲み込み、意を決して地面の雪を蹴り上げた。積もっていた雪は一斉にケトラに襲いかかり、彼女の視界からヨノンが消えた。

 その雪の壁を盾にしてヨノンは奇襲を行った。


 しかし、逆にケトラは雪の壁に突っ込む。ケトラの姿が直ぐに現れ、ヨノンは驚愕。逆に意を突かれた。


 ケトラは彼に斬り掛かり、辛うじてヨノンは受け止めるが力負けをして体勢を崩す。そこにケトラは再び追い討ちを掛け続け、ヨノンは防戦一方。ケトラの剣は全てヨノンの剣に防がれるが、それはケトラが意図的に剣を狙っているのはすぐに分かった。


 彼女が剣を振る度にヨノンは体勢を崩しガタガタ。遂には膝を折ってしまい、ケトラは真上から剣を振り下ろす。


 ヨノンは何とかそれを防ごうと剣を上に向けた瞬間、ケトラの前蹴りがヨノンの腹に命中。ダメージに意識が持っていかれている間に彼の頭に峰が軽く当たる。



「痛ッ!」

「あははは!まだまだ甘いなヨノン、勝負ありだ!」



 軽く打たれたとはいえ、頭の中にまで響く鈍痛にヨノンは涙目。しかし、ケトラの実力が再認識できた嬉しさで彼の口角は上がっていた。


 そんなヨノンの笑顔にケトラ釣られ、微笑みながら剣を収めた。



「やっぱり君との手合わせは良いな。毎回少しづつ成長していくのを見て、感じるのが僕は嬉しいよ。今回ので分かった。君は僕から姿を消した三年間でも、一日足りとも訓練を疎かにしなかったって!」

「えぇ。しかし、そこまで見通されていると少し恥ずかしくも....」

「あはははは!何を今更恥ずかしがっているんだ?僕と君との仲じゃないか。

 さて、それじゃあ君の成長を祈願し、君の浮ついた気分を治す為に色々と指導をさせて貰うよ。」



 その一言にヨノンは急いで立ち上がり、棒のように一直線になった。ケトラの言葉を一語一句忘れぬよう、格上からの進言を格下という事を自覚しながら聞く。いつの間にか自分の心の中で決めていたルール。

 そのルールは頭で少し忘れてはいたが身体は覚えていた。この行動、この光景も実に久しぶり。収まった口角が上がりそうになった。



「...まず、君は相変わらず身体が硬いな。それじゃあ攻撃パターンも避けるパターンも広がらない。三年前より硬くなったんじゃないか?筋トレや剣術だけで、柔軟を主とした訓練などしていないだろ。」

「そ、その通りです....ケトラ様から言われたのは記憶していたのですが、それは後回しでもと思いまして...」

「まぁ重要度は低いけどさ、ヨノンは筋肉も技術も備わっているんだ。その二つだけを伸ばすだけじゃなく、他のことも伸ばしていこう。戦いにおいて戦術の多さは力だ。何倍もその個人を強くしてくれる。例えて言えば、読心術とかね。」

「読心術....ですか...」



 イマイチパッとこないヨノンの反応を見つつ、ケトラは彼との距離を縮め、彼の顔に自分の顔を近づける。息遣いが聞こえ、いい匂いが鼻を刺激、間近で見る綺麗な瞳にヨノンは顔を真っ赤に染め上げて動揺しきっていた。

 そんな彼の顔を見つつケトラはボソッと呟いた。



「....今、君は動揺している。頭の中が真っ白で何も考えられない。完全に油断しきっている。そんな君のお腹を刺すのは容易いよ?」



 そう言いながらケトラは剣の頭で軽く何度も彼のお腹に当てる。その事でハッと意識がハッキリしたヨノンは直ぐに離れ、真っ赤な顔のままお腹を摩っていた。



「ひ、卑怯ですよ!!しかも、それって読心術なんて言えるんですか!?」

「あはは!でも完全に油断してたんじゃないのか?相手の表情を読み切り、攻めてくるのか守るのか、嘘なのか真なのか、読み取った情報を手にして作る作戦に付いてこれる身体があれば相当有利になれる。だから、そう言ったものを身につけるのも一つの手だ。」



 ケトラの言葉は熱くなったヨノンの胸を冷やして意識のスイッチを押した。彼女の言葉に関心を抱きながらヨノンは聞くが、ケトラは彼に苦笑いを見せる。



「ま、そんな偉そうなことを言える資格はないけどね。僕はこの読心術とかそう言うのが凄く苦手でね、『これから剣を下から振る』とか『踏み込んでくる』みたいな行動の観察しか出来ない。人の心を予想はできるけど読み切ることは出来ない。」

「そんなことはありません!ケトラ様は見事でした!だって俺のフェイントとか一切気にしませんでしたし、それは俺の心を読んでるとしか...」

「あれは君が分かりやすいだけだよ。フェイントと本命の力の入れ具合が違いすぎる。時間が経っている上でやるのは見切られるし、一番最初にやったとしても勘の良い者なら分かるだろう。だから、工夫が必要だね。

 それと!一番言いたかった事なんだけど、ここ!ここが悪いよ〜?」



 ケトラは彼に近付いて彼の腰を両手で何度か強く叩き、観察するように揉んだりもしていた。

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