三年ぶり
そんな彼の心情は兵士にも伝わった。少し空を見つめつつ考えていると、ハッと閃いた。
「おぉ....そうかそうか。じゃあお前の言うこと信じてやるよ。兵士として強くなりたいんだな?仕方がねぇ、俺達が一皮脱いでやるよ。おい、コイツ抑えろ。」
兵士がそう言うと他の二人の兵士が彼の両腕を掴んで無理矢理立たせた。そして目の前にはニヤニヤとニヤケ顔を見せているあの兵士、それだけでこれから何が起きるのかは凡そ予想が着く。だが、彼に出来るのは耐えるという行動以外無かった。
兵士は拳を握り、彼に容赦なく暴行を加えていた。腹や顔を力いっぱい殴り続ける。次第に彼の地面の雪には血が染み付き、兵士の殴る手にも彼の返り血が付く。
息を切らしつつその血を拭い、所々腫れている彼の顔を見つつ胸ぐらを掴んだ。
「兵士の実力をつけるだぁ?それで剣技の練習?そんな一昔も前の訓練やるバカ何処にいんだよ。俺達の力は資金力に応じて大量で高性能な魔兵器と魔道兵器。今や兵士の価値なんて上手く魔兵器を使え、魔力の高いやつの方がいいんだよ。」
そう言って兵士は彼の青く変わりつつお腹に重い一発を放つ。鈍痛が奥まで響き、吐き気と苦痛に耐えている彼に兵士は話し続ける。
「なのに剣技と筋トレって...魔兵器の訓練か魔法訓練が常識だろ?兵士としての実力をつけてぇならよ。
お前のはただのアピール。頑張ったから拾ってって行動で伝えてる乞食なんだよ!見ててキモイんだよ。下級国民の愚図の癖して必死になり上がろうなんてよぉ?」
「そ....そんなつもりでは....」
「いい加減認めろよゴミ屑!!下級国民にとって上級国民の言葉は絶対だろ!?そんなことも分かんねぇのかお前はよォ!!」
めいいっぱい固めた右拳を彼の顔面に向けて兵士は放つ。更なる痛みに耐えるように彼は思わず目を瞑るが、暫くしても殴られない為目を開ける。
すると、目の前には兵士の拳を止める一人の女性がいた。上級国民であり兵士の彼はこの要塞では大分上の存在、そんな兵士が目を丸くして口が半開きになりつつ、その女性を凝視していた。
「その辺で辞めといたら?やり過ぎたと思うよ。」
「け...ケトラ様....」
兵士の暴行を止めたのは貴族であり三聖のケトラだった。彼女もまたいつもの格好ではなく防寒着だが、シワひとつない高そうなコートを着用している。そしてその少し後ろには首に鎖をつけているミネルもおり、ヨノンの顔をジーッと見ていた。
放心してケトラの青緑色の美しい目に見とれていた兵士はハッとし、すぐに腕をしまった。
「す、すいません!」
「うん。じゃあ君達。彼から手を離してやって。」
「「は、はい!!」」
ヨノンを捕まえていた二人の兵士はすぐに手を離すと、ヨノンはダメージもありすぐの崩れ座ってしまう。ケトラはヨノンに近付いてしゃがみ込むと、彼の顎を支えながら怪我の様子を観察していた。
そんな彼女の背後で兵士ら三人は並び、恐る恐る彼女に話しかけた。
「あ、あの....ケトラ様?その者は下級国民にも関わらず俺達上級国民に逆らったもので......
それにその....いつお越しに?」
「ついさっき到着したばっかさ。そんな事よりこれ、ちょっとやり過ぎだよね?兵士同士の格差は役職くらい。国籍の位は違うとはいえ、兵士である以上は同じ位なんだからさ、仲良くしなよ?」
「は、はい!それはもう...も、勿論でございます!」
「分かったならいいよ。ほら、君らはもう行きな。次はこんな光景を僕に見せないようにしてね。」
兵士ら三人はケトラの温厚な態度に胸を下ろしつつ、勢いよく頭を下げてすぐさまその場を離れていった。そんな彼らの背中をボーッと見ていたヨノンの視界は急に上がった。何事かと周りを見ると、彼はケトラの腕の中、お姫様抱っこをされていた。
ケトラの甘く癒されるような匂いが鼻を刺激し、厚い生地の防寒着を通り越して感じる彼女の柔肌、慣れない浮遊感に頭がボーッとするが、すぐに恥ずかしさが混み上がり頭が熱くなる。
「け、けけけけけケトラ様!?な、何を!?」
「あははは!何慌ててんのさ。怪我人の君を歩かせる訳にはいかないだろ?あそこのベンチまで連れてってあげるよ。」
「そ、そんな訳にはございません!俺、一人で歩けますから!!」
「そう遠慮するな。すぐそこの距離なんだから、今は僕の行為に甘えておけ。じゃあ、しゅっぱ〜つ。」
そう言ってケトラはヨノンの言葉を無視して勝手に歩き始める。進み出してから暴れ出す訳にも行かず、ヨノンは身体が燃えそうな程の恥ずかしさを堪え、誰かに見られていないかと心配にしていた。
短いようで長い時間が過ぎ、訓練所の橋にある屋根に守られたベンチにヨノンを座らし、ミネルがすぐに治癒魔法で身体の傷を癒していく。痛みがスーッと消えていき、恥ずかしさで暑かった身体の熱も徐々に引いていく。
だが、その直後にケトラはヨノンの両手を満面の笑みを向けつつ掴み、ヨノンの引いた熱が一気に出てくる。
「ヨノン!本当に久しぶりだね!!実に三年ぶりだ!」
「え....お、覚えてくれていたのですか?俺なんかと最後に会った時の事なんて...」
「何を言ってる?当然だろ!今にも昨日のように思い出すよ。皇都の大訓練所、そこでいつものように手合わせし、君が僕に水を持ってきてくれたと思ったらコケて頭から被ったよね?面白かったな〜、あの時の君。」
その時の光景はヨノンも同じくよく覚えていた。懐かしさを覚える反面、自分の事がケトラの記憶に残っていたことが単純に嬉しくなった。
口角が上がりたくてウズウズしていると、ヨノンの頭にコツンと拳が当たる。目線をあげると、ケトラは不機嫌そうに頬を若干膨らませていた。
「それなのに君ときたら、急に姿を消すんだから。あの時、僕がどんだけ残念に思ったことか....なんで教えてくれなかったんだい?ここに配属されたって事を。」
「そ、その時は俺も知らなかったんです。翌日に急に言われて...お伝えする時間くらいあったんですが、ケトラ様の貴重な時間を使わせる訳にもいきませんし、俺なんかが居なくなっても別に気になさらないと....」
オドオドしながらもか細い声で話をするヨノンに、ケトラは彼の頭に更なる追撃を放つ。しかし、それは先程のような軽いものではなく、少し強めだった。痛みに耐えつつ、細めで見た彼女はヨノンを睨みつけるように怒っていた。
「馬鹿!!そんなわけがないだろう!?君は僕の大切な友人だ!!そんな君が居なくなって悲しくならないはずが無いだろ!!」
ケトラは真剣に怒鳴った。彼女からこんなに真っ直ぐ怒られた事も見たことも無いヨノンは固まり、罪悪感が胸の中を包んでいく。
「も、申し訳ありませんでした...しかし、俺気になってるんです。....どうしてケトラ様は俺なんかに良くしてくれるのかって...俺なんかそこらにいっぱいいる兵士の一人に過ぎないのに....しかも下級国民だし....」
自信なさげにヨノンはそう言った。前々から気にはしていたことだが口に出せず、三年の月日を経てもケトラが忘れてくれていない事実はヨノンに勇気を振り絞らせた。




