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出発

 ケトラ一行は屋敷へと付くとすぐに出発の準備に取り掛かった。ミネルは屋敷の者達にイヤラ山の配属を伝え、突然の事で面食らっている従者に出発準備を急がせた。

 ウェルロゴは自分の部下である兵士をかき集め、そこから二十名の兵士を選別。装備諸共準備させ、残りの兵に対しての任務や配置等を大まかに説明していた。

 一方ケトラは自分の部屋へと入室し、自らの気持ちを含めた準備に専念した。


 貴族というのもあり時間にシビアなのか、突然の事なのにも関わらずすぐに出発準備は整った。兵士専用の大きな馬車二台にケトラ専用の馬車が一台、屋敷の前に並んだ。


 ケトラが屋敷から出ると、兵士だけでなく屋敷で働く者達も全員外へ出ており、ケトラに頭を下げつつ道を開けていた。

 その者らの顔を目に焼きつけるかのように暫く見回し、暫く顔を見ることが出来ないと思うと少し悲しく思っていた。


 だが、皇王の命令で一貴族である以上我儘は許されない。ケトラはそう自分に言い聞かせ、堂々と開けてくれていた道を歩いていく。


 途中からミネルも同行してケトラの少し後ろに付いてきてくれている。その事を背で感じつつ、事前にドアを開けてくれてある馬車へと乗車しようとした時、背後から女の子の声が聞こえた。



「け、ケトラ様...」



 怯えるようにか細い声はケトラの足を止めて振り返らせた。そこにはメイド服を着ている元裏奴隷・ナナリーがいた。彼女は目に涙を浮かべさせ、可愛らしい手を胸辺りでギュッと握り、不安の色を強く顔に映し出していた。



「ん?どうしたナナリー?」

「あの....無事に帰ってきますよね?絶対...戻って来てくれますよね?」



 今にでも泣き出しそうな震える声でナナリーは尋ねた。緊張なのか不安なのか、小さい身体をぶるぶると震わせ、口をグッと紡いでいた。

 そんな彼女に溜め息をしたのはミネル。呆れた様子で彼女に近付いた。



「はぁ〜....ナナリー、主人がこれから出かけるというのに、大した用事もなく足を止めさせるとは何事?」

「だ、だって...私、凄く不安で不安で....ケトラ様に何かあったら....私........」

「ナナリー。気持ちは分かるけれど、そんな事でケトラ様の時間を」



 少し口調を強めつつあったミネルだったが、目の前にケトラの腕が伸びて思わず言葉を呑み込んだ。そんな彼女にケトラは微笑み、ナナリーに近づくと彼女と同じ目線になるくらいまで腰を低くした。



「ナナリー、大丈夫だよ。少しここから離れちゃうってだけで、全然大した事じゃないから。」

「でも!ケトラ様、戦地に行くんですよね?...私、ケトラ様に助けて貰って、まだ全然恩なんて返せてないのに....もし戦いなんか起きたら....」

「...まぁ戦地って言えばそうだね。だけど、今では落ち着いてるし、ナナリーが不安に思うことないよ。」



 優しく小さい彼女を諭しながら、ケトラは少女の頭にポンっと手を乗せた。以前のナナリーには無かった生き生きとした綺麗な緑色の髪を優しく撫で、彼女の目から目線を外さなかった。



「ゴリアム皇国は鉄壁の守り、敵が来たとしても余裕だよ。もし、その鉄壁が破られて僕が戦うってなっても、安心して。僕は負けたりなんかしない、僕は意外と強いんだ。もしかして、そんな風には見えない?僕の負けちゃう姿を想像出来る?」

「そ、そんな事ないです!ケトラ様は凄く強いです!」

「分かってくれてるじゃん。じゃあ心配なんていらないよ。君の中にいる強い僕を信じてくれ。

 だから、ナナリーがこれから考えることは僕が帰ってきた時、ヨダレが出そうな程の美味しい料理を用意する事。

 だから君に命令だ。とっっっっておきの料理、考案してね。」



 彼女の微笑みと言葉はナナリーの心に突き刺さり、我慢していたであろう不安と寂しさの涙をボロボロと流し、言葉を殺しながら泣きじゃくる。

 そして、泣きながらもナナリーは何度も頭を縦に振っていた。そんな彼女にケトラは優しく頭を撫で、それが別れの挨拶のようにケトラは彼女を気にしつつ馬車へと乗車した。


 それに続いてミネルも乗車し、お互い対面するように席に座って暫くすると馬車はゆっくりと動き出す。

 ケトラはカーテンがかかっていない窓を覗くと、そこには大声を出しながら泣いているナナリーを他の召使い達が宥めている姿が見えた。


 そんな光景を見ていると、ケトラもナナリーの悲しみが伝染したのか、浮かんだ涙を軽く指でふき取った。

 ミネルはそんな彼女を見て、頬を緩ませた。



「....ついこの前まではボロボロで常に怯えていたナナリーが、あれ程までにケトラ様を想ってくれています。とても喜ばしい事ですね。」

「そうだね...とても嬉しいし、彼女達の元気な姿を見ると自信がついてくる。僕がやり続けたことは間違いなんかじゃない、正しい事をしてるんだって教えてくれる。

 .......これで少しは父様とお母様も僕を誇りに思ってくれるかな?」



 目には哀しみが映っているが、ケトラは微笑みながらポツリと呟いた。そんな彼女の言葉にミネルは過去の事がチラつき、胸を痛めつつ寂しげな彼女に声をかける。



「思わない筈がありません。ご両親共、ケトラ様の行動には鼻が高いはず。そもそも、奴隷・裏奴隷の救出活動はご両親がやっていたではありませんか。」

「そうなんだけどね...悪い言い方をすれば変化がないって事。もっといい方法で活動ができないって進歩の無さが露呈するみたいで....」

「ケトラ様はよくやってくれています。皇王になって国全体を変えることが不可能な以上、今やっている事は最善だと思います。もし、これ以上のことを望むなら必ず荒事になります。そうなれば活動は勿論、ケトラ様の地位も危うくなりかねません。」



 ミネルの言葉は納得は出来るものの、ケトラ自身諦めがつかない為に眉間に皺を寄せながら思考している。主人の悩みを取り除く案を思い付かず、尚且つ話を逸らすこともできなかったからミネルも同じく顔色を暗くする。

 ミネルの顔色に気が付いたケトラはまたしても自分のせいで彼女を困らせていることに反省し、心を切り替えた。


 そうしてケトラがとった行動とは、ミネルの薄く伸びている髭を遊ぶことだった。ミネルはそれを触感で感じとり、不機嫌そうに目線を上げた。



「....何をしてくれているんですか?」

「いや〜、最近二人っきりって状況があんまりない気がしてね。久しぶりに触りたくなったんだ〜。」

「以前にも辞めてくれと言った筈ですよ。私の身体を玩具のように遊ぶのは良してください。」

「えぇ〜?少しぐらいは許してくれていいんじゃない?僕は責任の重圧やら激務に耐えるのに必死で癒しが欲しいんだよ〜。いつも頑張ってる僕にご褒美くれてもいいんじゃない?」



 彼女はニヤニヤと口角を上げながら言うと、ミネルの不機嫌度が更に上がる。ケトラは別にミネルの髭に魅力など感じていない。触られて少しイラついているミネルを見るのが好きであって、それはミネルも承知している。

 不機嫌になるのはケトラの思うツボというのは理解しているが、不快なのは不快であり、ケトラにからかわれているという事実にもイラつきを感じる。

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