第一の試練の真意
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ゆっくりとサチコは目を覚ました。頭がボーッとしており、まともに思考がまとまらないままサチコは周りをゆっくりと見回す。
サチコが寝ているベット、そしてベットの横に掛けてあるサチコが持ってきた荷物、それ以外はなんにもない殺風景な部屋だった。
全体的にも古びた木で作られており、部屋の明かりは古びた魔具、ナルテミ村との違いは明らかだった。
部屋の窓から光はなく、室内の温度からして夜だと察した。
「おはようございますサチコ様。ようやくお目覚めですか」
聞き覚えがあるトラウマ級の声が聞こえ、サチコの意識がすぐにハッキリとする。バッと体を起き上がらせながら声が聞こえた方を見ると、そこにはロアがドア枠の傍に立っていた。
「あっ、いやっ!いやぁぁぁぁ!!」
サチコは気を失うまでの恐怖が蘇り、すぐに立って逃走を図ろうとするが、足に拘束具がかかっており、サチコはベットから一定距離離れることは出来なかった。
「な、なにこれ!!」
「見てわかるでしょう、貴女を拘束しています。起きてからのパニック障害は予想していましたので着けさして貰いました」
そう言ってロアはサチコに近寄る。サチコは息を荒くしながら拘束具を取ろうとするがビクともせず、ガクガク震えながらその場で縮こまってしまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。もう何もしないで....もう酷いことしないで...私に近寄らないでぇ....」
いつの間にか流している涙の影響か恐怖の影響か、サチコは嗚咽を吐き漏らしながらも必死に謝り、願った。
音で理解するロアとの距離、サチコは目を強くつぶって身体を硬直状態にするが、自分に降りかかるであろう痛みはいつまで経っても訪れない。
恐る恐る顔を上げると、ロアはサチコの隣に座り込み、窓を見ていた。
「...へ?」
「落ち着きましたか?取り敢えず話が出来る状態になったら声を掛けてください。私がこの場から離れればいいんでしょうが、話さなければならないこともありますし、部屋に入る度こういうのを何度も繰り返されては時間の無駄ですので」
ロアの意図が分からない行動にサチコは恐怖を凌駕する疑問に頭を悩ます。
――何なの....この人は何がしたいの...いつも無表情だから読み取れないし、さっきまで殺しかけたのに話がしたいって...わけわからないよこの人....
サチコはロアと共にいる時間が苦痛で仕方がなくて頭がいっぱいいっぱいだったが、時間が経つにつれ慣れていき、ようやく落ち着いてきた。
――とりあえず話を聞くしかない...今は捕まってるし、逃げようにもない....
「...だ、大丈夫です。話せます」
「そうですか。そちらを見ても大丈夫ですか?」
「...どういう....意味ですか...?」
「そのままの意味です。ですが、その行動の意味を知りたいなら答えましょう。
貴女からすれば先程まで殺されかけた相手と目を向き合っての会話は苦痛でしょう。そして、私の表情はあまり評判は良くはないのでそれも考慮しもう一度問います。
そちらを見ても大丈夫ですか?」
「...大丈夫じゃ....ないかもです...」
いつものサチコなら相手を気遣い、肯定するのが基本的な言動だが、流石に自分の意思で拒否せざるを得なかった。
ロアはそんな問いに「そうですか」と答えるだけでずっと窓を見ていた。
「サチコ様、まず今回の教育の真意についてお話します。隠しておこうと思っていましたが、想像以上に貴方が怯えているので話しておきます」
「教育の...真意....?一体どう言うことですか?」
「確かにサチコ様は戦闘も出来ず十分な知恵を持っていません。我々の仲間になるならそれ相応の教育が必要。
ですが、もう一つの目的は貴女を監視し、見定めることです。貴女に危険性がないのか、嘘をついていないのか、仲間として迎え入れて良いものかを確かめるためです」
そう言われて結びつくロアの行動、サチコの頭が段々回復していき、話に集中してきていた。
「じゃあ、私にしたことも....」
「はい、一種の試験でございます。貴女を否定し続ける対応を取り、本気の殺意、攻撃を行い、そんな極限状態で貴女が取る行動を見たかったからです。
結果から言うと合格です。貴女は私と戦おうとせず逃走を選んだ。それは気を失う最後の瞬間までその選択を取った。あんな極限状態でそんな行動を取れるのはこの世界にはいません。普通は負けるとわかっていても戦闘、魔法での逃走を図るものです」
――そうだったのかな?....そこまでしなくても....違う、する必要があったんだ。こっちの人からすれば別世界の人間なんて怪しすぎるし、復国軍なんて超秘密事項。もし、ロアさんが私の立場だとしても...きっと怪しんだ....
流石に殺しかけるまではしないけど。
サチコはあの時の状況を冷静に振り返ると、あれが試験だったということがより確信に近く感じた。
不意打ちではなく告知してからの攻撃、ナイフも急所ではなく足、そして最後の攻撃も掌。
ようやくサチコは納得がいき、未だに震え上がりそうなあの時の恐怖が少しばかり治まってきている気がした。
「この教育期間は貴女が戦闘出来る状態、私の信用を得て終わることとなります。この教育が終わる時は実質私とバルガード様が認めたということとなり、他の方も納得が行く形になります。ですが、まだ完全には信用し切っている訳では無いので、そこの所をご了承ください」
ロアはスっと立ち上がると、ドア枠に置いてあった壺のような物を持ってきてベットの下に置いた。ハーブのような匂いがして置いた時に水の音が聞こえた。
「それは薬草を練り合わせた水です。少々苦味はありますが、身体に良いものです。
教育・訓練は明日から開始します。しっかりと休息を取り、動ける程度の身体にはなって下さい」
ロアはそれだけ言うとぺこりと頭を下げて部屋から出ていこうとした。
「あ、あの!説明してくれて、ありがとう...ございます....」
サチコは座りながらもゆっくりと頭を下げた。まだロアの恐怖がこびり付いて取れないが、少なくとも納得いく言葉で安心したのだった。
ロアはジッとサチコを見ていたが、視線を移してサチコの拘束具を解いた。
「...変わってますね貴女。普通なら殺されかけた相手を罵倒や差別をすると思いますがね」
「な、納得は出来ましたし....その、私もいち早く役に立てれるように頑張りたいって言うか...人に認められたくて....」
「そうですか...念の為に言っておきますが、ナルテミ村からここへ来るまでの貴女への対応に謝罪するつもりはありません。あれは試験、そして貴女はまだ我々の仲間ではない。罪悪感等は感じません。
因みにここから出ることはオススメしません。周りには魔獣が居るので承知の方を...」
再び軽くお辞儀をしたロアはそのままスタスタと部屋を出ていった。
サチコはロアが去った後のドア枠をボーッと見ていて、ふとロアが持ってきた薬水を飲んだ。
ラーズによる薬膳料理とは違い、苦い抹茶を遥かに凌ぐ苦さ。まるで草木を口に入れているかのような感覚だったが、サチコは何とかして飲み続けた。
――あんな目に合ったのに不合格みたいなのは絶対にヤダ!早く身体を治さないと....まだどれほど辛いのか分からないけれど、耐えるのは得意だと思う...耐えきってみせる!
ある程度薬水を飲んだサチコはまた寝ようと目をゆっくりと閉じた。だが、決意が強すぎたのか中々寝付けず、サチコは何度も寝転がりながらもようやく眠ることが出来たのだった。




