激痛の楽園
すると茶髪の隣にいた男、シアラを発見した時に薬でハイになっていた男が申し訳なさそうにヘラヘラしながら手を挙げた。
「その事なんすけど...最後のお別れ会みたいな感じで例のブツ、使ったりしません?卒業的な感じで...」
「お前、俺の話聞いてなかったのか!?お前がヤクでハイになりまくって、俺達が巻き添え食らうのはゴメンだ!このヤク中が!」
シンドムの言葉に男はしょんぼりとするが、シンドムはそれ以上追求はしなかった。シンドムも重度の薬物依存症であり、今は痛みや恐怖でシラフになるが限界は訪れる。隠れて薬を使用してしまうのは目に見えていたからだった。
「....とにかく、これで俺達は終わりだ。もったいないないけど、例のブツも廃棄するぞ。」
シンドムの号令に全員渋々頷いた。症状の重度は違うとはいえ、全員が中毒者。薬を使いたい気持ちはどこかしらあった。だが死にたいとも思えず、全員が立ち上がると、突然男の声が聞こえる。
「...なんだよお前ら。使わないのか?俺達の生み出した最新であり最高品であるAKNを。」
その声の主は倉庫の奥にある木の箱の山から聞こえた。少し目線を上げると、山の頂上には黒いローブを被った一人の人物が座っていた。その姿を見てその者がどういった人物かすぐに分かり、汗ばんだ顔でシンドムは呟いた。
「....黒爪。」
「ご名答だ。確か...シンドムとか言ったか?ヤクを使用しまくったおかげで年齢とはかけ離れた姿になった。....今二十二歳だったか?」
「お、俺達を殺しに来たのか?...頼む!まだブツには指一本触れてねぇ!使用する気もないし、アンタらに返すつもりだったんだ!」
「ククク....お前馬鹿か?さっきまで廃棄するとか言ってたじゃねぇか。それにブツじゃねぇ、AKNだって言ってんだろ?」
黒爪の男は山から降りると、シンドムに近付いてくる。至近距離で倉庫の明かりがある為、目元は見えないが唇の右端が抉られているのが見えた。
「...AKNはどこにある?ここに持ってこい。」
男がそう言うと、シンドムは茶髪に顎で合図。茶髪は慌てて反対側の木箱の山から引きずりながら一人入れる位の大きさの木箱を持ってくる。
男がその木箱を開けると、中には緑色の霧が充満している瓶がギッシリと敷き詰められており、それを一つ取り出した。
「....このAKNは量産性が悪くてな。そう易々と作り出せる物じゃないんだ。分かるか?貴重な商品って事だよ。そんなものをコソコソと奪ったんだから、俺達がどれ程の被害を受け、怒りに身を焦がしているか分かるよな?」
「だ、だけど...俺達は使ってなんか....」
「使ってなかったらいいのか?違うよな。盗んだらいずれ使用へと変わる。要は時間が違うだけ、盗みと使用は同レベルなんだよ。」
高圧的な男の態度にシンドム達は何も出来ず、ただ棒立ちで男の言葉を聞いていた。数では圧倒しているものの、黒爪はゴリアム皇国出身が多い。つまり下級国民とはいえイザゼル帝国とは違い実力者が紛れているということ。
勝てるかどうかも分からず、万一に逃げられても黒爪は報復の為に地の果てまで追いかけて来る。見つかった時点で詰みなのだ。
「本来なら、貴様らは全員処刑か裏奴隷行きだ。いや、ヤク中を買いたいと思う者も少ないだろうから処刑濃厚か。....だが、お前らは運がいい。特別に許してやるよ。」
その言葉にゴロツキメンバー全員の目に希望が生まれ、どよつき始める。
「...だが、条件がある。お前らにはこのAKNを使用して貰う。」
「え?な、なんで...それっておかしくないか?アンタら、これを盗んだ事を怒ってるのになんで使わすんだ?」
「言ったろ?盗みと使用は同レベルだと。その時点で使用されていようがいまいが気にはしない。このAKNは正直未完成、使用者の意見を聞きたいのが本音だ。
それに、お前達如きに盗まれる俺達もマヌケだからな、教訓代だ。これ使用し終わったら好きにしな。この件でお前らにはもう何もしない。」
「....本当にそれで許してくれんのか?」
不安そうに尋ねるシンドムの言葉に男は静かに頷く。そしてシンドムはゆっくりとAKNと呼ばれる薬の瓶を一つ取り上げる。すると、吸いたい欲があったゴロツキメンバーはこぞってそのAKNを取り出そうとする。まるで餓死寸前に配られる配給を奪い合うように必死になって取り出そうとする。
だが、茶髪の男は不安の顔色が取り切れず、シンドムに話しかける。
「だ、大丈夫なんすか?なんか、俺達に出来すぎた話ですし、怪しいですよ。」
「仕方ねぇだろ。こうしなきゃそもそも殺されるんだ。これ吸って感想を適当に話して解散して家で寝る、これで良いだろ。だからお前もさっさと手にとれ。巻き添え食らうだろ?」
そんなシンドムの言葉に反論出来ずにいた茶髪は渋々AKNを手に取った。
すると、男はゴロツキメンバー達から距離を取り、吸うようにシグナルサインを送る。
ゴロツキメンバーはお互い顔を見合せ、ゴクリと唾を飲み込むと、意を決したかのように瓶の蓋を開け、緑色の霧AKNを吸い始めた。
吸い始めた瞬間、まるで天国にいるかのような感覚にそれぞれが落ちる。快楽が鼻から全身に広がるような感じであまりの快楽に腰が抜ける者も出て、白目を向き、ヨダレを垂らし、全員がその場で射精をしてしまう。
辺りにはAKNの甘い香りと男達の射精の臭いが漂い、全員が正に楽園にいた。
「どうだシンドムよ。感想は?」
「すっごいっすよこれ.......どんなヤクよりも気持ち良くて....ずっとイってる感覚が...あぁぁ....」
「そうかそうか...ちなみになんだが、快楽ってのは痛みの延長らしいぞ?痒い所を齧ると気持ちいだろ?このAKNはそれをより強く表す。試しに自分の頬でも思いっきりつねってみろ。」
そう言われて朧気な意識の中、シンドムは自分の頬をつねる。すると、快楽の上乗せのように凄まじい快楽が襲い、再びその場で射精する。
「あは....あはははは!!!気持ちいいぃぃぃぃ!!これヤバいぃぃぃぃ!!強くすればする程どんどん気持ちよくなるぅぅぅぅぅ!!」
「...俺はしばらくここで見てるから、お前達はそれを味わい尽くしてくれ。いい結果を期待しているぞ。」
それからAKNの虜になっていたゴロツキメンバーはそれぞれ更なる快楽を求めた。抓りから齧りに変わり、皮が抉れて肉を裂いてしまう程齧る。だが、それは痛みでなく快楽として脳は捉え、ゴロツキメンバーは幸せに満ちていた。
辺りはAKNの香りはすっかり無くなり、イカ臭さと血の香りで満ちていく。
「...お前ら仲間なんだろ?なら、お互い気持ちよくさせた方がいいだろ?ほら、殴りあってどんどん幸せになりな。」
男の言葉をきっかけにゴロツキメンバーは互いを殴りあった。力いっぱい、憎い敵を倒すように渾身の攻撃をする。すると殴られた方は幸せに浸り、殴った拳の痛みも快楽。そして殴りだけで飽き足らず、蹴りや引っ掻き、仕舞いには首絞めだったり目や舌を抜き取ろうとする。
傍から見れば残酷な殺し合いでも、当の本人達は快楽の分け合い、楽園だった。
顔の形は最早判断がつかない。拳は砕け、足の骨も折られ、呼吸困難で苦しい。なのに気持ちいい。本来ならとっくに死んでも良いはずなのに、彼らは死に果てるまで殴り合いを続けた。
結果、一人は生き残るが、その者も最後は自傷行為の自殺。十五人の不自然な遺体が倉庫内に倒れていた。
その光景を見ていた男はいきなりグキッと首の骨を鳴らすと、ゆっくりと口を開いた。
「....やっぱり、言葉による指示がないとダメね。自然に相手を襲える感じになればいいんだけど、そこまで上手くはいかないか。AKNの効果も殆ど把握出来たし、上手く変化出来るか試してみないとね。」
男は遺体が横たわる血の池に足を踏み入れ、余っていたAKNを取り出し、ジーッと見つめていた。
「私とあの子の力があれば、この世界は私のモノになる。考えてもみなかったよ、私が真剣に世界を支配しようなんて考える日が来るなんて。
それに...凄い魔力を感じて様子見たら思いもよらない収穫。やっぱりこの世界に来てたのね。
......."委員長"。」




