バドー
自信満々に宣言したバルガードだったが、周りの反応は誰もがサチコ同様呆れている様子だった為、バルガードも気まずそうにした。
「...ま、まぁそんな話は置いとこう。早速本題の方に移る。知ってる者も居ると思うが、シアラは予言で近々戦争が活発すると知った。ただな、予言前からイザゼル帝国の兵士で活動してる復国軍から知らせを受けている。訓練強化やら作戦会議だの色々とやっている。」
彼の言葉に先程の和やかな空気感は一気に消し飛ぶ。全員が復国軍員として幹部の話に集中していた。
「作戦やら日時はまだ分かっていない。ただ、叩く場所は分かってる。当然と言うべきか....イヤラ山が戦場になる。恐らく開戦以上の過酷な戦いになり、俺達も参戦する。当然裏方だ。
想像以上に厳しいのは明らか、最悪...ここにいるメンバーが欠けることも全滅することだって有り得る話だ。」
その言葉を聞いたサチコは周りのメンバー達を見る。誰しもが大切であり、かけがえのない人達。それが欠けたり、自分が命を落として会えなくなるのが何よりも怖く、サチコはようやく戦争に対する恐怖感を感じた。
だが、そんな暗い感じのサチコとは裏腹に、ステアは白い歯を見せ、微笑みながらバルガードに話しかけた。
「バルガード、私らを見くびらないで貰いたいね。ここにいる奴ら全員しぶといし、こんな序盤で死ぬようなタマじゃない。全員、アンタが認めた奴らばかりだろ?」
「....フッ、そうだな。お前達には期待してるし、実力もよく分かってる。イザゼル帝国水準だと六将クラスはタイマンでも何とかなりそうだしな。
ただ、俺は復国軍の幹部であり、このギルドの長だ。俺達が実力集団の俺達灰色の十字架が無くなるだけで、復国軍の戦力はかなり減る。有り得なくてもリスクは考えるさ。」
バルガードは机に置いてあったペンを手で遊びながらしんみりとした口調で言う。だが、ステアの言葉に元気づけられたのか、表情はどこか明るかった。
「...ステアの言う通り、イヤラ山での戦場は大きいが全体を見れば序盤だ。ここで戦力を失う事は避けたい。故に、新メンバーを迎え入れることにした。これにはエンスとロアさんも賛同している。」
「だ、大丈夫なのそれ?だって期間ないんでしょ?サチコちゃんみたいに訓練する時間とか足りないんじゃない?」
いきなりの新メンバーの情報にノトレムは慌てながら抗議する。だが、それにはエンスが相変わらずのニヤケ顔で答えた。
「全然大丈夫だよ〜。だって、今回僕とバルガードが出掛けたのってそれのスカウトも含んでだしね〜。しかもロアちゃん公認、文句無いでしょ〜?」
「も、文句なんかはないよ。でも、一体誰なの?信用出来るの?」
「出来るね〜、だって復国軍所属だも〜ん。復国軍収容所の看守さ〜。アイツだよアイツ〜、あの真面目君〜。」
その言葉にノトレムは声を漏らしながら何度か頷いていた。他のメンバーも心当たりがあるようで、顔の表情が柔らかい。ただ、サチコは当然混乱していた。
――え?誰なの?それに収容所?何それ?復国軍にもそういうのあるの?あぁ....なんだか頭がごっちゃだよ〜...
混乱して頭から煙が出そうな所でギルド長室の扉が開く。
扉から入室してきたのは、少年のような男性だった。灰色の帽子を深く被り、灰色の厚い生地に膝まで伸びる黒縁コートを着ており、戦前の日本学生のような格好。しかし、それに合わせないかのように帽子からはオレンジ色の髪がチラつき、身長もサチコよりか少し小さい。
その者は堂々と歩き出し、バルガードの机の前に立つと、メンバーに自分の顔が見えるようにと振り返って立ち尽くす。
完全にバルガードと被っていた為、バルガードはひょこっと後ろから顔を出した。
「そ、それじゃあ紹介する必要もないと思うが一応。復国軍収容所から灰色の十字架に転勤のバドーだ。」
「バドーッス。皆さん相変わらずお元気そうで何よりッス。実力不足だとは思ってはいるッスけど、足を引っ張らないように精一杯やるッス。」
バドーが深々と頭を下げると、全員が彼を拍手で出迎えた。訳が分からないサチコは動揺しつつ、周りに合わせるように拍手をした。
「じゃあ改めて宜しくなバドー。頼りにしてるぞ。」
「ッス。"元三聖候補"のバルガードさんに期待して貰うからには頑張るッス。」
「ハハ。その肩書きも懐かしいな。あ、それと言い忘れたが、ここにはお前を知らない子もいる。サチコって子だ。話は聞いてないか?」
「サチコ?あぁ〜、感情型で新天地出身とかいう話の奴ッスよね?聞いてるッス、復国軍の期待の星みたいな奴ッスよね。一体どんな奴.......」
バドーは目を細めながら周りを探し、サチコと目が合う。視線が合ったサチコはドキッと緊張で心臓が跳ね、慌ててお辞儀をした。
そんなサチコに対してバドーは何も言わない。顔や身体も硬直し、石の如くジーッとサチコを見つめていた。そんなバドーの反応にサチコだけでなく、ギルドメンバー全員首を傾げたのだった。
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夜も更け、街の電灯がぼんやりと街を照らす。殆どの者が今日の祭りの余韻に浸りつつ眠りについている頃、巨大な倉庫の中には光で満ちていた。倉庫内は埃が充満しており、倉庫の橋に積み上げられた木の箱も埃まみれ、整備もされていない用済みの倉庫に十五人の男達が円になって座っていた。
シンドム率いるゴロツキチーム。全員が顔色を黒くし、シンドムの発言に耳を貸していた。
「....って事だ。ともかく、俺達は解散。ヤクもやらん。そうすりゃあ狙われることなんてねぇ。正直、シアラちゃんは恋しいが、命を犠牲になんか出来ねぇ...俺なんてまだ股間が痛てぇし....」
シンドムは両手を股間に填め、奥深く残っている痛みに眉間にシワがよる。他の者達も同様の考えで、誰しもがこのままチームを続けていこうとは思わなかった。
シアラを追った五人はもれなく股間攻撃に脅しを聞かされ、サチコを襲った八人は不運の呪いで死にかけ、後の二人は新人の為口出しは出来ない。
すると、シンドムの側近的な立ち位置の茶髪の男が重い口を開いた。
「...何なんですかねアイツら。只者じゃないって言うか...どう考えたって普通の下級国民じゃない。黒爪ですか?」
「いや、違うだろ。もしそうだったら俺達殺されてるよ。なんせ、奴らがコソコソ輸入してるブツを盗んだんだからな。まぁ、ただ単にバレてないって可能性もあるがな。」




