襲撃理由
向かい合っている二人にはまだ薄らとしかサチコの魔力を感じていないのか、変に余裕な表情を浮かべており、リーヤは脳天気な彼らを哀れみながらサチコに耳打ちする。
「サッチー、魔力抑えて。帝都じゃないとはいえ、ウチらは復国軍。大きな魔力はこんな所じゃ使っちゃダメだよ。」
「なんで!?シアラさんが危ないのにそんな呑気なこと出来ないよ!あんな奴ら....すぐに...」
「駄目だよサッチー。このままじゃ勢い余って殺しちゃう事も有り得るから。落ち着いて...大丈夫、シーチャは捕まりやしないよ。ウチを信じて?ね?」
耳元で優しく囁き微笑むリーヤ。そんな彼女を見てもサチコは怒りに小刻みに震えていたが、リーヤの顔を見ているうちに心が段々と落ち着くのを感じた。
「...ありがとリーヤちゃん。もう大丈夫だから...」
「うん。じゃあシーチャを追い掛ける前に奴らの目的聞いちゃおっか。ウチは左の奴倒すから、サッチー右の奴....いける?」
「.......うん、頑張る。」
少し笑みが戻ったサチコにリーヤは微笑んで背中を二回ほど軽く叩くと、左の男へと距離を詰めていく。それに続いて、サチコは右の男に詰めていき、二人の男はナイフを片手に立ち向かった。
サチコと男の距離が近付くと、男は一歩前に出てサチコに切りかかってきた。
サチコはリーヤの言葉で落ち着きを取り戻しているが、シアラを襲った男達に憎悪を感じている。そんな男が目の前にいて切りかかっているのに、サチコの心は毛程も乱れない。
自分に放たれた刃が遅く、今まで経験した事の無い余裕に戸惑い、腰に携わる新たな刃でそれを受け止める。
ここでまた違和感を感じる、軽すぎると。自分より身長や体重も多い筈の男は、まるで自分と同じくらいの女からの一撃。思わず、手加減をしているのかと思うが、顔を強ばらしている男の顔がそれを否定する。
「....えい!!」
サチコは力を入れて短刀を振ると、男のナイフは彼の手から離れた。目を見開いた男は、咄嗟に魔力を帯びてサチコに掌を向ける。
だが、魔法を使うよりもサチコの抜き手が男の首元に当たる方が早く、男は息を吸えぬ苦痛と首の痛みに気を取られる。
そして素早くサチコは男の真後ろへ移動、男の頭を両手で掴み、彼の背中へ突進したのと同時に両太腿を踏み、男は悶絶しながら前から地面に激突。気を失ってしまった。
一人の男を難なく制することが出来たサチコ。自分の両手を見つめて呆然としていた。
――日本にいた時じゃ絶対に有り得ないよこんなの...私、こんなにも力が着いてたんだ。今思えば魔法無しの相手なんてロアさんだけだったし、実践相手は復国軍のエリートが危険視する程の男....
ロアさんにボコボコにされて自信なんて全然無かったけど....私のやってきたこと、無駄じゃなかったんだ。
魔法という異世界で気づかない内に会得していた力ではなく、この世界で生活し、積み上げたものが形となって現れたことにサチコは感動する。目からうるうると涙が出そうになり、それを何とかこらえるのだった。
「お!やるじゃんサッチー!ウチより早かったんじゃない?」
リーヤは気絶している男の襟を掴みながら近付いてきて、サチコに掌を向けた。彼女の行動の意図が伝わったサチコは、込上がる達成感を感じながらリーヤとハイタッチをするのだった。
するとリーヤは持ってきた男を寝かせ、平手を何発かお見舞する。そんな彼女にサチコは不安そうに尋ねた。
「リーヤちゃん?本当にシアラさん大丈夫?こんな事してないで早く追いかけた方が...」
「大丈夫だって。シーチャの位置はウチの魔法で探知出来るし、バックに誰がいるかとか確認する必要あるよ。」
そう言われてもサチコにはパッとせず、不安で泣きそうになりつつも首を傾げる。
「バック?それって噂にも出てた黒爪のこと?」
「それもあるけど...もしかしたら、魔人ローが絡んでくる可能性もあるよ。」
「....まさか........だって、あの人...人を操れるほど器用には思えないよ?」
「そんなの分からないじゃん。魔人ローは元々ゴリアム皇国にいた。なのに、何でイザゼル帝国に来たの?その目的は?戦争だって近付いて、デモーノ街には悪い噂。変な...嫌な事が交差してる。用心しといて損は無いよ。」
その言葉にサチコは口を紡ぎ、リーヤは自分の放った言葉が影響しているのか、不安の色を出した。再び男を起こそうとすると、サチコは少しだけ口を開いた。
「....もし魔人ローだったり、もっとヤバいのが関わってたら?」
「........シーチャの救出を最優先。最悪、魔力全開放で戦うことになるし、お互い覚悟が必要になる。
ま!そんな気にしなくていいよ!こんなの念の為だし、ただのしょーもないことの方が確率的に大きいって!」
リーヤは元気良くサチコの肩を叩いた。その彼女の明るさと行動に救われる部分はあるものの、心の端では不安が残る。それはリーヤも同じだった。
そして数回ビンタを続けていると、男は意識朦朧だが目を覚ました。
「はぁ〜、やっと目を覚ました。...あんた達、一体何?シーチャを何で狙うの?」
「...何でお前らに言わないと...いけないんだ?....言うわけないだろ....分かったらその口は喋るんじゃなくて...俺のナニの為に動かせや....」
「....あっそ。」
リーヤは呆れたように溜息を吐くと、両手に魔力を集中させる。そして男の要求に応えるように股間に両掌を向け、彼女の魔法が発動される。
すると、男の股間だけが小刻みに震え始め、男はヨダレを垂らしながら頬を緩ませた。
「ハハッ....なんだよ、結構話通じんじゃねぇか。快楽の拷問か?...嫌いじゃねぇな。」
その言葉にリーヤは思わず鼻で笑ってしまう。ニヤニヤと男を小馬鹿にするような笑顔に、男の表情が固まった。
「拷問って事は苦痛を伴うって分からない?ウチが使っている個性魔法・音波は、小さな音の衝撃波。最初はちょっと気持ちいいかもしれないけど、段々痛みを感じ始めて激痛に変わり、最後はお花になっちゃうんだ。」
「...は?何言ってんだ?」
「え?逆に分かんない?爆発すんの。まぁそんな派手じゃないよ?肉がちょっとづつ飛び散るだけだから、徐々に解体って方が正しいかも。」
そんな彼女の言葉に男は戦慄していると、ビクッと身体を跳ねさせた。それは快楽ではなく、痛みによるものだと険しく股間を見ている男の顔が物語っていた。
「あ、痛んできた?まぁこれからこれの数倍痛くなるはずだから頑張ってね〜。そっか〜、自分の身体を張れる程重大な隠し事あるんだ〜。ウチもそうだから気持ちが分かるよ。」
「ッ....ま、待てって。言うから、言うからコレ止めてくれないか?約束するよ。」
リーヤとの戦闘で口を切ってしまったのか、血に染った歯茎丸出しでそう交渉しようとする。だが、そんな男の言葉にリーヤは耳を貸さず、鼻歌を歌っていた。
「ま、マジで!守るからさ!ガチでもう...ッッ....痛ッッッてぇんだよ!!こんなんで話せる訳ないだろ!!?」
それでもリーヤは応じない。音の衝撃波を与えつつ、欠伸をし始めた。
「ら、拉致だ!!あのシスターを拉致って犯そうってシンドムさんが言ってたんだよ!!俺らは新入りだから足止めさせられただけなんだって!!」
「...シンドムって誰?新入りって事はチーム?黒爪?」
「俺らはそんなんじゃねぇ!ただのゴロツキだ!!シンドムさんはあの汚ぇ男だよ!!あの人ら前からシスター狙ってて、周りの奴らが少ねぇ今がチャンスって思ってたんだよ!!」
必死に質問に答える男の回答にリーヤは息を深く吐いた。それは安堵の息。何かしら大きいものが後ろについていなくて良かったと心から思っていた。
「あっそ...本当にシーチャを犯したいってだけが目的?依頼とかの可能性は?」
「んなのねぇよ!俺らのチームは上の奴ほどヤクで頭がお釈迦になってる!まともな交渉出来っかよ!!特にシンドムさんは札付きだ!アイツいっつもシスター想像して全裸でオナ」
話している最中、男の顔に黒い何かが衝突する。あまりの禍々しい魔力を帯びたその物体は男の顔面と地面にヒビを入れ、リーヤは驚いて魔法を止めてしまう。




