殺意を放つ攻撃
「サチコ様、あまり時間は無駄にはしたくありません。早く乗車して下さい」
そう言われてサチコは慌てて乗車すると、それと同時に馬車は動いていく。
ステアがいた状況とは違い、馬車内は沈黙だった。何か話題をもちかけようとしたが、悪態をつけられるのが怖くてサチコは黙っていた。
しばらくすると馬車が止まり、ロアに続いて降車すると、辺りは草木に囲まれた森の中だった。
ロアはさっさと先へ進んでいき、サチコは慌ててそれに着いていく。草木の影響であまり陽の光が入り込まなず薄暗く、地面から出てきている木の根っこ・動物の足跡・木の枝等で凸凹になっている道を歩かされていた。
どれ程時が経ったか、しばらく歩いているとロアは急に足を止めて周りを見渡しており、それをサチコは息を整えながら見るしか出来なかった。
「.......ここくらいでいいか」
ロアは小声でボソッと呟くと、振り返ってサチコの方をジッと見詰める。ロアの無表情と威圧感に耐えられなく、サチコはスっと目を避けてしまうのだった。
一度逸らした目を再び合わせさせるかのように、ロアは身につけている灰色のローブを勢いよく外した。
膝辺りまで伸びている黒い薄いコードは白の模様でデザインされ、逆にコード下には白いズボンで黒いラインなどが描かれている。靴も高価で頑丈な黒く、全体像を見ても顔以外の肌は見えなかった。
「...サチコ様、何故我々はこんな森の奥まで来たと思いますか?」
「え?....それは......人の迷惑にならないとかですか...?」
「いいえ、答えは"人の目につかないから"です」
ロアはサチコを見詰めながらゆっくりと左手を上げた。その行動の意味分からずその左手を見ていると、視界端で右手が素早く動くのが見える。
そして次の瞬間、自分の右腿に激痛が走るのが分かる。サチコは咄嗟に小さい叫び声を上げ、空気を抜いた風船のように力が抜け落ちその場で尻餅をついた。発信し続ける激痛の信号を汗だくの顔で耐えながら発信源を見てみると、右足には小さいナイフが刺さっていた。
「え?え?な、なんですかこれ!?」
「それは....保険です。貴女に逃げ切られない為、逃走能力を低下させる為です」
サチコは刺さっているナイフの周りを押さえつけながらガチガチと歯を震わして、近づいてくるロアを見た。
ロアは相変わらずの無表情のまま、またしてもサチコをジッと見詰める。
「魔法を知らない、この世界の事を何一つ知らない、そして新天地出身。こんな話、信じられると思いますか?そんな馬鹿げた理由が通るものだと、本気で思っていましたか?」
「い、いや、私は!本当に」
「そう言い張っていれば信じると?そう本気で信じているなら何と愚かなことか...
それならハッキリと申しましょう。私は貴女を信用していません。貴女を仲間として迎え入れるなんて以ての外、敵として認識しています」
近づいてくるロアに恐怖したサチコは足を引きずりながら何とか遠ざかろうとした。だが、ゆっくりと歩くロアよりも遅く、徐々に距離が縮まっていく。
「シアラ様、ラーズ様、バルガード様、ステア様、この四名を丸く収めたから安心しましたか?恐らく、彼らは貴女を信じようとしていたでしょう。だから、私がこういった行動をとった場合は必ず止めて来る。
....ですが、今その四名はいません。ここで私が貴女を仕留めても"教育上の事故、魔獣に襲われた"と報告するだけです」
サチコはいつの間にか涙を流していた。人に責められ、人に恐怖したのは現代で何度も経験した。だが、それとは格が違う恐怖。言葉ではない、本物の殺意が向けられ、サチコの本能が"逃げろ"と叫び続けている。
ロアはゆっくりと両腕の服を脇までまくると、魔力を発するのと共に両腕が銀色に染っていく。
光沢ある機械に変わった両腕、右手の爪はナイフに化け、腕からは大きな刃物が突き出る。
左手は折り畳むように埋まっていき、代わりに腕の太さいっぱいの筒のようなものが出てくる。内部が青く光り、機械音が高鳴るのと共に光が段々強くなる。
「サチコ・マエダ。貴女を敵として排除します」
ロアは冷たく言い放つと、右腕を大きく振り上げてサチコに飛び掛る。
サチコは恐怖という名の拘束を振り払い、決死の思いで飛び上がってその攻撃を避ける。
サチコは木にしがみつき、怪我をしていない左足で何とか立ち上がってロアに目線を向けると、ロアの右手の爪が地面深く刺さっているのを見た。
そして一呼吸入れる暇なく、ロアはバッと顔を上げるのと同時に左の筒をサチコに向ける。
耳が痛くなる機械音を靡かせながら青い光が強まり、サチコは右足を押さえながら射線を避ける。
するとサチコの身体を覆える程の青い光のレーザーが筒から発射させる。凄い風圧に熱量、サチコは立っていられずその場にまた倒れ込む。
レーザーが消え去った後は焦げ臭さが辺りに充満し、木は焼かれて倒れていく。
そしてレーザーを打っている間に引き抜いた右腕をロアはその場で素早く振ると、右手の五本のナイフがサチコに襲いかかる。
ナイフと認識してはいないが何かが来ると感覚で分かったサチコは両腕で身体と顔を守る。
ナイフは五本とも命中。腹部に二本、両腕に一本づつ、右肩に一本。
「いっ!!ッッッッ!!」
言葉にならない激痛がサチコを襲い、その場で倒れ込んでしまう。だが、近づいてくる足音にサチコはすぐに立ち上がった。
アドレナリンが脳に満ち、全身の痛みをものともせずにロアから離れようとする。
――ほ、本気だ! あの人本気で私を! 嫌だ! 死にたくない!! あの時とは違う、私は....私は!!
「誰かぁ!!助けてください!!はぁ...はぁ....誰か助けてぇ!!」
足を引きずりながら小走りで精一杯声を張るが、その声は森林に吸収される。
だが、サチコは何度も叫び続けた。息が苦しくなっても嗚咽を吐き漏らしながらも必死に叫ぶ。
だがロアは無慈悲にも自分の魔法で空から追跡し、行方を阻むようにサチコの前へ降り立つ。
二人の目が会った瞬間、ロアは目に見えない程のスピードで右手の爪でサチコを切り裂く。
サチコは肩から斜めにかかって、激痛とマグマのような熱量を感じながら仰向けで倒れた。
もう身体を動かすことが出来なく、ピクピクと痙攣するのが精一杯。ロアはそんなサチコをロボットのような動かぬ顔で見下ろしていた。
「や...めて.......ころ...さな...」
サチコは最後の力を振り絞って助けを求めるが、ロアは何一つ声を掛けることなく右腕を振り上げた。血液で赤く光る爪を強調され、サチコはこれから訪れる死を強く実感する。
ロアが右腕を振り下ろす。サチコは顔に強い衝撃を感じ、意識がプツリと消えた。
ロアがサチコの顔を掌で叩いた後、ゆっくりと手を離してサチコの顔をじっと見る。意識を失っていることを確認すると、ロアは両腕の魔力を解き、元の腕に戻した。
「敵意及び反撃の意思無し。逃走のみを目的とし、それに魔法を使った形跡なし。
おめでとうございますサチコ様。第一の試験合格でございます。後の試験も乗り越えると期待しております」
ロアは意識のないサチコへ呟くように言うと、彼女の身体に治癒魔法をかけていく。




