迷子
「....美味いか?....サチコ....」
ラーズは眉を下げて少し不安そうにサチコに聞いてくる。そんな彼の問いにサチコは目の輝きで答えた。刺身を頬張りながらも目は宝石のように輝き、何度も頷く彼女を見て、ラーズは安心したのか微笑んだ。
そしてサチコは食べ終わると、溜め込んでいた感想を吐き出すようにラーズに話しかけた。
「凄く美味しいです!焼き加減も最高って感じで、もう言葉に表せないくらいです!!一体、何の動物のお肉だったんですか?」
「...それはナグイ....昼に釣ったあの魚だ。」
「え!?!?これ、魚なんですか!?完全に牛とか豚かと思ってました...でも、いいんですか?だって一匹しか釣れてないのに....」
「あぁ。...サチコは話を聞いてくれて....それに...ナグイに興味を持っていたから。.....良かったらと思って作ったから........喜んで貰えて....嬉しいよ。」
ホッと胸を撫で下ろしたラーズを見てサチコは顔が固まり、次第に熱が灯って目線を逸らしてしまう。そしてサチコはまたリーヤとシアラとのおちょくり攻撃が来るかと思って二人を見るが、二人共刺身に夢中だった為、安堵の息を漏らした。
すると、仕事真っ最中の若者一人が汗だくになりながらラーズに声をかけた。
「ラーズさん!もうそろそろ戻ってきて貰えません?ちょっと手が足りなくなってきました。」
「そうか....すぐに戻る。...そういう事だサチコ....この後も祭りを楽しんでくれ。」
「そんな...ラーズさんが頑張ってるのに....わ、私も何か出来ませんか?手伝えることがあったら協力します。」
「いや....それは大丈夫だ。...サチコは祭りが初めてなんだろ?....それなら...思い切り堪能してくれ。....後半になったら俺も合流する形になる...だから....気にせず楽しんできてくれ。」
そう言うとラーズは厨房に戻り、気合を入れるかのように半袖の袖を捲りあげる。そして大きく綺麗な二の腕を晒した時、サチコは少しドキッとするが、そんな筋肉を裏切るかのように小さな材料に向かって包丁で小さく素早く千切りしている姿に思わず鼻で笑ってしまう。
すると急に肩を叩かれた為振り返ると、リーヤが串に刺さっている刺身をサチコの口に入れ込んだ。突然の事で目を丸くしたサチコだが、すぐに口が幸せに満ちて美味しく味わった。
「よし!じゃあお兄ちゃんの料理も堪能したし!早速遊びに行っちゃおう!!ミニゲームもあったり、勿論食べ物もあるから最高に楽しんでいこうね!!」
リーヤが元気よくテントから出ると、それに続いてシアラとサチコも彼女の後を追って行く。
そこからサチコは二人の仲間と共に異世界の祭りを楽しんだ。
照明は提灯ではなく、この世界特有、焔色の光を放つひし形の魔具が照らしており、壁だけでなく宙に浮いて照らしてくれている。
ミニゲーム類は日本にある射的やクジ引き、金魚すくいがあるが、それぞれ異世界特有の魔具ややり方がアレンジされおり、中には日本には無いようなものもある。
松明の火を魔法で操り、制限時間内で何本の松明に火を移せるか。魔法で何個の重りを浮かせ続けることが出来るのか。店の代表者と魔法の質で競い合ったりと、魔法があるからこそ出来るゲームも盛り沢山だった。
勿論、食べ歩きも欠かさなかった。美味しそうな匂いに釣られてサチコはあっちこっちに移り、満足そうに食べる。
――私...絶対に太ってるな....体重測りたくないや...
そんな思いも過ぎるが、現実から目を逸らして思い切り祭りを楽しもうとしていた。
三人で盛り上がっていると、シアラは急に周りをキョロキョロし始めた。その様子は何かを探している様子で、二人は首を傾げる。
「....シーチャ?どうしたの?」
「すいませんけど、皆さん。私はここで一旦離れてもいいですか?皆さんの時間を取る訳にはいかないので。」
「?何なの?別にいいよ、ウチら付いて行くし。シーチャがいない祭りなんか楽しくないもん。ね?サッチー?」
「うん!そうですよシアラさん。逆にシアラさん一人で居なくなっちゃ、心配で楽しむものも楽しめないですよ!」
真っ直ぐに言われたシアラは恥ずかしそうにしながらも申し訳なさそうにペコペコと小さく頭を下げていた。
「す、すいません。なら、少しお付き合いしてくれますか?この辺りだと思うので、すぐ済むと思いますが...」
シアラはそこから再びキョロキョロと周りを見渡すように人混みを抜けていき、サチコとリーヤは互いに顔を見合せて首を傾げ、その後を追った。
するとシアラは祭りの本道から離れ、照明が殆ど照らされていない空間へ移動。彼女が足を止めた所は細い路地近くで、二人は何故シアラがそこに来たのか理由が分かった。
そこには貧相でホコリだらけの男の子が蹲っていた。目をゴシゴシと擦って啜り泣く音が聞こえる。
「シアラさん....この子は?」
「先程、祭りの安否を予知しましたよね?その時に、この子が泣いているのを偶然見たので心配で...僕、大丈夫?」
シアラはその子供に駆け寄り、その場でしゃがみ込んだ。そんな光景をサチコが見ていると、隣からリーヤがニヤニヤしながら肘で突いてくる。
「な、なに?」
「ありがとうね、サッチー。シーチャの行動とあの姿、あれはサッチーが取り戻してくれたんだよ?」
リーヤは顎でシアラの姿を差しながら言うと、サチコは昼に言われたラーズの言葉を思い出し、カーッと熱くなった。
「そ、そんな大袈裟だって....私なんて、特に何もしてないし、そんなお礼を言われるなんて...寧ろ、こっちがお礼するくらいだよ。」
「そうかもね〜。じゃ、これからサッチーがすっごく活躍して、ウチや皆の感謝を快く受けれる日を期待してるよ、ウチ。」
リーヤはサチコに笑顔を向けると、照れ臭くしながらサチコはそれに応えて小さく頷いた。
すると、シアラが男の子の手を繋いで歩いてくる。黒髪で目にかかる程前髪が伸び、僅かに見える目元にはクマがあり、生気を感じられない不気味な少年だった。
「で、どうだったのシーチャ。その子は一体誰?」
「私にもまだハッキリとは分からないんですが、どうやらご両親と離れ離れになったみたいで...家に送り届けて欲しいと。」
「親を探すんじゃなくて、家に向かうんですか?祭りで人混みが多くて大変ですけど、親を探した方がいいんじゃないんですか?
因みに家って...」
サチコが少年を気にしながら話していると、その問いに少年は振り向いて指を差した。
指の先は異様な建築物を指しており、それは家と家を積み合わせたような異様な建物。祭りの会場からかなり離れていた。
「ゲッ!あんなとこまで行くの?シーチャ、サッチーの言う通り親を探した方が早いよ。」
「私もそう思うんですが、この子がどうも...それを好まない様で。」
シアラの言葉に共感するように、その少年は二人の目を見ると顔を横に振った。
「う〜ん、困ったな〜。あんなところまで行ってたら、祭り最悪終わっちゃかもしれないし....」
「はい。なので私は一人で行きます。ご両親を真っ先に探さないのも何かしら理由があると思いますので、ご自宅の様子や色々この子の為に調べようと思います。」
「あんな所まで一人で行かせる訳ないじゃん。ウチもこの際だから付いていくよ。サッチーは?」
リーヤの問いに食いつくようにサチコは顔を縦に振った。一人を嫌った訳ではなく、嫌な予感が過ぎったのもあったからだった。




