屋台
会場へ戻ると、既に準備と開催の挨拶が終わったようで、色んな人が屋台のミニゲームだったり食べ歩きを堪能していた。
戻ってきたサチコとリーヤを見たグリは慌てて駆け寄り、先程の謝罪と例の言葉は言わないよう皆に伝えたとの報告。
それで少しホッとサチコはするが、よくよく考えると自分の黒歴史がここにいる殆どの人の中で思われていると思うと再び吐血しそうになる。
「サチコさん!!もう大丈夫なんですか!?」
精神ダメージを耐えていたサチコを見て、シアラは飛んで駆けつけてくる。まるで子供が怪我をして飛んでくる母親のような慌てっぷりに笑みを洩らすが、ラーズの話を思い出して急に恥ずかしさと幸福感が混み上がってきた。
「シアラさん。すいません、多分もう大丈夫です。」
「そうですか。でも、無理はしないでくださいね?無理だったら遠慮なく言ってくださいよ?」
「はい。それとシアラさん、それってなんですか?」
サチコは先程から気になっていたシアラの両手に指を指した。彼女の手には木の棒が握られ、その棒には皮を炙ったようなロール状の物が刺してある。
「あ!そうでした。これはサチコさんの分で、こっちはリーヤさんの分です。何か口に入れれば気分も直るんじゃないかと思って、買ってきたんですよ!」
笑顔で差し出してきた串をサチコはキョトンとしながら受け取る。作られたばかりなのか、そのロール状の皮がサチコを誘惑するように湯気が立っていた。祭りの照明により皮は脂で光、それを見ているだけサチコはヨダレが垂れそうだった。
――そういえば、朝からロクな物を何も食べてない。これは何の食べ物なんだろ?見た目的には唐揚げの衣を串に巻き付けたって感じだけど....
すっごくいい匂い...
サチコは未知の食べ物をニヤニヤしながら眺め、リーヤが美味しそうに食べているのを確認すると、自分も口を広げた。
噛んだ瞬間、予想通りのカリッとした衣特有の感触がするが、噛んだ所から焼きたての牛肉かのような脂と味が口に広がる。牛肉の旨味と脂気はそのままで、薄い衣に閉じ込めたのような感じの食べ物は、少ししか含んでいないにも関わらず予想以上の満足感だった。
「ん〜!!これ、凄く美味しいです!なんて言うんですか?」
「これはモアビーフっていう魔獣の皮です。カリカリしてて皮だけでも美味しいでしょ?お肉の方は、それはそれは....頬が蕩けそうな程に美味しいんです。
あ!それに、あそこのテントで売っているスリブドウだったり、こっちのマルドフィッシュっていうのも美味しいですよ!」
モアビーフの皮のお陰で、今まで気付かなかった空腹が増して、サチコの腹の虫が鳴る。今すぐにでも行きたくて食べたくて仕方が無かったが、サチコは周りをキョロキョロしていた。
「あれ?...ラーズさんは?」
「お兄ちゃんならテントだよ。ほら、料理上手でしょ?前半はテントの方を手伝って、後半から参加するっていうのがいつもの流れなんだ〜。」
「え!?ラーズさんの料理をここで食べれるの!?!?」
目を見開く程驚くサチコに、別の意味で目を見開いて驚くリーヤはこくりと頷く。するとサチコの目がキラキラと光だし、そんな彼女の反応にシアラは首を傾げた。
「あら?サチコさん、ギルドではラー君の料理食べてないんですか?」
「そんな事ありません!食べますよ!おかわりする位に食べます!ただ...基本ロアさんで、週二でラーズさんが趣味含めて作ってくれるんです。
それに、祭りっていつもよりご飯が美味しくなりますし!」
――と、言うのをクラスの女子が盛り上がって話していたのを教室の隅っこから聞きいてました...
勝手に思い出して勝手に心にダメージが入って辛くなるサチコ。突然顔が固まる彼女に二人共不思議そうに首を傾げていた。
「...ま、まぁそうだね。外で食べるのも一味違うし、それなら早速お兄ちゃんのとこに行こ?お兄ちゃんって結構評判良いから、ウカウカしてたら全部なくなっちゃうし。」
「そ、そんな!じゃあ早く行かなくちゃ!!シアラさんも!」
リーヤの情報に慌てたサチコはシアラの手を掴み、急いでラーズの元へと向かった。サチコのらしくない行動にシアラは目を丸くし、そんな彼女の顔をチラッと見たサチコは咄嗟に取ってしまった行動を後悔して顔を真っ赤に染める。
リーヤも後から続いて三人はラーズが手伝っているテントの元へと辿り着く。だが、そのテント前には何十人もの人が列を作って並んでいた。オマケにテントからはとても香ばしく美味しそうな匂いがサチコを煽るように鼻を刺激する為、サチコの落ち込み具合は大きかった。
落ち込んでいるサチコにリーヤは肩を叩き、テントの裏へと誘導しようとする。咄嗟にサチコは身内優先の裏ルートだと悟って最初は拒否したが、ラーズの料理が食べれるという誘惑が勝った。
テントの裏へ行く時、期待で胸を膨らませているであろう並んでいる人を見て、サチコは少し罪悪感を感じたのだった。
テントの裏から侵入すると、ラーズ含めた男性四人と女性一人で経営し、女性が会計で男性は調理だと言うのが一目で分かる。
――並んでいても見えるだろうけど、裏から入ったって事もあって普段目にすることが出来ない厨房に入った感じ...何かちょっと感動しちゃうな〜。
慌ただしく調理を行っている男性四名の姿を見て、何だかジーンと目頭が熱くなる。しかし、汗水垂らして懸命に働いている男性を見て少し胸がキュンと鼓動を感じ、そこから得意の妄想世界に入りそうになる。
妄想材料をかき集めんと言わんばかりに男性陣を念入りにチェック。頭からつま先まで観察、小さな仕草だったり人間関係をチェックし、脳にインプット。
スイッチが入ったサチコは最早、当初の目的など空の彼方へと消えてしまっていた。
「....来たか。思ったより....随分早かったな...」
サチコは取り憑かれたかのようにボーッとしており、すぐ近くで声がした為反応すると、そこにはラーズがいた。
汗水垂らして、肩に掛けてあったタオルで首周りの汗を拭いていた。
いつの間にかの接近でビックリしていたサチコを他所に、リーヤは笑顔でラーズに近付いて手で皿を作った。
「うん!思ったよりサッチーが早く回復したからね〜。それより、私達が来るのがわかってたってことは〜?つまり〜??」
「そんな焦らすように言わなくていい....ちゃんとお前達の分は取ってある。....少し早めに作ってしまったから冷めてるかもしれないが......味はそこまで変わらないと思う。」
ラーズは厨房の端の机に置いてあった紙袋を取り、リーヤに小さな串と一緒に渡す。リーヤは慣れた手つきで紙袋を開くと、八切れの焼いてある肉の刺身があった。
冷めているとはいったものの、湯気が立ち上がり、シアラも興奮している様子。
渡された串をリーヤはそれぞれに配ると、すぐに刺身を串にで刺して口に運ぶ。それに続いてシアラも食べて、美味しそうにウットリとしていた。
戸惑いながらもサチコも女子二人の輪に入り、串で刺して食べる。
身はとても柔らかく、歯はすんなりとその肉を噛み切る。すると、中から程よい脂と焼いたというのに果物のように甘い味が口を満たし、サチコは思わず声を漏らしてその味に感動する。
焼き加減も程よく、味と共に温かさが広がり、それは癒しにさえ思える。幸福感が混み上がって思わず口が開きそうになりつつ、味の幸福を何度も噛んで楽しんだ。




