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黒の駒〜呪いで世界を平穏に〜  作者: 矢凪川 蓮
最悪の祭りの日
127/340

会場

 見ているだけで心が浄化されていく感覚になりつつ、サチコは微笑みながらシアラを見ていた。


 すると、シアラの魔力は収まっていき、余程体力と精神力を消費したのか、息は荒く汗から額が流れていた。


 魔法による結果が如何なるものか、サチコ達は息を飲んでシアラの反応に注目する。彼女の反応は、皆の不安を消し去る笑顔だった。



「大丈夫です!今日一日の"祭りは"無事に開き、いつものように楽しいものになります!祭りの中で誰かが亡くなってしまったり行方不明者も出ません。ただ、迷子っぽい子供は見たくらいです。」



 そのシアラの言葉に三人はホッと溜め息を吐いた。安堵の溜息の後には興奮が上り詰め、言葉を発さずにサチコとリーヤは手を合わせて跳ねていた。



 ――やった!変な噂聞いたから凄い不安だったけど、これって確定的に楽しめるって事だよね!?それじゃあスラム街も何も無い!!最高の日になる!!

 あ...そういえば....



「シアラさん、その...未来予知(ビジョン)ってどんな感じで分かるんですか?前にステアさんから聞いた話だと、何か予言って感じで文章だったと思うんですけど。」



「そうですね〜...まず見たい未来を"明確に"し、集中。そして魔力を使う時、予言なのか予知なのか選べるんです。予知は近々起きる未来の映像が頭に飛び込んできて、予言は言葉が浮かびます。内容は薄いですが長期間の物を知ることが出来ます。」

「そうなんですね。じゃあ今回は...」

「えぇ。"祭りが"ちゃんと開かれて、無事皆が楽しめるか...今回は予知で明確、結果は何も無くて良かったです!」



 シアラは満面の笑みでその場ではしゃぐように飛び跳ねる。そんな彼女を見ているだけでサチコは幸福感が溢れ、胸がポカポカと暖かくなっていく。



 ――シアラさんって本当に優しくて綺麗で聖人っぽいけど、こんな子供みたいな姿見ると...聖人を通り越して天使様だよ。シアラさんには...いつでも笑顔でいて欲しいな〜。



 サチコは子を見る母のように微笑んでいた。この先の未来が安全に確保されたものだと勘違いをし、サチコはこの日の自分の怠惰を憎むことになる。





 サチコ達は街の中心へと歩いていった。街に入り初めの先程の場所から一時間以上歩き、自分が想像した以上にこの街が大きいものだと実感させられた。


 綺麗に街を照らしていた夕日はすっかり引っ込み、辺りは小さな火しか灯されていない古い街頭のみ。

 スラム街であるというもの加わり、危険度が急激に上がるのをサチコは実感するが、彼女は余裕と言わんばかりに鼻歌をご機嫌に歌っていた。



 ――う〜ん、暗くなってきたな〜。でも、心配要らないんだよね〜。なぜなら!我らがシアラさんの未来予知(ビジョン)があるから!!な〜んてね。



 心の中で宣言ごっこをしてしまう程サチコは浮かれきり、夜の暗さや風の寒気などに一切恐怖は抱かず、祭りのことばかりを考えて楽しみにしていた。



 すると、そんなサチコを歓迎するように向かう先から輝かしい光を感じる。急な光に目を細めながらその先を見てみると、そこには道の端に展開されているテント、そして笑顔で溢れる人達の姿だった。


 着ている服は先程と変わらず貧相だが、それを消し飛ばすように楽しそうに大人達はテントの設置や材料運びに熱心になり、子供達は笑顔で走り回っていた。



「わぁ〜!もしかして、ここが!?」

「そうですよ、ここが祭りの会場です。準備は順調な様ですね。さ!私達も早く向かいましょう!食糧も運び込まなきゃいけませんしね!」



 シアラは興奮のあまり走り出すと、すぐに小さな段差にコケてしまう。

 そんな姿を見てラーズは微笑みながらサチコ達に「やれやれだ」と言わんばかりに困った顔を向けると、彼女に向かっていく。リーヤはそれに続く様にサチコの手を握り、一緒に祭りへと向かうのだった。



 サチコ達は祭りの中を進んでいき、周りで幸せそうに人達を観察していくと、シアラは祭りの中間にある高台近くのテントへ着く。

 すると、そこにはタオルを頭に巻いている口髭が目立つ男性が笑顔で出迎えた。




「シアラさん!どうも!お疲れ様です。」

「えぇ!グリさんもお疲れ様です。急なお願い事をしてしまい、すいませんでした。」

「いえいえ!こちらとしても楽しみにしとりましたし、寧ろ毎日やってもいいくらいですわ!ガハハハハ!!」



 グリという名の男性は高らかに笑っていると、シアラは思い出したかのようにリーヤに両手を向けて物を欲していた。そんな彼女にリーヤは微笑みながら籠から例のプラセルを取り出して、シアラに慎重に渡した。



「ありがとうございます。...グリさん!!見てくださいこの立派なプラセルを!私が見つけたんですよ!!?」

「おぉ!こりゃあ凄いな!!プラセルを見つけるなんて、やっぱシアラさんは運がいい!日頃の行いでしょうな〜。」



 グリがそう言うと、サチコは当たり前だと言わんばかりにドヤ顔で何度も頷いていた。その行動が目に入ったグリはサチコを見ると、急に顔が固まってジーッとサチコを見詰める。

 急なグリの反応にサチコは不安に思っていると、顎に手を置いて何かを思い出そうとしていたグリはハッと気が付く。



「あ!思い出したぞ!!...姉ちゃんって、新聞に載ってた"ハラキリ女"じゃないのか??」



 突然の爆撃にサチコの城は半壊。頭が真っ白になり、自分の黒歴史ですぐに埋まる。思わず吐血しそうになるが、こちらを迫真の顔でみるリーヤ達の顔を見て、その場は何とか耐える。

 そう...その場だけは。



「ん?あ、本当だ!ハラキリ女だ!」

「おぉ〜、ハラキリ女ってシアラさんの知り合いだったのか〜。」

「ねぇお母さん。ハラキリって何〜?」



 グリの言葉に反応して群がるギャラリーの目線がサチコに集中し、四方八方から地雷発言が投下。サチコの城は半壊所か崩壊。更地になり窪みになるほどの衝撃になる。



「グ....グフッ!!」

「さ、サッチー!我慢だよ!あっちの物陰に行こ!!」



 リーヤは大量吐血寸前のサチコを連れて人目がつかない場所へ移動する。そんなサチコの様子を見てグリは後頭部を掻きながら困っていた。



「もしかして...悪いことしちまったかな?」

「あはは...そう、かもしれませんね。」



 リーヤに連れて行かれたサチコは裏路地へ逃げ込み、座らされる。人目から離れ、暗い空間が落ち着いた為吐血は免れ、口からは血が垂れるだけだった。



「ふぅ〜....サッチー、大丈夫?」

「リーヤちゃん...私....この街の人達....た"い"っ"き"ら"い"!!!!」



 魔力を放って黒目が漆黒になり、涙を流しながら口から血が流れ、眉間にもシワがよる。まるで大事な人を失った仇を見るかのような目付きにリーヤは苦笑いをするだけで精一杯だった。



 それからは「祭りには行かない!」「絶対また言われる!」と何度もリーヤに訴えるが、時間が経ってリーヤが何度も諭してくれたお陰で落ち着き、サチコは渋々リーヤと共に会場へ戻る。



 ――.......ノトレム先輩の気持ち........今ならめちゃくちゃ分かる。



 ふと、サチコはそう思ったのだった。

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