シアラの変化
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「....俺達は強奪の形になったが馬車で何とか逃げて...バルガードさんと一緒に暮らしてたエンスと共に....イザゼル帝国へ来たんだ。...あの時からもう...七年経った。」
綺麗な陽の光が綺麗に水面を写し、鳥のさえずりが聞こえる平和的な環境でラーズの口から聞かされた三人の暗い過去。水面を眺めるラーズの表情が悲しげに見え、サチコは表情も心も暗くなっていく。
「そんな....そんな酷い事が...」
「確かに俺達は犯罪者だな....不法入国は間違いないし国としても情報漏洩を疑うのも仕方がない....だが...その罪以上の仕打ちを俺達は受けた。....ただ幸せに...生きていたかっただけなのに....」
ラーズは魚の餌を籠から取り出し、浮きがある所に投げ入れた。溜息を吐き、注目すべき浮きより先の景色をボーッと眺める。
「...シアラは目の前で大好きな子供達を無惨にも殺された。....リーヤは何度も何度も死の恐怖を経験した。...俺だって思い返すと辛いし怖いが....二人よりかは幾分かマシだ。...だから、俺達の過去を話す時には決まって俺がするようにしている....」
――そうなんだ...だから、リーヤちゃんは私をここに....聞いてて悲しすぎるよ。私は裏奴隷だったりムルガの事もあって、この世界がどれ程差別的で残酷なものだと理解したつもりだったけど....この世界の闇は底なしだ...
自分の事のように溢れ出てくる悲しみと苦しみ、そして憎しみ。瞳の色が漆黒になっていき、魔力が溢れてきそうになり、サチコは慌ててそれを押さえ込もうとした。
「...その、質問良いですかね?....なんでバレちゃったんですか?...理由とかは...」
「....神父だ。奴はシアラに目をつけていたんだが....シアラはそれをいつも上手く躱していた。...それで逆恨みとして情報を流した。
バルガードさんは...教会の事を知っていてシアラとも仲が良かった...当時兵士として活動していて...神父の行動も耳に入り...飛んで駆けつけてくれたんだ...今のバルガードさんとは思えないようなカッコ良さ....だな。」
ラーズはフッと笑いを零しながら糸を引き上げ、無くなっていた針に団子の餌を付けると、再び投擲した。
場を和ませようとしてくれたラーズの配慮は分かっていたものの、話の内容的に笑っていいのか分からず、サチコは少し困った。
「...そうですね。....えっと...最後にいいですか?その、責める訳じゃなくてただの疑問なんですけど...シアラさんはその結末を魔法で予知出来なかったんですかね?」
「.......それは俺達にも分からない。」
「え?」
ラーズの口からは答えが出るはずだと思っていたサチコは声を洩らした。特別に的確な疑問という訳ではなく、ラーズ達がその疑問に気付かずに生きてきたとは到底思えなかったからだった。
「その疑問は俺達もすぐに思った...逃げ切って一息ついたら真っ先にバルガードさんが聞いたよ....だが...シアラは口を開かなかった。...ブルブル震えながら頭を横に振るだけ....結局未だに分かってない...」
「そうなんですね....あの、うっかり見忘れてたとかはありますかね?そんなミスでそんな惨劇になったなら、言いたくないとか...」
「....教会の周りは上級国民で溢れている...だからこそシアラは毎日最大範囲の三日先まで予知を使って見ていた筈...
ただ...魔法を使ったのかどうかなんて一々俺達がチェックしている訳でもない....その線も有り得るが.......」
ラーズはそのまま口を閉ざしてしまい、自動的にサチコも喋らなくなった。無言の空間の中、サチコは頭の中で考えてみていた。
――皆気になっているのは分かる筈、それでも言えないってことは自分に少しでも非があるってことだよね。理由はなんだろ...うっかり見忘れてた?神父から迫られていたのを拒否し続けた負い目?何か取引的な何かが....
ば、馬鹿!私何考えて...シアラさんがそんなの了承する訳ないし、そんなの考えたら無限に出てくるよ!
頭に煙が上がり、変な予想している自分に罰を与えるかのようにポカポカと頭を叩いた。そんな彼女の行動にラーズは不思議がりつつも、口を開いた。
「サチコ...お願いがある。....シアラが何かしら理由をサチコに言ったのなら...例え口止めされたとしても俺達に伝えてくれないか?....俺達には知る義務があると...思っているからな。」
「分かりました。でも....私なんかに教えてくれたりとかはしないんじゃないんですかね?ラーズさん達より付き合いなんて短いですから...」
自信などなく困ったように呟くサチコを見てラーズは微笑んだ。笑顔を向けられるとはサチコは思っていなく首を傾げる。
「...サチコは覚えているか?....シアラと俺と出会ったあの日の事を...」
「それは勿論覚えてますよ!辛かったけど、絶対に忘れられない思い出ですし....あの時なんて、シアラさんが土下座するなんて衝撃的過ぎましたし、今でも鮮明に覚えてます。」
「実はな...教会の事件からあの日までの間....シアラは他人と距離をとるようにしていたんだ...」
「え?....」
再び撒き餌をしながら発したラーズの言葉にサチコは思わず声を漏らした。
「子供は大好きで....苦しんでいる人を助けたい気持ちは変わらない...だが、以前のシアラなら難無く踏み込んでいた領域には....立ち入ることは無かった。
不憫な子を見つけても....最低限の事をするだけ。...ナルテミ村の子達も....あれは昔のシアラが戻るようにと....行き場のない子供をバルガードがシアラに保護させていた....」
「確かに、ナルテミ村でもシアラさんは子供達と少し距離を取ろうとしてて、子供達もシアラさんよりも入ってきたばかりの私に懐いてくれてました。....失うのは辛いからって事ですか?」
「あぁ....だからあの日...サチコに対してとったシアラの行動は凄く驚いた。...それからはシアラは変わった....いや、元に戻ったって方が正しいのか...
村に行ってシアラと会う度に...嫌という程サチコの様子を聞かれたよ。」
ラーズの言葉に面をくらって固まっているサチコ。そんな様子の彼女を気にせず、ラーズは話し続けた。
「..「何か困っていることは無いか」...「力になれることはないか」...「元気にしているか」...しつこい程聞かれる。...そしてサチコが辛い経験をしたと言えば悲しそうにし....楽しそうにしていると言えば自分のように喜んでいた。」
そんな裏話を聞き、サチコはとてつもない嬉しさと、自分を気にかけてくれている感動に涙が出そうになる。涙が出ないように堪えるが、頬の緩みは抑えることが出来なかった。
「そうなんですね...シアラさんが....凄く嬉しいんですけど、何でシアラさんは私を?」
「...サチコが負の感情に呑まれた姿を見て....傷付いてもいいから助けたいって....思ったんだと思う。
...教会の事の罪滅ぼしなのか...それまで自分の中で巣食っていた悪感情の化身に見えたのか...それは分からない。
....ただ...シアラはサチコの事を自分の身以上に想っているのは....確信して言える。」
伝えられれば伝えられる程、サチコの心は温まり、溜まっていく歓喜が爆発しそうになっていく。照れ臭くてモジモジとしてしまうサチコをラーズは視線を彼女に向け、真剣な表情で見つめた。
「だから...もしかしたら俺達よりも...教会事件の真相を教えて貰えるかもしれない....もしもの時は宜しく頼む...
そして....シアラやリーヤの事も頼みたい...アイツらが暗い過去を忘れるくらい...一緒に居てやって欲しい...」
「....はい!勿論です!!」
サチコは元気に返事をして微笑むと、堪えていた涙が少しだけ溢れ出る。そんな彼女の笑顔を見て、ラーズの頬も緩むのであった。
そして、サチコはふと視界端で動くものが見えて、そっちの方に注目をした。
「...あれ?ラーズさん、竿が...」
サチコの指摘を聞いたラーズは自分の持っている竿の先端を見てみると、何度も上下に動いていた。そして浮きがあった場所に注目すると、水面には浮きが無く潜っているのだと分かる。魚が食い付いているのを確信し、ラーズは竿を上げると、魚の力が糸を伝わって手元に来る。
「これは...そこそこ期待出来そうだ...」
「や、やっぱり魚が!?ラーズさん!頑張ってください!!」
サチコの声援、竿のしなり具合を気にしながら引き上げると、青い魚の影が見える。それを見たラーズは立ち上がり、大きな両腕の筋肉を固め、勢いよく上げる。
すると、魚が水面から飛び跳ねるように現れ、そのままラーズの真横に魚は着地した。
青い光沢があり、背鰭もまるで皮のように薄く美しい。顔は横に平べったいが、身体は手先から肘の辺りまでの大きさだった。
水族館といったガラス越しでない生の魚、その上異世界の新しい生き物と言うだけでサチコは目を輝かせた。
「うわ〜!凄いです!これはなんて言う魚なんですか!?」
「...こいつはナグイっていう魚だ。...そこまで珍しくは無いが...中々に美味い....刺身よりかは焼いた方がいい。」
「私!魚を間近に見るのも釣りを見るのも初めてです!凄いですね!人より大きくないのにあんなに竿をしならせて!!静かなイメージあったんですけど、何か勝負って感じしました!!」
「そうだな....俺も結構好きな方だ。...指が埋まってしまうくらい柔らいのに...時には人に負けないくらいの力を持っている。....不思議で面白いな。」




