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黒の駒〜呪いで世界を平穏に〜  作者: 矢凪川 蓮
最悪の祭りの日
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ラーズ達の過去⑤

「この行為は極めて悪質であり、国家の情報漏洩も予測される!!故に、国を護る為!善良な市民のため!!この者たちは極刑に値する!!」



 兵士は大きく広げていた紙を勢いよく閉じる。すると、子供達側の兵士が一番左側へ移動。腰に携えた銀色の真剣を手に取り、一番端にいたラーズを兄と慕うサドの横へ付いた。


 人目が集まる広場、そこでの極刑、剣、それらでこれから何が行われるのかすぐに分かった。ラーズは顔を真っ青にしながら鎖を引きちぎろうとするがビクともしない。ラーズだけでなく他の子供達も身の危険を感じて必死に鎖から逃れようとする。



「くっ....サド!サド!!」



 ラーズは鎖を解こうとしながらサドの名を叫んだ。自分を兄として慕ってきて、最初は戸惑ったものの嬉しくもあり、実の弟のように可愛がってきたサド。

 他の子供達の前では冷静にしているが、ラーズの元へ来ると急に甘え出す。そんな愛おしい弟は見たことも無い絶望の顔色でラーズを見つめていた。



「.......お兄ちゃん。」



 小さく呟いたサドの声がラーズの耳に大きく鳴り響いた瞬間、兵士は剣を振り下ろす。


 サドの首は物の如く床へ落ち、身体の力は一瞬で抜け落ちてだら〜んとしていた。そんな光景に罪人達は目も言葉も失っていた。

 そんな止まったかのような時を動かすように、さらけ出しているサドの首からは血が勢いよく噴射。自分の目の前を真っ赤に染めていく。



「...嫌....嫌ァァァァァ!!サド君!!サド君!!!」



 シアラの甲高い悲鳴が頭の中で鳴り響く。その悲鳴が引き金かのように子供達は自分に近付く死を強く実感、パニック状態に陥る。泣き叫び、必死に逃れようと身体をひねり、死から何とか逃れたくて抗い続ける。


 だが、そんな抵抗を他所に、死の執行人と化した兵士は淡々と端から順に子供達の首を切断していく。


 カウントダウンのように近づいてくる死。ラーズは身体の震えが止まらず、呼吸をするのもままならない。涙は残酷な現実を見せないように溢れて視界が歪み、ボロボロと溢れてくる。


 そして、辛うじて見える視界でラーズは捉えた。自分達の処刑されている姿を見る上級国民の姿を。


 この処刑は見せしめ。同じような事が起きない為の公開処刑だ。本来ならば、同じ目に合わぬよう気を引き締めるところが、実際の上級国民は気を緩みきっていた。


 泣き叫んで絶望に呑まれていく子供らを高笑い、子供の首が切断される度に盛り上がりを見せる。まるでエンターテインメント。


 その光景を見たラーズは、自分を侵していた死の恐怖を打ち消し、怒りと悔しさで身体が燃えるようだった。

 ラーズは自分らを面白可笑しく見ている上級国民全員に呪いを振り撒くように、奴らの姿を鬼の形相で目に焼き付けていた。



「助けてぇ!死にたくないよぉぉぉ!!!シアラお母さん!!お母さ」



 まるで電源を切るかのようにリーヤの隣にいたミレミの言葉が消えて首が飛ぶ。教会の子供達の中で特にシアラを慕っていた幼い少女が無惨にも殺害される。


 反対側にいたシアラは絶望に呑まれきっていた。目の輝きは消え失せ、暴れていたせいで自慢だと言っていた髪がグシャグシャ。目と鼻からは体液が流れ、目の前には嘔吐の痕跡。

 最早、天使のように綺麗だった彼女の姿はどこにもいなかった。



 そして残されたのはラーズとリーヤの二人だけ。残りの子供達は全員首が転がっていた。


 順番的にリーヤの番となり、兵士はガチガチと歯を震わせるリーヤの隣に立った。



「リーヤ!リーヤァ!!」

「もう辞めてください!私が全ての責任を取りますからぁ!!私の命を捧げますからぁ!だから....

 だから!!リーヤちゃんには手を出さないでぇぇぇ!!私を殺してよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」



 必死に自分の名を呼ぶ兄の声、血反吐を吐き散らしながら叫ぶシアラの声、その大好きな二人の声が混ざり合い、リーヤの脳を掻き乱す。視界が歪み、フラフラとしてしまう。まるで夢の中にいるような感覚、しかしふと気付くと戻される現実と死の恐怖。リーヤの中ではそんな状況が繰り返されていた。


 兵士が剣を振り上げ、ラーズとシアラは訴えるように何度も叫んだ。血に染った剣の輝きを見て、リーヤは目を瞑り、受け入れ難い死を自然に覚悟した。


 だが、振り下ろされた剣はリーヤの気持ちを踏みにじるように寸前で止まった。リーヤが生きている事にラーズとシアラは一気に力が抜け、リーヤはようやく訪れる筈だった死の救済が来ないことに虚ろな目で兵士を見る。


 そんな少女の目を見て、兵士はニヤッとすると剣を下にいる上級国民に見せるかのように振り上げた。


 すると、下にいる上級国民が盛り上がり、歓声が聞こえる。何がなにやら分からない三人を他所に、兵士は再び剣を振り下ろす。しかし、その刃はリーヤの命に届かなかった。


 三人とも理解した。兵士はラーズとシアラの声に心打たれたのではない。処刑する子供が少なくなり、惜しくなったのだ。観客である上級国民が満足するよう、そして自分の手で人を盛り上げる快感に酔い知れていた。


 人の命は家畜以下、そう思わせるような行為にラーズとシアラは怒りに震える。そして何度も死の恐怖を与え続けられたリーヤは恐怖と苦しみでとことん痛み付けられ、今にもショック死しそうだった。


 しかし、それでも殺されない。リーヤが苦しめば苦しむ程、観客が楽しむから。


 次第に観客の盛り上がりが落ちていくのを実感した兵士は、高らかに斬首実行の宣言をする。ようやく少女が死ぬということで観客は大盛り上がり、その歓声が聞こえる中、兵士は遂に本気の振り下ろしを実行した。


 リーヤが死んでしまう。そんな現実にラーズとシアラは目を瞑ってしまう。悲しすぎる現実は見ることが出来なかった。しかし、異変が起きた。


 首のような何かが落ちる音ではなく、何かが盛大に倒れる音が聞こえた。同時に金属も床へ振動を鳴らしながら落とされ、耳障りだった観客の歓声も鎮まる。


 ラーズはゆっくりと目を開け、呼吸困難になりつつ恐る恐るリーヤの方を見る。すると、リーヤは恐怖に呑まれながらも生きており、横には喉元を抑えながら微痙攣している兵士が倒れている。

 そして、リーヤの後ろには兵士を睨む者が立っていた。



「この...クズ野郎共がァァ!!」



 倒れる兵士だけでなく、観客としていた上級国民に怒号を響かせたのは紛れもない甲冑を着こなす兵士。しかし、その兵士にはシアラだけでなくラーズもリーヤも見覚えがあった人物だった。



「....バルガード...さん...?」



 ラーズの消えかかるような声に応答する間もなく、バルガードは自分の剣を使い二人の拘束を解く。そしてすぐさま反対側の台へ飛び乗り、襲いかかってくる兵士を蹴り飛ばして台から落とす。

 すぐにシアラの拘束も解いた。



「バルガードさん....私...」

「話は後だ!早くラーズとリーヤも連れてここから逃げるぞ!!」



 生気もない弱々しいシアラの腰を持ち、バルガードは再びラーズとリーヤ側の台へと飛び移る。事態の収束の為、次々に兵士が台になだれ込んでくるが、バルガードは魔法による炎の壁を作り、リーヤをシアラ同様に腰を掴んだ。



「ラーズ!俺の背に乗れ!!絶対に離すんじゃねぇぞ!!」



 怒鳴り声のようなバルガードの声は頭が真っ白だったラーズに力と生きる希望を与えた。絶望とは違う、歓喜と希望の涙を流しながらラーズはバルガードの大きな背に捕まったのだった。


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