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黒の駒〜呪いで世界を平穏に〜  作者: 矢凪川 蓮
最悪の祭りの日
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ラーズ達の過去④

 この日はリーヤが前々から行きたがっていた舞台劇へ行く日だった。外の目がある為、シアラも神父も否定的だったが、リーヤは何度も何度もアタック。ようやく二人が折れて、ラーズを含めて三人で見に行くのだった。


 そして今はその帰りである。舞台劇は皇都でも屈指の人気団がやっておりジャンルは恋愛もの。十三になっても恋愛関連にはイマイチだったラーズだったが、リーヤとシアラは頬を赤らめて目を輝かせていた。


 劇の影響か、本来目立たないようにしなければならないのにリーヤのテンションは高かった。ラーズはそんな彼女を宥めながらシアラの方をふと見ると、シアラは周りに怯えながらキョロキョロしていた。


 これは出発の時もそうで、いつもの調子に戻ったのは劇の時間だけだった。



「....そんなに不安なら魔法を使えばいいのに...一発でどのルートで帰ればいいか分かる....。」

「あ、いや...ま、魔法を使うと変に目立っちゃうじゃないですか!近くに兵士がいて声を掛けられたら一巻の終わりですし....」



 シアラの様子は明らかにおかしかった。これまで保護している子供達の外出は何度も行っていた為、ビクビクしているシアラは不自然だった。

 すると、シアラは周りを気にしていたせいか足元の状況を見ておらず、小さい小石に躓いて転んでしまう。




「痛っ!」

「あははは!シーチャ何やってんの〜!」

「笑っている場合じゃないだろリーヤ...ほら....シアラさん立って...」

「うぅぅ....す、すいません...」



 シアラはしょんぼりしながら何度も謝っていた。彼女に手を差し出して起こしていたラーズは、ふと彼女が抱いている不安の種らしきものを思い起こす。




「....もしかして...エリーの事を...気にしているのか....?」



 エリーという名に分かりやすいほどシアラの表情は固まる。予感が的中し、ラーズは溜め息を吐いた。




「...確かに...教会から出る子供がいるのは初めて...その上....理由が本当の親が生きていた....それも相まって不安に思うのは分かるけど...大丈夫だと思う....。

 エリーの奴は...嫌で変な奴だけど...賢いのは確かだし....親を名乗る人達は信頼出来るんだと思う...。」

「そうだよシーチャ!それに、エリーってばシーチャを困らせてばっかで、シーチャめっちゃ疲れてたじゃん!皆で言っても全然聞いてくれなくて....

 とにかく!エリーが居なくなってシーチャは楽できるからいいじゃん!不安に思えば思う程損だよ!」

「それはそうなんですが...」



 言葉を喉に引っ掛けつつ、シアラは立ち上がって砂埃をはたくと、リーヤに手を伸ばす。シアラに手を差し伸べられたリーヤはニコニコしながらその手を掴み、二人は手を繋ぎながら歩いた。



「....エリーを変えられなかったのが不安の種なのか...?」

「何故...そう思うんですか?」

「シアラさんはアイツを変えようとしてた....どんなに嫌がらせをされても...何とか良い子にさせようと....

 でも...しょうがないと思ってる....僕には何だか...アイツが改心するなんて思えないから....」



 シアラを傷付けないようにと言葉を慎重に選びながらラーズは言うと、シアラは立ち止まって空いた手でラーズを抱き寄せた。

 フワッと甘い香りが鼻に触り、抱き寄せられて動揺するラーズにシアラは微笑みかける。今まで幾度となくシアラの笑顔は見てきたが、ラーズは思わずドキッと心臓を飛び跳ねさせた。



「ラー君は良い人ですね。これから先、大きくなっても他人への思いやりを忘れず、尊敬されていく姿が目に浮かびます。

 エリーちゃんが教会を出ていく時、そんな想像を簡単に思い浮かべたかった。堕ちるのは簡単ですが、昇るのは大人になれば難しい...彼女がこの先、苦労し、他人様に迷惑をかけてしまう、そう想像してならないのです....」

「...僕は....シアラさんがこの先...疲れ果ててしまう想像をするよ...エリーみたいな奴を何人も相手して...。シアラさんは僕らを救ってくれた...だからシアラさんには楽して欲しい....辛かったり苦しかったら...力不足だけど僕らが支えるから....だから...」

「....ありがとうラー君。」



 シアラはラーズの気遣いに感謝し、抱き寄せているラーズの左腕を愛おしく優しく摩った。

 ハープの音色を聴くかのように、その手つきや手の柔らかさはラーズの心が癒される。だが、ラーズは不安だった。


 人に癒しと優しさを与え続けるシアラは逆に他人からそういったものは与えられていのだろうかと。いつか空っぽになって破滅してしまうのではないかと。


 不安に思うのと同時にラーズは覚悟を決める。救って貰った分、彼女を支えると。彼女に癒しを与え、そして彼女が人の負の感情に呑み込まれそうものなら、自分も共有して彼女を助ける。そう誓った。



 だが、その直後の出来事だった。その誓いが嘘か誠か定めるような事態が起きる。誓いを立ててから間もないと言うのに、シアラを支えるどころか自分の感情がドス黒く塗り潰される。



 三人は教会へ到着した。しかし、自分らが目にしたのはいつもの綺麗な教会ではなかった。教会にはゴリアム皇国の兵士で埋まり、保護されていた子供達が攫われるように無理矢理引っ張りだされていた。


 子供達の泣き声、言う事を聞かない子供に怒りを感じた兵士の怒号と暴力、教会の外見面は何も変わらないが、そんな光景を見ていると白く輝いていた教会は光を帯びなくなっていく。


 次々に捕まり連行されていく子供達、そしてふと一人の兵士と三人は目が合った。兵士はすぐさま怒鳴るように仲間に呼びかけると、何人もの兵士が三人に掴みかかる。


 訓練された大の大人からは逃げきれず、三人は引き離されて連れ去られる。



 そして兵士達に連れ去られて向かった先は皇都で一番見晴らしがよく、待ち合わせによく使われる綺麗な噴水がある広場だった。


 そこには家のように大きな木で作られた台が二つ設置されており、向かい合う形になっていた。


 ラーズとリーヤは兵士のなすがままにその台へ登らされ、何本も立てられている木の棒の前で正座させられると、魔法の鎖で棒に縛られる。床からも鎖が飛び出し、首の付け根に巻き付かれ、首を前に出している状態で固定された。


 怒涛の展開に混乱していたラーズは周りを見ると、自分の隣に同じように縛られているリーヤ、そしてその先には教会の子供達が同じように縛られ、ラーズを右端に子供達が並べられていた。反対側の台には同じく縛られているシアラ一人。


 下にはギャラリーと言わんばかりに上級国民が集まり、それぞれの台に一人の兵士が登ってきた。



「...只今より!緊急ではあるが公開罰則を開始する!!罪状は不法入国!!ホーリー教会には下級国民だけに留まらずイザゼル帝国出身の未成年が滞在!!そして教会運営の一人、シアラ・ナーチャリーはこの事態の主犯である!」



 シアラ側にいる兵士は紙を大声で読み上げる。その声は広場に響き渡り、次第に集まってくる上級国民が増えてきたのだった。

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