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黒の駒〜呪いで世界を平穏に〜  作者: 矢凪川 蓮
最悪の祭りの日
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ラーズ達の過去②

 そして一週間後、ヘルベド街を離れてウェルバー家は馬車を借りて旅行へと出発した。四人の旅行を良い日にさせるかのように雲ひとつ無い晴天の日だった。

 日差しが強く、馬車の中も熱気で暑苦しかったが、魔法や水分補給で耐えていく。


 旅行先は綺麗で広大なブラド湖、父親は建設業に勤めており同業者からその湖の話を聞き、旅行先へと決めていた。


 底まで見える透明感に活きが良く珍しい魚が生息しており、釣りをするも見るもよし。決められた区間ならば泳ぎも出来る下級国民の世界では最高峰の贅沢な場。

 本来、これ程レベルが高い湖は国に占領されて上級国民以上専用のような処置をされてもおかしくはないのだが、そんな贅沢な場を数少なくとも残さないと後々面倒になるというのが偉い人間の思考。


 そんな思考にハマってしまっているのは全員百も承知で悔しさもあるが、それよりも余計な反発をしてより厳しい制限をされるのも嫌な為、それは下級国民全員が胸にしまっていた。



 宿や道中の食費、馬車の借り出しに何より時間。ゴリアム皇国の下級国民で生きる以上、一回行けるかどうかの場所へウェルバー家は向かっていた。



 期待に胸を弾ませながら家族は輝かしい思い出へと向かっていく。


 だが、目の前まで来ていた輝きは消え失せ、血塗られた思い出へと変わってしまう事になるのだった。



 ヘルベド街から出て最初に登ることになるヘルベド山、ウェルバー家は山賊に襲われることになった。これは運が悪いのではなく必然、ブラド湖の事を教えてくれた父親の同業者の手によるものだった。


 同業者は色んな人間にブラド湖の話をして、「行くことになったら教えてくれ。また詳しく話すから。」と一言添える。

 そして旅行を計画して相談や話をしてくる者をターゲットにし、ヘルベド街から離れたヘルベドの山中で金諸共全てを山賊と協力して奪う事をしていたのだ。



「.......そういうことだ。事情が分かったのなら、さっさと金品全て出しな。そしてヘルベド街に二度と戻らない事を約束しろ。そうすりゃあ命までは取らねぇよ。」



 馬車の周りを山賊に囲まれて怯える四人に、ニヤニヤしながら山賊のボス格の人間が得意げに話す。


 同業者に騙されたショックと家族を巻き込んでしまった不甲斐なさで腹が掻き乱されるが、父親は深呼吸すると、鞄から旅行費が入っている小袋を取り出した。



「...これは旅行の為の資金だ。他に金目になるものがない。これが全てだ。これを渡したら、俺達家族の命は....」

「あぁ、保証してやるよ。指一本触れないから安心しな。俺達は嘘が嫌いなんだ。」



 口角を上げて下目で見てくるこの態度に怪しさを父親だけでなく他三人も感じる。

 だが、両親は戦闘面で頼りになるような実力ではない。ラーズもリーヤも戦闘教育など知らず、必要最低限の魔法の使い方しか知らない。


 ウェルバー家は従う他無かった。汗水垂らして仕事をし、苦しい環境下でやっと掻き集めた努力の結晶が、簡単に奪われる事態に父親は悔しさのあまり涙を流しそうになる。


 震える手で小袋を山賊に渡し、山賊ボスはその中身を確認してニヤニヤしていた。



「物分りが早くて助かるよ〜。で....これが全部かい?」

「あぁ...もう金目になるものは無いんだ。これで勘弁してくれ。」



 山賊ボスは小袋を自分が背負っている荷物に押し込んで入れると、薄ら笑いを浮かべながら溜め息を吐いた。



「はぁ〜....俺言ったよね?嘘は嫌いだって!」



 山賊ボスはいきたり腰に携えている短刀で父親に切り掛る。刃は父親の右肩から左腰辺りまで切り裂き、服から血が溢れ出てくる。よろよろと後退りをして腰を下ろしてしまう父親に、義母は子供達から離れて彼のところまで急いで駆けつけた。



「そ、そんな!なんで...嘘なんかついてないわ!なんでこんなことを!」

「あんだろうがよ〜。俺達の性欲処理係のあんたと、奴隷で高く売れそうなガキ二人がよ〜。」



 その言葉を合図に周りの山賊達も笑みを浮かべながら刃を手に取る。逃げ場などなく、絶体絶命。ウェルバー家は顔色を青くさせるが、卑劣な山賊達にとっては勝ちが確定しているような状況。山賊ボスは相手を煽るかのようにヘラヘラしていた。



「本当におめでたい奴らだな。俺らがお前達を解放させるメリットあるか?寧ろデメリットでしかない。この手法は俺達の稼ぎの内の一つだからな。変に噂ばらまかれても困るんだよ。」



 山賊ボスが顎で合図をすると、周りの山賊らがゆっくりとウェルバー家へ近付いてきた。ある者は父親を殺したそうに、ある者は義母をいやらしい目で捉え、ある者は子供二人を確保しようとする。

 円が徐々に迫ってきて、ラーズとリーヤは目の前の恐ろしい現実に耐えれず目を瞑っていた。



「....ぐ、うおぉぉぉ!!」



 突然父親の雄叫びが聞こえて二人は目を開けると、父親が山賊に突進した。負傷している父親が襲ってくるとは想定もしていなかったのか、山賊二人の抵抗は弱くて押し倒した。

 すると、それに続いて義母も父親と同じく突進。一人を何とか押し倒して、その光景を呆然と見ている二人に叫んだ。



「ラーズ!リーヤ!逃げなさい!!」

「え?や、やだよ!パパとママと離れ離れなんて嫌だ!!」

「大丈夫!ママもパパも直ぐに追いつくから!!...ラーズ、お願い。」




 立ち上がろうとする山賊を必死に抑えながら義母はそう言った。涙目で悲しそうな表情でラーズを見ており、彼はその義母の顔を見れなかった。

 最初は嫌っていたが、今では亡き母親と同じくらい彼女の事を愛していた。


 リーヤだけを相手にせず、嫌われているというのを感じていても自分と接して認めて貰おうとしてくれた。怪我をしたら我が子のように心配してくれた。血は通っていないがそれ以上の繋がりを感じられ、これからもっと仲良く筈だった。


 そんな義母と父親を置いて逃げろと言う。あまりに残酷な要求にラーズは顔を縦に振ることは出来ない。だが、二人の意思は十分に理解することは出来た。


 ラーズは零れそうな涙を堪え、力が抜けそうになる足を踏ん張り、リーヤの手を掴んで両親の命懸けで開けてくれた包囲の穴を突破しようと走り出した。



 リーヤはラーズの行動が察せずに頭が真っ白だったが、両親の間を抜けた所でようやく理解し、兄を引き留めようとする。だが、ラーズはそんな妹を力づくで引っ張って山賊から逃れようとする。




「嫌だ!お兄ちゃん辞めてよ!!パパとママが!!助けないと!!」

「....無理だ...ここで逃げないと父さんと...母さんのしてくれた事が無駄になる....」



 相変わらずの消えそうな声。だが、その声からは悲しみが漏れており、リーヤは泣きながらラーズと共に走った。


 ラーズは何度も心の中で謝った。二人を置いて逃げてしまうこと、救うことには程遠い自分の無力さ。どうしようもない怒りと悔しみに胸を焦がしながら、ラーズはチラッと後ろを見る。


 山賊が慌てて追いかけてくる。その四人程の山賊の隙間から義母...母親の顔が見える。山賊に捕まり、連れて行かれる。なのにも関わらず、彼女は爽やかに微笑んでいた。



 ラーズとリーヤは山賊を振り切った。走る速度や体力面を見ると逃げ切る事など到底不可能なのだが、縄張り意識の高い魔獣が二人と山賊の間に現れ、二人には気付かずに守る形で山賊に襲いかかったのだった。


 時期的にも秋だった為落ち葉が地面に敷き詰められ、足跡でも追いづらい環境になっており、所々生えている木々も上手いこと視界を遮った。



 二人は運良く逃げ切れたが、結局は遭難。今どの辺にいてどの方向に行けば街へ戻れるかすら分からない。仕方がなく二人はそのまま前へ歩いていく。両親を失った悲しみ、空腹や疲労に耐えながらひたすら前へと進んでいく。


 日が沈んで夜になると、小さな穴蔵で過ごした。簡単な魔法で火を放ち、光を得る事が出来る。しかし、魔獣の遠吠えが聞こえると安心することなど出来なかった。


 日が昇ってきてからまた歩き始める。しかし、精神的にも体力的にも限界が近付き、二人揃ってフラフラと歩いていると、不運な彼らに希望を与えるように泉を発見。二人は目を輝かせて近付き、顔を埋めながら水分補給をする。水が喉を通って胃に流れていくのがわかり、一日ぶりの水分に身体が喜んでいたのがわかる。



「...君達、大丈夫?」



 突然背後から女性の声が聞こえる。山賊に追われて警戒心が最大にも関わらず、二人は驚くことは無かった。優しい音色のような声が耳を癒し、初めて聞く声なのにどこかホッとする。


 同じタイミングでゆっくり振り向いてみると、そこには声から想像出来るような綺麗な女性、修道服を身にまとったシアラが心配そうに見ていた。


 これがシアラとの出会いだった。


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