迎える
日本がどう言う国なのか、どういった文化があるのか、日常品や施設や法律。
ステアはどれを聞いても目を輝かせていた。終始テンションが高く、どんな話題にも食い付いてくる。
――日本には魔法なんか無いけど、良く考えればこの人達の目指すのは差別ない国、日本ってこの人たちからすれば目標であこがれの国ってことなのか...
何だか嬉しい気分にもなるが、同時にそんな国の状況下で苦しんだのもあり、サチコは複雑な気持ちになっていた。
だが、話し込むとサチコのテンションも上がっていき、お互いの世界の事を教え合っていた。
これから話が盛り上がるという所で馬車の扉が開き、サチコとステアは話に集中していた為ビクッと身体を跳ねた。
「ステア様、サチコ様、到着しました。続きはまた後ほど」
「もうそんな時間経ってたの。じゃあサチコ、この話はまたしようね」
「あ、はい。また話聞かせてください」
ステアの後に続きサチコは馬車から降りると、目の前には大きな建物があり、家と言うより小さい城のような屋敷。
村とは違い白いレンガで作られており、屋根の部分は赤く、全体的にも清潔感溢れていた。
玄関前は石造りではなく土で綺麗に整えてあり、周りの小さい花や木の柵は見ていると何処か心が落ち着き、玄関端にはこの世界の文字で「ギルド・灰色の十字架」と書かれていた。
「ギルド....復国軍の何か本部とかと思ってたんですけど....」
「まぁバルガードはここを任せられてる身分だしね。復国軍の本部はまた別の機会って感じかな?」
「そうなんですね...あの、私本当に復国軍に入れるんですかね?復国軍の一番偉い人とかに会わないといけないんじゃ....」
「ん〜...サチコの件はボスも知ってるし、バルガードに一任するって話らしいからサチコが心配することは無いよ。ま、本部行ったってボスいないし、サチコがボスと顔を見合わせるのは大分先の話になっちゃうかな〜」
――本部にいない?復国軍の一番偉い人なのにそういう所にいないのは一体....
そんな話をしていると茶色で綺麗な玄関の扉が開き、中からバルガードが現れた。
コチラを見るなりニコッと微笑みながら歩み寄ってくるが、サチコを含めた三人はバルガードではなく、バルガードの首辺りに目線が行っていた。
肩には犬のような獣がいて、バルガードの首元に思いっきり噛み付いていたからだった。
「....よぉサチコ....よく...来てくれたな...」
表情とは裏腹に声が震えるバルガード。気のせいか、顔も青ざめているように見える。
そんな彼にステアはあからさまに呆れている表情をしながら口を開いた。
「バルガード....何やってんのアンタ....?」
「い....いや....魔獣を手懐けたリーダーってカッコイイだろ?....やってみたんだが....懐きすぎて....少し困ってるんだ....」
サチコは魔獣の方を見るが懐いていないのは明らか、寧ろ殺意に満ちた顔で思いっきり首に噛み付いていた。
「どこが懐いてんの。殺る気マンマンじゃんその魔獣。全く....アンタ何時になったらそんな無謀な挑戦諦めんのよ。アンタがそのパターンで成功したケース未だに見てないんだけど」
「まぁ....そうなんだが...取り敢えずステアは飯にしよう...仕事終わりでこの送迎だから...疲れてるだろ?...そしてお二人は早速だが...教育の方へ.......ロアさん、サチコを頼みます」
バルガードはフラフラしながらお辞儀をすると、ロアはこくりと頭を下げた。
ステアはポンッとサチコの肩を叩き、手を振りながら笑顔でバルガードの横を通り過ぎてギルド内へ入った。
「じゃあサチコ...いつ終わるかは分からんが.......君が俺達の仲間になる日が.......来ることを......待ちわびている」
「あ、はい...頑張ります....」
サチコは元気に返事をしたかったのだが、やはりバルガードに噛み付いている魔獣が気になり、よそよそしく返事をする。
「...あ、これが気になるか?....なら...フンッ!!...こ...れで....大丈夫か...」
バルガードを噛み付いてきている魔獣を力いっぱい引き離すと、魔獣はバルガードから離れてどこかへ走っていく。
たが、そんな上手く引き離せた訳ではなく、バルガードが噛まれていた所から大量の血が出ていた。穴が空いたホースの様に赤い血液がピューッと外へ飛び出す。
普段なら真っ青になって心配するか怖くて動けなくなる筈のサチコだったが、バルガードが無理して笑顔を作っているのを見ると、いちいち怖がっているのが馬鹿らしく感じてしまった。
「何やっているんですかバルガード様。長という立場にいるにもかかわらずみっともない」
「す、すいません...ロアさん....度々苦労をかけて...」
ロアはため息を吐きながらバルガードに近付くと、彼の首元に手を当てた。
「段階二・回復」
ロアから魔力を感じると共に手元が緑色に光る。緑色の粒子がバルガードの傷口に付着していき、それが元の首の形になっていく。
――凄い....これが魔法か...
初めて見る魔法を興味深く見ていたサチコは、ふと目線を変える。
バルガードは何とも心地良さそうな顔をしていたが、バルガードのイカつい顔なせいか少し気味悪く思い、若干距離を離したサチコだった。
次第に緑色の発光が収まると、バルガードの首は元に戻っていて顔も肌色へと戻っていく。
「ふー....いやぁ、見苦しい所を見せたなサチコ。すまないな」
「い、いいえ...大丈夫です」
――出来れば....もうあんまり見たくないかな...
「よし、じゃあ二人は教育へ移ってくれ。時間は無限じゃない、善は急げってやつだ!」
バルガードが豪快に笑っていると、ロアはそんなの気にもせずぺこりと頭を下げてさっさと馬車へと乗り込んでいく。
サチコも同じように頭を下げて馬車へと乗り込もうとするが、直前でバルガードに引き止められた。
「サチコ、ロアさんの指導は厳しいかもしれんが、耐えきって乗り越えてくれ。俺達には君が必要だ」
「え、あ、はい....頑張ります...」
「それと一つ、守って欲しいことがある。ロアさんの過去について決して触れようとしないでくれ。彼女に変な関与、特に表情を崩してやろうと考えて行動するのは厳禁だ。分かったな?」
「え?それってどういう...」
サチコは質問しようとしたが、バルガードはさっきの出来事がなかったかのように真剣な顔をしていた。おちゃらけた人間ではなく、復国軍の幹部に相応しい顔付き。そんな彼は言葉は発さず目で伝えてきていたので、サチコは質問を投げることなく無言で頷いた。
「....疑問ばかりだろうが、取り敢えずそれだけは守ってくれ。いずれ、話す時が来るはずさ」
バルガードはそう言い残すとサチコの肩にポンと手を置き、その場を立ち去ろうとした。
だが、バルガードはハッとしてその手をすぐに退かして何度も頭を下げた。
「す、すまんサチコ!!ついいつもの癖でやっちまった!!悪気はないからな!?本当だからな!?」
バルガードはまるで上司に怒られ、謝罪しながら帰宅する部下のように何度も頭を下げながらギルド内へ入っていく。
手を置かれたことをまるで気にしていなかったサチコはポカーンとギルドのドアを見詰めていた。
――バルガードさん....しまらないなぁ....




