食材調達
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「わぁぁ!!凄い綺麗!!」
そう大声を上げて目を輝かせたのはサチコ。リーヤ達の言っていた場所に到着した彼女は、目の前の美しい風景を見た途端興奮する。
登山中に蘇る山との思い出、登山の過酷さと寒さ、祭りはとても楽しみにしていた反面この登山は気が参っていた。
そんな暗く重い気持ちも突風に吹き飛ばされるが如く消えていく。
山の中の森林には大きな湖が拡がっていた。美しい水面を靡かせ、濁りもないその水面は向かいの森林をそっくりそのまま映し出す。陽の光が差し込みずらい森林でも、その湖には邪魔するものがなく、まるで舞台のスポットライトのように照らしていた。
どこもかしくも草、木、土、虫、獣、そんな飽きかけたサチコの心にご褒美を与えるが如く現れる綺麗な湖、サチコは思わず飛び跳ねて喜んでいた。
「ふふん。でしょサッチー!だからウチ言ったじゃ〜ん。サッチーは絶っっっ対に気に入るって!」
「ご、ごめん....でも、山の中にこんな綺麗な湖があるだなんて知らなかったから。」
「まぁ、そうですよね。泉ならともかく、これ程大きな湖が山の中にあるとは想像しずらいですよね。とは言っても、山と山の間にある盆地みたいな感じなので、正確には山の中とは言いませんけど。」
目の前に拡がる湖を眺めながら話したシアラに合わせて、サチコも改めて湖とその周辺を見渡した。
シアラの言うように、湖の先には大きな山が囲うようにそびえ立っていた。
「...そんなことより早く食材調達に取り組もう....俺はいつもの所でいいから...周辺の野菜や果物はそっちに任せた....」
ラーズはそう言うと、自分の荷物だけ持って湖を左に沿うように歩いていく。寝巻き姿や軽装ではなく、いつも着ている白のタンクトップに緑色の上着を二枚重ね着し、黒一色のズボン、彼の仕事着。初めて見る彼の姿にサチコは新鮮さを感じていた。
「オッケー、お兄ちゃん!じゃあ二人とも!じゃんじゃん採りまくって皆を喜ばせよー!おー!!」
一人で離れていくラーズを気にせず、リーヤはいつも以上に明るかった。元気よく右拳を上にあげ、飛び跳ねながらラーズとは逆に右に沿って歩を進める。
そんなリーヤを見て隣にいたシアラはクスクス笑っていた。
「相変わらずですねリーヤさんは。いつも明るく元気良く...彼女を見ていると、この世界はとても平和何じゃないかって何度思わされたことか。」
「シアラさんはリーヤちゃんのこと....前から知ってるんですか?」
「はい。彼女がとても小さい頃から知っていますよ。背丈は変わりましたが、内面は全くと言っていいほど変わりません。...本人はそう言うと子供扱いされてるみたいで良く思わない見たいですけどね。」
微笑しながら話したシアラの言葉のまま、サチコは頭の中で小さい頃のリーヤを想像した。どう足掻いても可愛らしい少女しか思い浮かべず、サチコはニヤニヤしてしまう。
「さ!私達も行きましょう!リーヤさんを見失うのも大変ですし、時間も押してますから。」
「....はい!」
二人はそうしてリーヤの後を追いかけ、三人で湖周辺の果物や野菜を採取し始めた。ある程度この世界で生きてきて、色んな食材を目にしてきたが、この湖周辺で採取するものは初めて見るものばかり。彼女は、この世界は思っていた以上に大きなものだと気付かされた。
気付くと溢れる期待感。新たに見る食材で新たに目にすることになる料理、想像するだけでヨダレが垂れてきそうになっていた。
「...サッチー?どうしたのそんなボーッとして。....もしかして...また変な事を想像したりしてない?」
サチコが上の空になっているのをリーヤは発見し、またBL関連でおかしくなっているのではとリーヤは心配してしまう。
当然そんな事は微塵もないサチコは、後ろに背負っている籠から野菜が出てしまうくらい顔を横へ振った。
「ち、違うよ!全然違う!料理を凄く楽しみにしてただけだって!」
「本当に?でも気を付けてね?サッチー、ちょっと行き過ぎると帰って来れなさそうだからね。」
――....説得力がありすぎて言葉が出ないよ。
「...!皆さん!見てくださいよあれ!!」
二人の先頭にいる形で果物採取していたシアラは興奮しながら指さした。二人はお互い首を傾げつつ、シアラの指さす方向を見てみると、大きな緑色の果物らしきものが木からぶら下がっていた。
陽の光で中を照らすほど透明感があり、まるで水風船のようだった。
「....?あれってなんなの?」
「あれはプラセルっている果物だよ。秋に実る果物なんだけど、結構稀で大抵はあれより小さいプラっていう果物が実るんだ〜。ウチもめっちゃ久しぶりに見たよ。」
「へぇ〜。美味しいの?」
「もうめっちゃ美味しいよ!噛んだ瞬間果汁が溢れて、実もプルップル!口に入れて暫くしたらジュースみたいに液状になるんだけど、その液にも冷たい小さな実がいっぱいあってシャリシャリ歯ごたえあって、も〜堪らないの!!ウチは一度しか食べたことないけど、忘れられないな〜。」
リーヤが両頬を抑えながら表情をとろけさせていると、サチコの収まりかけていたヨダレが出てきそうになってしまう。
「あれを採って行けば、祭りは大盛り上がり間違いなしです!私、とってきますね!!」
シアラはまるで子供のようにはしゃぎながらプラセルに向かって走る。目の前にある宝に目が眩んだせいか、シアラは足元にあった石にコケて前に倒れてしまう。
「キャッ!いたたた...」
打ちどころが悪かったのか、少し涙目になりつつ擦れた手を撫でていると、籠に入れていた果物がボトボトとシアラの頭に当たりつつ落ちていく。
彼女はすぐに起き上がるが背中の籠に残った果物は僅か、残りは外へ転がっていた。
「た、大変!すぐ拾わない....痛っ!!」
落ちている果物を拾おうと動いた拍子にすぐ目の前にあった木の枝にぶつかり、彼女は尻から地面に倒れてしまう。その上、ぶつかった衝撃で木の枝にくっついていた虫が落ちてきて、シアラの鼻の上に乗ってしまう。
「いやぁ!む、虫ぃぃぃぃ!!」
目を瞑って顔を叩き、虫を払い除けながら逃げるように移動すると、その先の大木に頭をぶつけた。ジンジンと痛む顔を抑えながら蹲っているシアラを二人は口を開けて見ていた。
「...相変わらずだな〜シーチャは。前と変わらずドジっ子体質....寧ろ、磨きがかかってる?」
「私がナルテミ村にいた時もちょっとおっちょこちょいだったけど...でも、シアラさんの魔法って未来予知でしょ?小さな危機は感知できないの?」
「ううん、そんな事ないよ。ただ、それは魔法を使っている時だけ。ああいう無意識で魔法を発動してないと流石に予知出来たりは出来ないよ。」
――そうなんだ。ステアさんに聞いた時は結構便利で凄い魔法って思ってたけど、自動じゃない点万能って訳じゃないんだ。
「魔法をよく使っているからか、シーチャって魔法が抜けるとあんなだからね〜。不意に大怪我しそうだから見てて心配になるよ。
さてと....シーチャの拾い物手伝ってあげますか〜。あの調子だと二、三回また転びそうだしね〜。」




