思い出作り
「え、えっと!少し早いですけどデモーノ街での恒例祭りをやりたくてですね!その為の食料調達と祭りのお誘いをしたかったんですよ!」
「え?祭りなんてあるんですか?」
「あら、サチコさん。お祭りってご存知ないのですか?」
「あ、いや...知ってはいるんですけど....」
――戦争で世の中慌ただしそうだから祭りなんて無くなってるもんだと思ってた...でも、情報屋のラドさんが言ってたように戦争は停滞してるから、思った以上に世の中って忙しくないのかな?
祭りが今もやっている事に違和感を感じていたサチコにラーズは補足で説明してくれた。
「....年に一度...シアラが主催で祭りをしてるんだ。....場所はデモーノというスラム街...貧しい人達に活気を与えるのが目的だ。毎年多くの人達が協力してくれて....その日だけはスラム街というのを忘れさせてくれるほど活気に溢れる。」
「へぇ〜、そんな祭りがあるんですね。」
「あぁ。...だが、例年通りなら三ヶ月後の筈だ。....いつも協力してくれていた人達の準備も...間に合っていないんじゃないか?」
そんなラーズの疑問に答えようとシアラは少し大袈裟に手を上げた。
「それなら大丈夫なんですよ!もう連絡はしてあって、全員が参加出来る訳では無いのですが、殆どの方が来てくれます!日時は明日なので、これから調達したらすぐに急行する形です!」
――....祭りか〜。私行ったことないや〜。そんな日なんてクラスの人達が集まるだろうし、私なんて勉強させられたから...でも、今は違う。うるさくてちょっと毛嫌いしてたけど、皆といけるなら凄い楽しみだな〜。
ギルドメンバー全員で仲良く屋台を回る、そんな想像が浮かび上がると口角を上げずにはいられなかったサチコだが、それに対してラーズは少し顔を険しくしていた。
「....あまりにも急過ぎないか?...何かあったのか?シアラ....」
そんな言葉はシアラの笑顔を消し去っていく。目を見開き動揺し、顔を暗くして俯いていた。そんな彼女の反応にサチコの浮ついた気持ちはすぐに収まり、不安に染っていく。
「.......何か....見たのか?魔法で...」
彼女の顔を覗くようにラーズは問い掛けた。シアラの個性魔法による予言を気にしたラーズの問いに、しばらく無言だったシアラはゆっくりと顔を上げ、今にも泣き出しそうな顔で三人を見つめる。
シアラの反応は只事ではないと三人は息を飲み、より一層不安が混み上がっていく。
シアラは両拳をギュッと作り再び俯くと、ゆっくりと口を開いた。
「実は...........」
その一言を言うだけで再び無言が続くと、シアラは首を横に振り、自分の中で何か葛藤しているとサチコは感じた。
「...実は、ここ半年以内で大きな戦いがあると予言がありました。世界の均衡が崩れる大きな戦いが....」
――大きな戦い...も、もしかして!
サチコの気付きを代弁するかのようにラーズはポソりと呟いた。
「....戦争...か。遂に動き出すのか....」
「マジか〜。いつかは来る...っていうか遅すぎる位なんだけど、こうも停滞してたら自然的に消滅しちゃうんじゃないかって思ってたから....なんだかな〜...」
「....だとしても、明日に祭りは急すぎるぞ.......戦争以外にあるのか?.......俺達の誰かが死ぬと.......」
サチコもリーヤも思わず唾を飲む緊迫とした質問だったが、シアラはから笑いしながら手を横に振った。
「流石に分かりませんよそんな先のこと。皆さんとは仲は良いですが、そんな数ヶ月先の事を予知するとなったら...私本人か、その時も一緒にいる村の人達の運命くらいですよ。」
そんなシアラの答えに三人は深くため息を吐いた。死の宣告など受けては祭りどころじゃないと思っていたのは三人共通だった。
「そうか....なら、祭りはもしもの時の...」
「えぇ....復国軍の目的はまずイザゼル帝国に勝たせること。大きな戦場になれば、あなた達は秘密裏にイザゼル帝国に協力し、生き残らなければならない。普通に戦場へ戦いに行くのより危険です。
勿論、皆さんが無事でいてくれると信じていますが、今のご時世...そんな考えが必ず通じるものでは無いというのは分かっていますから....」
そう言葉にさせると、予言はなくとも薄々感じる死の実感。リーヤとラーズの思考は戦争の事でいっぱいとなり、二人は顔を曇らせる。
だが、サチコは初めて故、良い意味でも悪い意味でも戦争に対する危機感というのが弱かった。
「...祭りに行きましょうよ!ラーズさん!リーヤちゃん!折角シアラさんが来てくれたんですから、戦争のことは取り敢えず忘れて、祭りを楽しみに行きませんか?」
「.......だね!明日に戦争へ行くって訳じゃないのに暗い顔してたら、何か損だもん!そうでしょ?お兄ちゃん!」
そんな二人の呼び掛けにラーズは強ばりは消えないものの、先程の暗かった印象は無くなり、こくりと頷いた。
「そうだな...だがシアラ....一つ問題がある....ギルドから祭りに行けるのは......恐らくこの三人だけだ。」
「え!?そ、そうなの?」
予想にしてなかったメンバーの少なさにシアラは驚くが、ラーズは静かに頷いた。
「あぁ....ステアは今食堂で酔い潰れている...俺が起きたタイミングで寝始めた。....しばらく起きないだろう。...バルガードはエンスを連れて、復国軍所属の村の様子見と注意喚起に行っている...」
「注意喚起?....何かそちらでもあったんですか?」
シアラは不安そうに聞くと、リーヤは顔を顰めながら頷いた。
「まぁね...前、イザゼル帝都にヤバい奴が現れたんだ。魔人ローってやつ。多分、ウチらよりも強い。一人で対面したら負けちゃうかもってくらいに強いんだ....で、そいつの情報収集と異常がないかの確認かな。」
バルガードとエンスが先日出かけたのは知っていたが理由は知らなかったサチコは、リーヤの言葉で先月の事を思い出した。闘気に溢れてまるで猛獣だった魔人ロー、サチコは思わず身震いする。
「そうなの...分かった、私の方でも気にしてみるわ。」
「頼む....後はロアとノトレムだが...例年通り来れないだろうから俺達三人だけだ...」
「ちょ、ちょっと待って下さい!ロアさんは分かるんですけど、なんでノトレム先輩は?一緒に行きたいんですけど...」
すっかりノトレムに懐いたサチコはそんな質問をすると、リーヤとシアラは困ったように笑っており、困惑するサチコにラーズは答えた。
「....ノトレムは誘っても来ない...自分の外見を気にして、周りの者の楽しい気分を邪魔したくないらしい....以前、無理に連れて行ったんだが目線が結構集まってた。...俺は特に問題ないと思ったが、ノトレムはかなり気にしていた....」
「そうだったんですか...」
――じゃあしょうがないよね。無理に連れていくのも何か違うし、そういうの気にしそうだしね。
そうは思ってもガッカリ感は強く、サチコは肩を落とした。
「...俺達は今日・明日の仕事はない。....だから、行けるのは俺達三人だけだ。...開催時間は例年通り夕方頃か?」
「えぇ、そこはいつも通りです。大丈夫そうですか?」
「あぁ。....行くところはいつもと同じだろ...ロアに言ってくるから...サチコとリーヤは身支度してシアラと一緒に待っててくれ....」
ラーズはそう言い残してギルドの中へと入っていく。行く場所を知らないサチコは少なからず不安さを持っていたが、それに対してリーヤは満面の笑みだった。
「いや〜楽しみだな!シーチャと久しぶりだし、今回はサッチーもいるし。良い事尽くめだよ〜。」
「ふふ...そう喜んで貰えたら嬉しいです。さぁ、お二人共、準備はしなくていいのですか?」
「するよするよ!速攻でする!ちょっと待っててねシーチャ。じゃあ行こうよ、サッチー。」
「あ、うん。それよりも、何処へ行くの?」
リーヤに手を引かれる寸前でサチコはそう問い掛けた。その問いにリーヤだけでなくシアラも笑みを浮かべていた。
「...祭りを手伝ってくれる人は料理とか屋台係、それに対して私達は食材係。ある程度食材は揃っていますが、それでは足りないのでその補給です。」
「そういうこと!でも安心して!そんな多い量じゃないし、変に大変ってわけも無いから!あそこは綺麗だからサッチーも気に入ると思うな〜。」
――綺麗?なんだろ....でも、嫌な予感がする。食材調達って...
「えっと....つまり?」
「...山ですよ、サチコさん。」
――あ....悪い予感的中...
山に良い思い出が毛程もないサチコは、楽しさに高鳴らせていた鼓動が瞬時に治まったのだった。




