再会
早速伸びきった鼻を即座に折られ、サチコはしょんぼりとしてしまうが、ロアは話し続けた。
「しかし、力が着いてきたのも事実。これはアドバイスですが、もし貴女が望まぬ戦いをした時には魔法ではなく、その積み重ねた力を使うといいでしょう。」
「え?何でですか?」
「貴女の魔法は手加減出来ませんから。なら、相手の足や手を集中的に叩きなさい。バラバラではなく一点集中。今の貴女ならまだまだ手数は多くなりそうですが、骨を折る力も手数を打ち込める体力もある筈です。」
「骨を折るですか....あはは、何か物騒ですね...」
そんな苦笑いをうかべるサチコに、ロアは彼女が脱いだ衣服を持ってきて彼女の膝へ置いた。
「評価は以上です。運動して身体が温まっているでしょうが着て下さい。これから会う人間に心配されても困りますので。」
「え?これから会うって...誰か来るんですか?」
「はい。なので早く着替えてギルドの玄関前で待機してなさい。じきに来るはずです。」
サチコは最近までの記憶を辿るが、誰かが来るといった予定は全然思いつかなかった。疑問に思いつつ元の厚着格好へ戻るとあまりに暑かった為、マフラーだけは外したまま移動する。
すると、そこでロアが話しかけてきた。
「サチコ様、覚えていますか?バルガード様に言われたはずですが、私の事は他の者には話さないように。そしてそれは、このギルドにいない復国軍にもです。」
「あ、はい。覚えてます。でも、復国軍は初耳かもです....」
「あの人が言葉足らずだっただけで、他復国軍にも言わないようお願いします。極秘で数少ないとしても組織、私の存在はイザゼル帝国には知られてはなりませんので。」
ロアはぺこりと頭を下げ、それを言い残してその場を後にした。
――復国軍の中でもロアさん知ってるのは私達だけなんだ。裏切りとかあった時の予防って事だよね?でも、そうだとしたら...ロアさんのことを知ってる私達って凄い信用されてるってこと?そうだよね?
考えれば考える程嬉しくなり、先程のショックが嘘のように口角を上げてスキップで移動するのだった。
ロアに言われた通り、サチコは玄関前の階段に座り込んで来るであろう人物を待っていた。火がついたように暑かった身体も冷気で冷えていき、何とも心地よくなっていく。
誰が何の目的で訪れるのか、サチコは分からずにボーッとしながら待っていると、馬の魔獣が連れてきた馬車が見えた。
サチコは立ち上がってその馬車の方へ駆け寄ると、馬車を操っていた人物と目が合う。その人物とはラナ村にいた肌が黒いおじさんだった。一ヶ月前、イザゼル帝国へ搬入依頼をサチコとノトレムに頼んだ人物、特徴的な人物だった為にサチコも覚えていた。
「あ!貴方はラナ村の。」
「おぉ!久しぶりだな嬢ちゃん。」
おじさんは馬車を停止させると頭二つ分程ある布袋を持って飛び降り、サチコへ駆け足で向かっていく。
「いや〜、道中少し迷って時間遅れちまった。申し訳ない。それにしても、約束の時間より遅れたのに外に出て待っててくれてるなんて、よっぽど楽しみだったんだな。」
「え?何がですか?」
「ん?聞いてないかい?君への贈り物として匿名で依頼があったんだ。ほれ。」
おじさんは布袋からある物を取り出し、目を丸くしているサチコに手渡した。サチコは訳も分からず何となく受け取り、おじさんから渡された布に包まれた棒状の物を首を傾げながら見つめ、何となく布を開いてみる。
布の中身は真ん中に切込みがある黒く細長い棒。幅は掌に収まり暑さは薄い、そんな棒を持って反対側の端の方を引くと、銀色の刃が現れた。
「え!?これって短刀...」
「あぁ。嬢ちゃんが武器壊れちゃった(オマケ三参照)らしいから見繕ってくれって依頼でな。嬢ちゃんらには世話になったからな、ワシの最高傑作レベルに仕上げたぞ!見事なもんだろ!」
自慢げに高らかに笑うおじさんを他所に、サチコはその短刀を持ち直し、軽く持ち上げたり振ってみる。
見た目からして切れ味も良さそうに感じ、腕などの負担がまるでない。軽さと切れ味に重点した急所狙いにはうってつけの一品、だがサチコは短刀の出来具合より、自分にこれを贈った人物のことばかり考えていた。
――一体誰なんだろ....私の使ってた短刀が壊れたなんて知ってるからギルドのメンバーだろうけど...
このおじさんが来ることをロアさんは知ってた。それに匿名って...フフッ、口で言ってくれればいいのに。でも、そういう所がロアさんっぽいな〜。.......ロアさん、いつもこんな私に気を使ってくれてる...嬉しいな。
「....はい!最高の贈り物です!ありがとうございます!」
――そしてロアさんも...本当に、本当にありがとうございます!!
歓喜のあまり涙が零れそうになりつつ、サチコは二人にお礼をしながら頭を下げた。短刀を持ってきたおじさんも満足そうにしていた。
「おう!そう喜んで貰えると職人冥利に尽きる!それじゃあ、ワシはここらで帰るかな。」
「え、そんな!せっかく来て貰ったのでお茶のひとつでも....」
「遠慮は要らんよ。村の方にもまだまだ仕事が溜まっとるし、あんたらの時間を邪魔する訳にはいかんよ。じゃあ姉ちゃん、そういう訳だからワシはもう帰るぞ。あんたも帰り道気を付けな。」
おじさんは馬車の方に呼びかけると、後ろの荷台から誰かが降りてくるのが分かった。
「...はい。お気遣い感謝します。貴方も道中お気を付けて....」
優しい透き通るような綺麗な女性の声が聞こえる。サチコはその声に聞き覚えがあり、その場で固まってしまう。
そのうちにおじさんはさっさと馬車に戻り、ギルドを後にして消えていく。
馬車が居なくなると、サチコの目の前には一人の人物だけが立っている。
紺色の修道服、首から下げている銀色の十字架、金色の髪に水色の瞳。見覚えのあるシスターがサチコの目の前にいた。
「...お久しぶりですねサチコさん。半年振りでしょうかね?」
「し....シアラ...さん....?」
まさかの人物にサチコは驚き、思考が停止してしまう。この世界に迷い込んだサチコを導き、救ってくれた恩人のシアラ。また会いたいと毎日のように思っていたが、彼女と会うのは自分が村へ行く時だと思っていた。
故にカウンターのような出会いにサチコは面をくらっていた。
「はい、シアラですよ。もしかして、もう顔を忘れられちゃいました?」
「忘れるわけないじゃないですか....し、シアラさん。........シアラさん!!」
サチコは涙ぐみながら、歓喜のあまりシアラに抱き着いた。自分が抱きしめているのが幻覚ではないと証明させるように、サチコは力いっぱいギューッとシアラを抱きしめ、シアラは優しくサチコの背中に手を回して子供を宥めるように優しく叩いてくれる。
「あはは、どうしましたサチコさん。ビックリしちゃいましたよ?」
「だ、だって!ずっと会いたかったから!シアラさんのおかげで私、毎日が楽しくて...ずっとお礼が言いたくて!!」
「そうですかそうですか...私も貴女に会いたかったですよサチコさん。」
シアラは優しく囁きながら、サチコの頭や背中を撫でてくれる。その優しさと温かさに我慢していた涙が溢れ、サチコは抱きしめながら泣いてしまう。
そんなサチコの反応にシアラは嬉しく思い、彼女が泣き止むまで優しく抱き返していたのだった。




