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演技

――――――――――――――――――――――――

 

 オレンジ色の薄光が辺りの古びた石通路、石部屋を照らし出す。

 腐臭が漂い、目の前には古びた鉄格子。自分の自由を奪う憎き鉄格子に加え、手首には魔力を電流へと変えるこの世界の手錠。


 それを見つめたムルガはギリギリと歯ぎしりをし、抑えられない怒りを床へ叩きつける。魔力があれば半壊までには出来たこの床も、魔力無き今では虚しい音が響くだけだった。



 ――クソッ!クソッ!クソッ!!ふざけんな!!なんで俺がこんな所に居なくちゃならねぇ!!俺は世界を変える男だぞ!?こんなことしてる場合じゃねぇ!!



「....これも全て俺の女を誑かしたあの下級国民のせいだ!ふざけやがって!ふざけやがって!!俺が守ってやるハズの奴になんで倒されなきゃならねぇ!!制限さえなかったらあんな奴ら...」



 そんな怒りと後悔を口にしても現状が変わることはなく、虚しく自分の声が響き渡るだけだった。すると目の前の廊下奥から話し声と足音が聞こえる。


 ムルガはビクッと身体を跳ねらせ、後退りをして情けなく震える。だが、その足音と話し声はこちらへ向かってこずに消えていき、ムルガは胸を撫で下ろす。



 ――ちくしょう...どうすればいいんだ....このままじゃ取り調べ終わった直後にクソ兵士共に殴り殺される...どうにかして逃げねぇと....



 そう思っても脱獄出来る術はなく、ただ拳を握り締めるだけだった。まるで死刑執行を待つ死刑囚、ムルガは薄々と自分に訪れる死を予感する。


 そうしていると、またもや足音が聞こえる。一人の足音が石通路に響き渡り、その上こちらに向かってくることが分かる。


 心臓が張り裂けそうな程に痛み、爆発寸前のように鼓動する。息も荒くなり、顔を青ざめ泣きそうになっていた。


 だが、近付いてきた人物を見てムルガは天に昇るような感覚になる。身体の緊張が解れ、身体から力が抜け落ちた。


 その人物はボサボサの青黒い髪で、格好もだらしなくボロボロ。捨てられた服を見立てたように、所々穴が空いて薄汚れていた。

 無償髭が目立つその口には煙草が咥えられ、牢屋の前でムルガをじーっと見つめていた。



「...来ないかと思ったぞ。アズザ。」

「....兄さん、どうしたんすか?その有様は。」



 この世界で誰しもが認める最強の男がそこに立っていた。煙草の息をふきかけながら、気だるそうに声をかけている。



「...ちょっと油断してな。不意打ちみたいなもんを受けちまったよ....」

「それは...災難でしたな〜。」

「あぁ...それよりも、ここから早く出してくれないか?お前の力なら牢屋を壊すことなんて簡単な事だろ?」



 ムルガは鉄格子から離れ、アズザが壊してくれるのを期待する。だが、当の本人は俯いてクスクス笑っており、ムルガは彼を睨みつけた。



「....何、笑ってるんだ?」

「ククク...お前まだそんな態度出来んのか?お前はどこまでアホなんだ!?イザゼル帝国の下級国民、確定の雑魚に負けた癖によくそんな言葉遣い出来るもんだ!クハハハハッ!!!」



 アズザは腹を抱えて大爆笑、加えて涙まで流しており、ムルガはギリギリと歯ぎしりをする。



「....言ったろ?不意打ちみたいなもんだって。制限さえなけりゃあ、あんな雑魚に遅れは取らねぇよ。」

「制限!?アイツらはお前以上の制限でやってたんだろ!?言い訳するにも、もっとマシな言葉選べよ!クハハハハッ!」

「...俺が今魔法を使えないからって調子乗ってんのか?前みたいにボコボコにして欲しいのか?」

「まだ分かんねぇのかよ!?こりゃあ傑作だ!あんなの演技に決まってんだろ勘違い野郎が!夢から覚めろよ!ククク....」



 アズザは流れてくる涙を拭き取り、まだ消えない薄ら笑いをしながら、苛立ちを露わにしているムルガを前にして煙草を吸った。



「ふぅ〜......俺は国一つ分の実力者と言われてる。言葉じゃなく、行動で表した。俺は国に喧嘩を売り、勝利し、今では余程のことをしなければお前らの法で取り締まることなんてない。」

「んなこと知ってる....だが、俺はお前に勝った!お前をボコして『舎弟に入れさせてくれ』って願いも叶えた!俺はてめぇより上だ!演技ってのも負け惜しみに過ぎねぇだろ!?違うか!?」

「違うね。国との喧嘩って何か分かるか?戦争だよ。俺一人対グルエル王国、そして連合軍とのな。だから、国は俺を全力で叩くために色んな策を練る。特攻、狙撃、爆撃、その上不意打ちや騙し討ち、何がなんでも勝とうとする戦術の嵐を乗りきった。

 それに対してお前はどうだ?下級国民の騙し討ちで呆気なく牢屋!?結果は出てんだろ馬鹿が!クククク....」



 ニヤニヤしながら言い放つアズザをムルガは見なかった。俯いてプルプルと怒りに震える。

 ムルガはアズザを倒した光景を忘れず、それが真実だと信じていた。どんな相手に苦戦を強いられても、世界最強の男に勝ったと言う実績が現実を薄め、"本気を出せば"という妄想に全力で抱きついていた。


 核心を突くようなアズザの言動は、自らの思いを否定され、それが悔しく苛立ってたまらなかった。



「.......早く出せ...。」

「ん〜?聞こえなかったのか〜?お前は」

「いいからさっさと出せ!!!」



 怒号と睨みを向けてくるムルガの態度、アズザは彼が何を思い何をしようとしているのかを察し、またもや口角が上がる。



「...了解で〜す。」



 アズザは軽い口調で言うと、鉄格子の間に右手を入れて横へ動かす。すると、鉄格子はまるでカーテンを動かすように簡単に外れていく。


 ムルガは何も言わず、牢屋から出て自分にはめられている手錠をアズザに向けると、彼は人差し指を土台に親指で押し潰し、手錠が解かれた。



「ククク...これで満足ですか〜?折角解いてやったんだ。お礼のひとつでもするのが礼儀じゃねぇのか?頭を床に擦り付けてよぉ〜?」



 煽るように言い放つアズザに対して、ムルガは言葉ではなく行動で応えた。すぐに魔力を帯びさせ、石通路から触手を生成し、ムルガに攻撃する。


 自分に伸びてくる触手を彼は鼻で笑い、右の裏拳をコツンっと軽く当てると、触手は壁まで吹っ飛びめり込ませる。



「ククク...なんの真似ですか兄さ〜ん?」

「決まってんだろ、てめぇのふざけた態度が気に入らない。立場を改めてやる。この前みたいに...いや、それ以上にボコボコにして二度とふざけた態度を取らせねぇ!レイナが居ねぇが、お前なんぞ俺一人で十分だ!!」



 ムルガは魔力を全力で解放。石通路に十本以上の触手を生み出し、余裕そうにタバコを吸っているアズザに先端を向ける。



「あぁ〜、死んだらしいな。感情型の感覚共有だっけか?この場に居ないのが本当に残念だな〜。」



 アズザの言葉に返答はせず、ムルガは両手を彼に向け、自分の魔力を全て込めた触手攻撃を放った。通路を覆ってしまうような触手の弾幕を前にしても、アズザはボーッとタバコを吸っていた。



「いや〜、本当に残念だ....二人が一緒に弾けるのを見てみたかったんだがなぁ?」



 触手が彼の肌に触れる時、ムルガは触手の隙間から見えた。不気味にも笑っているアズザの口が。



 翌日、イザゼル帝国城の中に聳え立つ城、帝国軍の本部であり王が住まうこの国のシンボル。

 そんな城門近くに設立されている銅像に大勢の人だかりができる。その銅像はこの国を生み出した初代王の銅像。


 大きな大剣を堂々と上に掲げ、凛々しい兵士の銅像。

 だが、その銅像は血で染っている。全身から血を垂れ流し、人の内臓がシールのようにあちこちに貼り付けられ、乗せられていた。そして大剣の先には目玉を全て抜き取られ、舌のない口をだらしなく開けている男性の頭が刺さっていたのだった。


 その男性が最後に思い浮かべたのは、自分の手で殺めた愛していた女性なのか、自分の理想郷の幻想なのか、それは知る由もない。



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