助けて
その上、ムルガは思考を動かす隙を与えない。三人に容赦なく無数の触手で攻撃していく。
自分の魔力じゃないのをいい事に好き勝手に暴れ、そんな彼の姿とレイナの不憫さにイラつくリーヤは、避けながらもアイディアを思いつく。
上手くいったらラッキーと思えるような薄い綱渡りだが、それしか道はないと確信した。
「...サッチー!!」
触手攻撃を避けつつ、リーヤは出来る限りサチコの方を向いて呼びかける。攻撃を受け、若干怯んでいるサチコは震えながらもリーヤの問いかけに応じるかのように顔を上げる。
「り、リーヤちゃん?」
「サッチー!頼んだよ!!」
「....え?それってどういう?」
サチコは聞き返そうとするが、三人に対しての触手攻撃のペースが上がっていき、リーヤはサチコの問いに答える余裕は無かった。
三人が必死に攻撃を避けている中、サチコはリーヤに言われたことを考えていた。
――え?なんなの?私は何を頼まれた?...私も参戦しろってこと?でも、今はレイナさんが盾にされてて...あ、魔人ローにしたように拘束をするってことかな?でも...私の呪いは全部レイナさんに行っちゃうんじゃ....
考えれば考えるほど分からなく、頭が壊れそうになっていたサチコ。リーヤが声をかけたのもあり、ムルガもサチコに目線を向け、サチコの傍にまた触手を生成して攻撃しようとする。
だが、それをリーヤは警戒しており、音波ですぐに壊し、更にムルガの片手にも放って弾いた。
「うお!....なんだなんだ?もうどうでも良くなったのか?レイナの命が...やっぱガキだな、言葉は立派そうにするが、信念なんて持てないもんな〜?」
「何勘違いしてるの?もうまともに動けない女の子狙う最低行為に反吐が出ただけなんですけど〜?ムルムルも、やっぱ思った以上にガキなのかもね〜?」
彼女の煽りにムルガは分かりやすいほど怒りを顕にし、攻撃のペースを上げる。そしてリーヤはそれを避けつつ、ある程度の間隔で弱い音波を当てて続ける。
この行為にエンスもノトレムも察しが着いていた。各々がやるべき事を理解し、二人も怪我を負わせない程度に攻撃する。
「ちっ!てめぇら!チマチマ攻撃なんかしやがって!何したいんだ!」
声を荒らげ、触手の操り方も感情を表すかのように雑になっていく。読みやすい攻撃故に避けれてはいるが、三人の体力もそろそろ限界を迎えていた。
ノトレムは額に汗で濡らしながら、サチコに目でメッセージを送る。
――頑張ってサチコちゃん!僕らの意思を読み取って!ムルガ君の意識を僕らが集めている間に!
リーヤが守り、三人が弱い攻撃でムルガの意識を集め、今はノトレムの目線を受けたサチコ。今、何が起きているのか分からないサチコだったが、自分が何かをしなければならないのは分かっていた。故に焦る。
――は、早くしないと!私が何かしないと皆が危ない!!だけど、私が出来ることって何!?皆が出来なくて私だけが出来ることなんてあるわけない...思いつかないよ!
い、いや!あるんだ!何かしら...一旦、冷静になるんだ私...落ち着いて考えれば....
サチコは荒らげる呼吸を落ち着かせ、ゆっくりと深呼吸をする。早くしなければという焦りを何とか抑え、自分の精神安定を優先させる。呼吸をする度にヒートアップしていた頭から熱が消えていき、スッキリするくらい頭がクリアになっていく。
そして"慌てるな"と自分に言い聞かせつつ、リーヤが声をかけてからの出来事を思い返し、紐解いていく。
――....あ、ある。私にしか今出来ないことが。ムルガさんの注意を引いたのも、私を守ったのも、私がレイナさんを説得する時間と空間を作る為なんだ!そうだ!そうだよ!!レイナさんさえ説得出来れば全部済む問題なんだ!
サチコは急いでレイナが消えていった地面に蹲り、両手で筒を作り地面に付け、口を筒の口に当てて少しでも地中に声が通るように話しかけた。
「レイナさん!聞こえますか!?お願いです!ムルガさんに手を貸すのをやめてください!!」
そう声をかけても何の合図も声も聞こえない。それもそのはず、レイナが地面の中に入れるのはムルガの魔法。レイナが地面を操ることなどそもそも出来ないのだ。
伝わっているかどうか不安になりつつも、サチコは必死に呼びかける。
「このままじゃ私達が倒されちゃうんです!!ムルガさんを止めることが出来なくなるんです!だから、いますぐ辞めてくださいよ!ムルガさんと一緒に暮らしたくないんですか!!?」
手の筒の中で大声でサチコは話しかける。涙を浮かばせ、喉が裂けそうになりながらも必死に声をかける。
その声は地中にいるレイナにも届いていた。ムルガが作った触手を利用した小さな空間で目を瞑りながらも聞いていた。だが、それだけ。彼女の意思はピクリともブレなかった。
――...ごめん....本当にごめんなさい。でもこれ以上ムルガ君が傷付くのは見てられない。あんなに頑固になっている彼を正すなんて無理よ。彼は絶対に折れない、ならいっそ私は最後の時までそばに居たい....彼のそばに居続けたい...
そんなレイナの想いが伝わったのか、サチコは自分の無力感に襲われる。そしてその時、小さい悲鳴が聞こえた。
「キャッ!!....うぅ...」
「あはは!ようやく当たってきたな!どうした!?さっきみたいに生意気な事を言ってみろよガキ!」
今まで避け続けていたリーヤに攻撃が当たり始めたのだ。そしてそれに続くようにエンスもノトレムも被弾が目立つようになる。三人とも汗だくで直撃を何とか避けつつ、サチコの説得時間を守ろうと注目を集めるためにわざわざ危険を冒してまで前へ出続ける。
そんな三人を見てサチコは自分の不甲斐なさに腹に黒いものが浮かび上がり、それは涙へと変わった。そしてその悔しさか怒りか、本人も分からない感情に支配され、レイナが下にいる場所に向かって何度も手を叩きつけた。
サチコの嗚咽、そして叩く音。それはレイナの良心をチクチクと攻撃する。彼女自身も辛く思い、顔を顰める。だが、ムルガの傍にいると決めた彼女の意思はそれでは変わらなかった。
何度も何度も叩きつけていたサチコだが、疲れたのか叩くのを辞めた。涙を流し、力無く嗚咽を吐き漏らしていたが、三人を助ける為、サチコは諦めなかった。
「.......レイナさん。私は、日本では居場所がなかった。毎日が地獄みたいで、死ぬことをしょっちゅう考えていたんです。"生きてて何が楽しいんだろ?""死んだ方が楽なんじゃないか?"ってずっと思ってました。
でも、この世界に転移してからは、生きたくて生きたくて仕方ないんです。」
――...........
「死ぬのが怖いんじゃないんです。生きるのが楽しいんです。私を仲間だと呼んでくれる人と、同じ時を過ごしたい。食事を、会話を楽しみたい....私にようやく出来た大切な人たち...日本では見当たりもしなかった隣に居たいって心から思える人達....」
――...................
「お願いします....レイナさん、もうやめて....私から皆を奪おうとしないで。私にとっての光を閉ざそうとしないでよ...ぅぅ....お願いだからぁ...皆を....私を助けてよぉ.......」
――.......................
レイナの魔力が一層高まった。




