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実力行使

 そんな声が奥の方から聞こえてくる。扉と真反対にある洞穴から一人の人物がかったるそうに出てくる。

 いかにも平凡そうな顔だが、見える歯は八重歯で肩まで伸びている茶髪が目立つ。昨夜着ていたローブを着用しているが、頭までは被らずマント状態。薄着などではなく、白と茶色が入り交じる革製の厚そうな上着やズボンにベルト、まるで狩りを行う格好のようにサチコは思った。



 その人物はサチコらを見ると血相を変え、その後ろにひょっこりと姿を見せるレイナを睨みつけ、近付いてくる。



「レイナ...これどういう事だ?」

「ムルガ君...安心して!争いに来たわけじゃない、話し合いをする為に...その...」

「話し合い?何の?今やってる事を辞めろって?辞めるわけがないだろ!俺はこの世界を変えるんだ!!誰かがやらなきゃならない...お前も納得した筈だろ!?」




 声を荒らげて言い放たったその言葉にレイナは後退りをしてしまう。その代わりにエンスは一歩前へ出てくる。



「心から納得してないからこうなってるんじゃない〜?自分の目的の為に必死になるのはわかるけど、もう少し相手の気持ちを理解しないとダメじゃない〜?」

「....てめぇ、昨夜の変態か。その様子じゃあ粗方レイナから話聞いたんだろ?俺は辞めるつもりはねぇ!兄貴の為にも...お前ら下級国民の為にやってるのにどうして邪魔するんだ!!」

「そんな言い方辞めてくれない〜?そんなんじゃ僕らがそれを望んで君に頼んでいるみたいじゃないか〜。僕らは平和な世の中を願うことはあっても、こんなあまりに無謀で強引なやり方なんて望んだことは無いよ〜。」



 エンスのいつものふざけた態度にピクリと眉を動かしたムルガは足を止め、睨み続けていると思いきや笑い始めた。



「クククク...成程、そういうことか。上手くそいつらに話を乗せられたって訳か?....レイナ、お前は俺より得体の知れない連中を選んだってことか。」




 その発言にレイナは顔を真っ青にし、慌てすぎたのかエンスを後ろへ投げて強引に前に出た。



「ち、違う!!私は貴方のことが大切だから!死んで欲しくなんてないのよ!!」

「言葉なんてどうてもいい、行動で示せよ。お前はどっち側に着くつもりだ?俺か、アイツらか、二つに一つだ。お前がどっちに着こうが俺は止まらない、ただ...俺は傍にレイナが居てくれると信じてる。」



 その言葉にレイナの心はぐらつく。ムルガとエンスらを何回も見て、顔を顰めながら汗が湧き出てくる。見てわかる苦しそうな表情、そんな彼女をサチコは黙って見ていることが出来なかった。



「な、なんでそんな意地悪な選択させるんですか!?レイナさんはムルガさんの事を大切に思って死んで欲しくないから、こうやって止めようとしてるのに...貴方が辞めれば良いだけじゃないですか!」

「辞めるわけないだろ!?この世界は腐ってる...下の者に手を差し伸べるどころか、踏み潰す世界だぞ!?

 変えなきゃなんねぇだろうが!!こんなふざけた現状を!!ろくに生きてない小娘が勝手な事を言うな!!」



 ムルガは怒鳴るように言い放つと両手を合わせて魔力を込める。すると、彼の周りの地面から石の触手が五本現れ、彼の意志を表すように先をサチコらに向ける。



「帝国軍にバレたくねぇから魔力制限してるが、知ってるか?俺はあのアズザ・レオフォードを倒し伏せた男だぞ!?下級国民が勝てるわけないのは明らかだ!分かったら、さっさと寝床に帰れ!」



 鼻息を荒くし、サチコらを睨みつけるムルガ。説得は無理だと判断したのか、エンス、リーヤ、ノトレムは魔力を帯びて突然の攻撃に備える。


 だが、サチコはまだ話し合いが出来ると信じていた。

 否、信じたかった。レイナの気持ちを汲み取りたくて今、目の前の事が幻覚と感じているように視界に映るものを無視していた。



「なんで....レイナさんは自分が危険な目に遭ってまで助けようとしたのに...貴方はレイナさんと一緒に居たくないんですか!?こんなに想ってくれてるレイナさんと幸せに暮らして生きたいって思わないんですか!?」



 珍しく前のめりに必死にサチコは言い放つ。それに対してムルガは小さく笑うと、更に鋭い目つきでサチコを睨みつけた。



「じゃあいつ誰が行動するって言うんだ!!無責任なことを言いやがって...そんな思考に落ちる奴らばかりだから、結局変わらないでここまで続いてるんだ!!」

「わ、私達が!私達がこの世界を」

「黙れ!お前らは上級国民を守ってる!それは反乱を起こす覚悟も、する気もないと言ってるとも同義!俺の邪魔をするなら....例え下級国民とはいえ容赦しない!!」



 ムルガはそう言い放つと同時に両手をサチコらに向ける。すると、止まっていた触手が一気に彼女らに襲いかかってくる。

 リーヤは女性陣の手を掴んで後ろへ、男性陣は触手の弾幕の中へ突っ込んでいく。



「り、リーヤちゃん!まだ!まだ話し合いが」

「諦めてサッチー!話し合いが通じないのはもう分かるでしょ!?残念だけど、実力行使。やるしかないよ。」

「で、でも!それじゃあレイナさんとの約束が!」

「大丈夫!!ムルムルは殺さないし、帝国軍にも引き渡さない!例えエンスとノットーが引き渡そうとしてもウチが必ず守るから、サッチーはレイレイを守って!ウチもふたりと一緒に戦うから!」



 リーヤは二人を部屋の隅へ連れていくと、サチコの肩をグッと掴んで表情で「任せた」と伝えた。まだ完全な納得は出来ていなかったものの、自分のワガママが通じる状況でないのも分かっていた為、切り替えて頷く。




「...レイレイ、大丈夫だからね。ウチらが絶対に何とかしてみせるから!」

「えぇ....お願い...」

「そんな深刻な顔しないでよ。レイレイはムルムルを説得する事だけ考えてればいいから。じゃあサッチー、レイレイを頼んだよ?」

「う、うん!!」



 サチコの返事にリーヤは笑顔で応え、すぐに背を向けてムルガの方へと走っていく。そんな彼女を見つつ、サチコは後ろで震えるレイナの方へ目線を向ける。

 レイナは自分のやってきた事が本当に正しかったのか分からず、怯えが表情に現れ、ムルガが無事な事を必死に祈っていた。



 ――レイナさんは間違ってなんかいない。大切な人を助けようと必死になって行動してきたんだ。でも、ムルガさんの言う事も分かる。復国軍なんて存在すら知らないから仕方がないよね。

 ....本当に説得できるのかな?ううん、そんなの今は気にしなくていい。狙われることは無いだろうけど、レイナさんは私がちゃんと守らないと!!



 サチコは自らの意思に鞭を打ち、大好きな仲間を信じて見守った。


 昨夜とは違い、ムルガの触手の質も数も異なり、多くの触手が彼らを倒そうと襲ってくる。だが、エンスとノトレムはそれを華麗に避け、そして突き進む。

 その上リーヤも向かっていることに気が付き、ムルガは小さく舌打ちをすると、更に魔力を上げて合計七本もの触手で三人を襲う。


 昨夜の事が頭を過り、ノトレムに対する攻撃の量が多く、彼は近づくのが遅れるが、その分エンスが早くもムルガに接近する事が出来た。


 後ろへ飛んで距離を作ろうとするムルガに、エンスはすかさず背を向けて上半身を地面スレスレまで落とし、限界まで距離を伸ばした後ろ蹴りを放つ。


 それはムルガの腹に直撃。唾を吐き散らし苦痛に歪みつつ、ムルガは瞬時に触手を傍に生成して攻撃する。

 そして、エンスは距離を離す代わりに攻撃を避ける。相手は当たってこっちが当たらないもどかしさにムルガはイラつきを感じる。

 その隙にリーヤがいつの間にか左隣まで接近、右手を筒のようにすると、口に当ててムルガに向ける。



音波(サウンドショック)!」



 ローにやった一点に集中させた音の衝撃はムルガの横腹を捉える。痛みに顔を歪ませて横腹を抑え、衝撃で少し飛ばされると右側から攻めてきていたノトレムの豪腕が彼に襲いかかる。


 ムルガはゾッとし、その場で触手を生成。ノトレムの伸びてくる右腕に当てて軌道をそらし、彼から距離を離した。

 すると、それを読んでいたエンスはムルガが飛び避けた場所へいち早く辿り着き、驚く彼の顔に掌底を喰らわす。



 ムルガは鼻血を出しながら後ろへ飛ばされ、地面に背をつけたのだった。



「い、いやっ!!」



 そんな小さい悲鳴がサチコの後ろから聞こえる。レイナはムルガが攻撃を受けていることに衝撃を受け、小さい口を震わしながら泣きそうになっていた。



「れ、レイナさん!大丈夫ですから!」

「わ...私は間違ってたの?私は彼を助けたかった....彼を傷付ける為じゃないのに!」

「間違ってなんかいません!だから、今は耐えてください!大丈夫ですから!」


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