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10.閑古鳥!?

 

 次の日も、エリスは朝早く家を出て魔法屋アンティークにやって来た。

 さすがのティーナも今日は目が覚めていて、パンを口にはさんだまま寝ぼけまなこで出迎える。


「あぁ、幸せ……」

(……せっかくの美人さんなのに、なんだかなぁ)


 左手に食べかけのパンを持ったまま、エリスが入れた紅茶を飲んで恍惚とした表情を浮かべるティーナ。

 まるで女神のような横顔を眺めながら、内心とても残念に思うエリスであった。


「ところで……ぜんぜんお客さん来ませんね」


 エリスが発した禁断の質問に、ティーナが動きを止める。

 実は昨日一昨日と、エリスが知る限り自分たち以外の誰もこの店に来ていないのだ。


「……エリス、良いところに気付いたね?」

「そんなの誰だって気付きますよ」

「それだけ商売をするというのは大変なことなんだよ。だからボクも生きていくのに必死なんだ」

「はぁ……」


 口ではそう言いながらも、ティーナからは必死さが微塵も伝わってこない。


「で、でもお客さんが来ないんじゃまずくないですか?」

「うーん。魔法屋なんてどこもこんなもんじゃないのかな? もっとも魔法屋だけに限った話じゃないけどさ」


 だから自分の店に客が来ないのも仕方がないのだとティーナは説明したが、エリスはそんなありきたりな理由で納得しなかった。


 魔法使いは希少な存在だ。

 冷蔵庫や時計に照明など、人々にとって魔法による恩恵は生活に必要なものとなっていた。

 にもかかわらず、なぜこの店にはお客様が来ないのか。


「いまさら聞くのも変なんですが、魔法屋の仕事ってどんなことをするんですか?」

「まぁ有名なところでは、依頼のあった魔道具への魔力提供だね」


 この世界で、魔力はさまざまな魔道具を動かすエネルギーとなる。

 たとえば、「時計」は魔力を補充することで動いているし、魔力で光を灯す「照明」や、食品を保管する「冷蔵庫」も同様だ。

 これらの魔道具は、蓄えられた「魔力」を消費して動いている。ゆえに魔道具には、定期的に「魔力」を注入する必要があった。

 こういった活動が、魔法使い──すなわち魔法屋の主要な収入源となる。


「それと、魔道具の作成・売買」


 照明や時計、冷蔵庫などの魔道具は、実は魔法使いにしか作れない。

 厳密には「箱もの」自体は職人が作るのだが、そこに魔力の通る導線──魔法式や魔法陣を組み込むのが魔法使いの仕事なのだ。


「あとは、ごく一部のマニアックな客の依頼対応とかかな? たとえば魔法の素材販売とか、魔法薬(ポーション)販売とかね」


 一通りの説明を終えると、ティーナは髪をかきあげ大きな耳飾りを示した。

 彼女の説明によると、なんとその耳飾りは亡くなった祖母のデイズが魔力を込めて創った魔道具なのだという。


 魔道具というからには、なにかの力が込められているのであろう。

 どんな魔力が込められているかは教えてもらえなかったが、彼女にとってなによりも大事なものであることだけはエリスにも感じ取ることができた。


「さて、これで魔法屋の仕事の内容がよくわかったね」


 魔法使いと言えば「炎がぼわーっ!」というイメージが強かったエリスだが、それが誤りであることを認識することができた。

 魔法屋の仕事は、実際はそんなに派手なものではなく、もっと生々しく人々の生活に密着したものであることを理解した。


 だが問題は、本来であれば需要が多いはずのアンティークに、客の姿がいっさい見られないことだ。店主のティーナに至っては、仕事を取って来ようという気配すらない。


「……それでは、ティーナは魔力供給のお仕事をしているのですか?」

「いや、ボクは魔力供給の仕事はほとんどしてない。スケベなやつらが多くてやめたんだ」

(……あぁ、それはわかるかも)


 これだけの美少女だ、仕事を口実に言い寄ってくる男も多かったのだろう。


「じゃあ、魔道具作成は?」

「してない。というか、できない。ボクは細かい作業は苦手なんだ」

(……うん、たしかに苦手そうだ)


 実際簡単な「魔法薬精製メイクポーション」の魔法でさえ失敗したティーナに、より繊細な作業が求められる魔道具製作ができるとは思えなかった。


「では……いったい何を?」

「うーん、基本的には魔道具の修理や素材の仕入れと販売かなぁ? 依頼があればたまに魔法薬(ポーション)売ってるけど、下心ありそうなやつは相手してない」


 なるほど、ティーナはかなり商売に苦労しているようだ。

 昨日判明したとおり、ティーナはあまり魔法が上手でない。

 魔法使いとしては致命的な欠点を持つ彼女がこの商売で生きていくのは、想像以上に大変なことなのではないだろうか。


 色々なことを考えているうちに、エリスはふと思いついた。

 自分が仕事を認められるための条件。

 それは──魔法屋アンティークに「お客を集めること」ではないかと。


(そうだよ! 私が頑張ってティーナが路頭に迷わないようにしなきゃ! それこそが、天から私が与えられた使命……あ、もしかしたらあの『鍵』は、そのために私を呼んだのかもっ!?)


 エリスは、自分のひらめきが素晴らしいアイディアのように思えた。


「さて、朝ご飯も食べたし本でも読むかな……どうしたんだい? ボクの顔になんかついてる?」

「あの……私をアルバイトとして正式に雇うかどうかは、この七日間の間で見極めるのですよね?」

「あー、うん。そのつもりだけど?」

「だったら、私のアルバイトの採用条件はなにか考えているのですか?」

「あー、うーーん。うーーーん」


 ……これはなにも考えてないな。

 予想通りとはいえ、少しガックリきてしまうエリスだったが、すぐに気を取り直す。


「だったら、こんな条件はどうでしょう? 私がたくさんお客さんを連れて来たら、アルバイトとして正式に認める、というのは」

「ほほぅ」


 エリスの言葉に初めてティーナが興味を示す。


「その……私なりにできることはないのかって、ずっと考えてたんです。たとえば掃除をしたり、紅茶を淹れてみたりとか」

「うーん。まぁボクからしたら、エリスが紅茶を淹れてくれるってだけでもうれしいんだけどね」

「いまはそれでもいいかもしれません。でもティーナにも生活がありますよね?」

「うん、まぁ、ねぇ」

「それに私のアルバイト代だって、どうやって出すんですか?」


 エリスの鋭い指摘にうっ、と答えにつまるティーナ。


(まさかそこまでなにも考えてなかったの? このひとは……)

「そ、そりゃあお客さんがいっぱい来ればいいけどさ。そんなに急にうまくはいかないよ」

「だからこそ、私の合格条件にすれば良いのではないでしょうか?」

「……ボクは、自分では売り込みはしないよ?」


 ティーナはとんでもないレベルの美少女だ。

 だが彼女は己の美貌を武器にしようとは考えていない。むしろ外見でたむろしてくるような人たちを強く拒んでいるようにすら感じられる。おそらく過去にいろいろなことがあったのだろう。

 だとしたら、ティーナの営業力不足をカバーすることこそが自分の役割ではないか。エリスは意を決する。


「わかっています。集客や接客も含めて私の仕事だと思っていますので」

「うーん、そうか。でもねぇ、うーん……」

「それに私、このお店とティーナを守りたいのです。偶然の出会いではありましたけど──いろいろな話を聞いて、ここがティーナにとって大事な場所だというのはわかりましたし」


 今は亡き彼女の祖母デイズ。

 ティーナはなにも言わないが、デイズを語る時のまなざしは暖かいものだった。


「そのためにもこのお店が、その、つぶれるような事態にはしたくないのです」

「言ってくれるねぇ、エリス。……うーん、そうか」


 ティーナはしばし考え込んでいたものの、やがてなにか決心をしたように顔を上げる。


「わかった、その条件で良いよ」

「本当ですかっ!? ありがとうございます!!」


 エリスの顔に、ぱっと一気に笑顔の花が咲いた。


「あの、実はもうひとつ話があります」

「ん? なんだい?」


 紅茶のお代わりを注ぎながら、エリスはタイミングを見計らってティーナに追撃を仕掛けた。


「いくら私ががんばって働いたとしてもアルバイト代はたかが知れてます。100万という大金を返済するには長い時間がかかってしまうと思うんです」

「……まぁ確かにそうだね」

「そこで提案なんですが、私が働くことで上乗せされた利益の一部を私のアルバイト代にする、というのはどうでしょう?」


 基本的な考え方はこうだ。

 エリスがなんらかの行為を行うことでお客が来て売り上げが増えた場合、増加した売り上げ金額のうちの一部──たとえば三割をエリスの取り分とする、というものだ。

 ここで問題となるのは、基準となる魔法屋アンティークの現在の月の平均売り上げ額だった。


「……ほほう、そう来るか。なかなか面白いね」

「そこでティーナに教えていただきたいのですが、このお店はいま月にだいたいどれくらい売り上げているのですか?」

「……うっ」


 ティーナは苦虫をかみつぶしたような顔で呻き声を上げると、観念したかのようにごそごそとカウンターの下をあさりだした。

 ぽいっと投げられた帳簿を、あわてて受け取ったエリスはすぐに中身を確認する。


(……こりゃひどい)


 それが、エリスが帳簿を見て感じた第一印象だ。

 家庭教師に帳簿の見方は習っていたが、はっきり言って魔法屋アンティークの売上は絶望的に低かった。

 恐ろしいことに、売り上げがない日のほうが多いくらいなのだ。

 事実、昨日も今日も一人も客が来ていない。


 だが今は魔法屋の売上について議論している場合ではない。

 敢えて売上問題には目を瞑って、エリスはティーナに対して一気に条件を提示する。


「……わかりました。それでは、ここ一年間の売り上げの平均を取って、それを基準の売り上げとしましょう。そのうえで基準を超えた分の売り上げの利益を私のアルバイト代とする。これでどうですか?」

「あ、ああ。それで良いよ」


 勢いに気圧されるようにティーナが頷いた。

 よしっ、作戦は大成功だ。エリスは心の中でガッツポーズをした。


 こうしてエリスは、アルバイトの雇用条件の設定と、ついでに賃金交渉まで完了させてしまったのであった。


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[一言] 雇用条件と賃金交渉、無事に成功。
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