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唯一塔の地下100階  作者: タマ
第一章 地上編
8/17

一手

 上空。跳ぶものと降りるもの、2つが重なって接触しようとしている。


「クッ!」


 上から降りてきた逃亡者は咄嗟のことに驚き、鉄球武器を向かってくるものと自身の間にガードとして飛ばし、自分は反射的に体をひねって避けようとする。

 避けようとして体はバランスを崩し、重力による自由落下を始めてしまった。靴の裏に付けていた鉄塊があらぬ方向に散ってしまう。

 急に重力に襲われ焦り、逃亡者は自分の周囲に浮かばせていた鉄球に手を伸ばした。がしりと掴み安心したのも束の間、鉄球は上後ろ斜め方向の力を受けて彼の体ごと引っ張った。


「何ッ?!」


 彼が掴んだ鉄球は小さな鉄球であり、その先には鉄の鎖がある。それがピンと伸び切った先に、大きな鉄球がついていて、今それはアルスアの左手によってガッシリとキャッチされていた。


「何やってんだ! テメェ!」

「アルスア君?! なにしてるんだい一体!?」


 罵倒する男の声も、小脇に抱えられている姿勢の関係上その男が見えないクーロンの困惑も意に介さず、跳躍の勢い衰えぬアルスアはそのまま4階の床に足裏を滑らせながら着地した。左手を開くと、『パー』で包み込んでいた鉄球が地面にドスンと落ちた。

 衝突直前から目を瞑っていたベルがアルスアの動きが止まったのを感じておそるおそる目を開ける。そこにはアルスアに引きずられピクリとも動かない男がいた。


「どういう状況ですか? これ……」

「畜生、滅茶苦茶すぎるだろ……」


 倒れていた男はズルズルと立ち上がり先に進もうとする。しかし受けたダメージが大きいのか、数歩進む前に再び倒れてしまった。


「君! 肩が脱臼してるじゃないか! 応急処置をしないと! ベル君! 僕のバッグから包帯を!」

「はい!」


 クーロンがゆっくり傷付けないように男を壁際に持たれかけさせる。治療の準備をする隣で、男は動く方の腕でもう片方の肩を掴み、力任せに外れた関節を嵌め込んだ。


「フッ……! クッ……、ハァッ! ハァ」


 走った痛みの激しさは流れる冷や汗が証明している。


「なにやってるんだ君?!」

「このくらい……、どうってことない……ッ」


 そう言いながら立ち上がろうとするのをベルは阻止しようとした。ベルの制止が有効なほど、彼は疲弊していた。


「いや、そんなわけないじゃないですか!」

「とりあえず休憩テント地まで運ばないと……。一番近くにあるのは……」


 男は観念したように座り込み、大きく息を吐いた。


「……何故、見ず知らずの俺にお前らはここまでするんだ?」

「え、なぜって……、普通しないですか?」

「あと君の怪我は僕たちにも責任はあるしね」

「そうか……」


 男は穴の方角を見た。4階の切れ目からは少し見上げると6階まで見ることができ、煙が消えて塔族たちと目が合った。


「……とりあえず、もう少し奥に運んでくれ。追われてるんだ」

「ああ、分かった。……そうだ、君の名前を教えてくれないか、君のことを何と呼べばいいのか分からないからね。あと次いでに呪いも教えてくれないか」

「なぜ呪いまで……? まあいい。名前はレフだ。呪いは『磁場』の呪い。磁石にくっつく物を操ることができる」


◆◆◆


 ここは6階、4階の奥に消える逃亡者と謎の3人組を見届け部下を送り込んだ塔族は、部下が敵の首を持ってくるのを待っていた。


「なぜちょうど4階だったのだ……5階までならドンの呪いの範囲内だからすぐ捕まえられたのに……」


 ぶつくさ文句を垂れる彼の後ろから女が近づいてきた。顔の上半分を隠す蝶のような大きなマスクをしているが、肘から先と膝から先と胸と陰部しか隠してない、黒い独特な光沢を放つ衣装が注目を引く。さらによく見れば素肌も衣装に似た光沢を発している。ヘソの下にはハートマークの呪いの模様がある。


「おい。状況はどうなってるの?」

「あ! ラティック様! 逃亡者はここの穴から4階に逃げ」

「そんなことは既に聞いているわ。バカにしてるの? アナタ」

「すみません! そんなわけでは……」


 ラティックの耳にドンのアクセサリーは無い。彼女の呪いが骨の振動を吸収してしまうからである。


「ワタシが聞きたいのはどうしてまだヤツを捕まえられていないのかよ」

「は?」

「は? ではないでしょ」

「いや、4階より下は遠隔会話ができないから通常よりも時間が」

「飛べばいいじゃない。粗チンなの?」

「え? いやウチのところには空を飛べる呪い持ちがいな」

「そこは工夫じゃない、頭まで粗チンになっちゃったの?

 はぁ。なぜこんな粗チンどもがキニトス様の御声を聞くことができるのか……。キニトス様に最も近いワタシこそが声を聞くのに相応しいのに……。

 まぁいいや。アナタ、そこどきなさい」

「え?」


 その瞬間、彼女は右手を離した。10メートル後ろの曲がり角を掴んでいた、粘土の塊を引き伸ばしたかのように平べったい腕を。ギチギチと千切れるギリギリの音がする腕を。

 これの粘土と違うところは、その右手が急速に元の状態に戻ろうとするところである。そして戻ってきたときのエネルギーで、彼女の体は超スピードで吹き飛ばされる。4階にほぼ直線で突っ込んでいった彼女は、案の定頭から血を流しながら、それでも恍惚とした表情でその血を舐め、


「この血も全てキニトス様のためなら……」


 と言いながら奥に進んでいく。

 それを6階から見る部下は、


「出来るわけないだろ……」


 とボヤいた。

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