廃車山の写真
この町の外れには、廃車が大量に放棄されている場所がある。その場所は子供にとって格好の遊び場で、危ないとは思いつつも、私達は秘密基地としてよく訪れていた。廃車は山のように積まれており、バランスよく積まれたそれらは子供の私達が乗っても崩れることはない。だが、ある一件があってから、私はあそこに行くことをやめた。それは、ある夏の日の事だった。
「はい、チーズ」
スマホを買ってもらった友人が、カメラ機能を使っていろんな写真を撮っていた。私もそれに混ざり、部屋の中や家の前、そしてついにあの廃車山にやってきた。
「秘密基地に写真印刷して、たくさん飾ろうぜ」
「いいね、どんどん撮ろう」
たくさん写真を撮り、秘密基地の中で撮った写真を一緒に確認する。
「お前目瞑ってんじゃん」
「撮影するタイミングが悪いんだよ」
「あ、これいい」
撮影順に一枚ずつ眺めていたが、ある一枚の写真が目に入る。
「これ、誰かいる?」
「え?」
それは、廃車山の入り口から廃車山の全体を撮った画像だった。奥の方、後部座席が潰れている廃車の助手席に、確かに白い人影がある。
「俺らのほかに来てたのかな?」
「でも、この車はドア開かないから入れないはずだけど、明らかに中にいるよね」
「………」
少し怖くなる。だが、フロントガラスの反射のせいだろうという事にし、続きを見る。しかし。
「あれ?」
次の写真は、私と廃車山の一角を撮った写真。そこにも、白い人影は写っていた
「誰も、いなかったよな?」
「うん……」
次は、廃車山から町の方を撮った写真。廃車山自体が林を抜けた先にあるので、林しか映ってないが……そこにも、白い人影はあった。
「……なんか、少しずつ大きくなってないか?」
友人の言う通り、人影は徐々に大きさを増し、今や写真を開くとすぐに見つけられるほどになっていた。
「なぁ、もう帰ろうぜ」
「あ、ああ」
妙に怖くなり、今までは一人でも楽しく過ごしていた秘密基地がどこか別の場所のようにも感じ……友人の家に戻り。
「一応、あと2枚で最後だからここで確認するか」
「え、もうやめとこうぜ」
「ここは家だし怖くないだろ? それによく考えたら、心霊写真としてどこかに送ればお金もらえるかもよ」
「うーん……」
結局友人は先ほどの続きの写真を出す。それはあるスポーツカーの廃車の写真。人影は写っていなかった。
「なんだ、何もないじゃん」
「ほんとだ。でも、変な赤い線入ってる」
「これこそ反射みたいなやつだろ」
最後の一枚は、秘密基地から廃車山を写した写真だが、やはり何もいない。
「もしかしたら気のせいだったんじゃないか?」
怖くなくなったのか、友人が白い人影が映っていた写真を再びスマホ上に表示する。そこには。
「え?」
人影は、無くなっていた。代わりに、赤い線が入っている。先ほどの2枚と同様だ。
「なんだよこの線……さっきはなかったのに」
「スマホが壊れたんじゃないのか?」
「まじかよ、勘弁してくれよ」
結局、廃車山の写真はすべて赤い線が入っていて、それ以外の場所の写真はすべて無事だった。あの影は何だったのか。そして、赤い線は何なのか。それが分かったのは、翌日の事だった。
ー----------------------------------------
「おい!」
学校に着くや、友人が私の席に来て机の上に何かをぶちまける。
「な、なんだよ」
「これ!」
ぶちまけられたのは、写真だ。すべてに赤い線が入っている。ああ、こないだの写真か。
「印刷したんだ。俺いらないよ」
「そうじゃねえよ!」
友人は写真をパズルのように並べ替えていく。10枚ほどの写真の赤い線をつなげていくと……
「うわ……」
それは、大きな赤い目の模様になった。
「この一枚だけ、丸い線だったから気になってたんだよ。だからつなげてみたら……」
それは、一番初めに白い人影を見つけた、後部座席が潰れたあの車の写真だ。
「ど、どうするんだよこれ」
「知らねえよ、どっか持っていけば供養してもらえるのかな?」
結局、その写真はどうすることもできず、友人が廃車山に捨てた。それ以降、特に何が起きるわけでもなかったが、友人はトラウマになったのか、写真を撮ることをしなくなった。しかし、数年後。廃車山が取り壊されることになり、私達は秘密基地に置いていた私物を回収するべく、廃車山の秘密基地に入る。そこには……
「だ、誰がこんなことしたんだよ!」
「俺じゃないからな、データは消したんだから!」
秘密基地の壁には、あの写真。赤い目の模様になるように並べ替えられた写真が飾ってあった。それも一枚ではない。写真は複製され、同様に赤い目の模様になるように並べ替えられている。データは友人しかもっていないのに、なぜ複数枚あるのか。逃げるようにその場を離れ、私たちは二度と廃車山を訪れることはなく、取り壊された。あの白い人影と赤い目の模様、そして写真が増えていたのは何だったのか、二度と分かることはない。
完