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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
トージロー
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ルイスとピーター

「ぐあぁ!!?」

「ルイス兄ぃ!!」


 閃いた腕の速さが、それを刃と錯覚させる。

 いや、事実それは刃の鋭さをもってルイスの身体へと襲い掛かっていた。


「くっ、この程度!!」


 それに何とか剣を合わせ、致命傷を防いだルイスもその傷は深い。

 しかし彼はそれに倒れようとした身体を、地面へと突き立てた剣で無理やり支え、戦いを継続させようとしていた。


「坊主、もういい!!お前は下がってろ!嬢ちゃん、頼んだぞ!!」

「畏まりました!!ルイスさん、こちらへ!」 


 それは彼へと止めを刺そうとしていたヴァーデの行く手を遮るように、その斧を振り下ろしたグルドに止められる。

 グルドは自らの渾身の一撃を何て事もないように避けて見せたヴァーデを鋭い形相で睨みつけながら、背後のレティシアへとルイスを頼んだと声を掛けている。

 その声に、レティシアは慌ててルイスへと駆け寄っていく。


「止めろ!俺はまだ戦える・・・戦えるんだ!!」

「駄目です!!これ以上やったら、本当に死んでしまいます!!貴方が死んだら、一体誰がメイさんの面倒を見るんですか!?」


 ルイスへと駆け寄ったレティシアは、自らの衣服を破ってはそれを即席の包帯として彼の傷口を覆っていく。

 彼らの周りでは、グルドの仲間であるタックスやガッド、それに他の仲間達も倒れ伏してしまっていた。


「そのメイが・・・まだ、戦ってるんだ!だったら俺だって・・・!」

「メイさんが傷ついていますか!?いないでしょう!?それは周りの皆さんが守っているからです!!だから安心して、ルイスさんはここで休んでいてください!!」


 レティシアの治療を受けているルイスは致命傷こそ負っていないものの、もはや戦える状態ではなかった。

 にも拘らず、彼はまだ戦うと言い張っている。

 それは彼の妹であるメイが、今だに戦い続けているからだった。


「それももう、皆やられちまったじゃねぇか!!だったら、俺がメイを守らねぇと・・・誰があいつを守ってやれるんだよ!!」


 ルイスよりもさらに幼く、更にヴァーデに有効な攻撃を与えられる可能性のあるメイは、周りから手厚く守られていた。

 そのため、今までは無傷でこの戦いをやり過ごすことが出来ていたが、これからもそれが続くとは限らない。

 戦いの中で倒れていく仲間達に、今や彼女を守るのはグルドとカレンの二人しかいない。

 それではメイが危険だと、ルイスは自らの身で彼女を守ると叫んでいる。


「私が守ります!!!」


 そんな彼に、レティシアは自らの胸を叩いて宣言していた。

 私が彼女を守ると。


「エステルさん、ピーターさん!!ここは任せます!私はメイさんを!!」

「えっ?ちょ、駄目ですってそれは!?ここでも危険なのに、前線に加わるなんて・・・本当に、駄目ですってぇぇぇ!!?」


 自らの胸を叩いて宣言したレティシアは、すぐに有言実行と動きだし、カレン達が戦う前線へと向かっていく。

 そのレティシアの言葉に青天の霹靂と顔を上げたのは、彼女と共に負傷者の手当てをしていたギルド職員のエステルであった。


「あああああぁぁぁ!!?どうすればいいの、これどうすればいいの!?ここで領主の娘を怪我させたり、最悪死なせでもしたらどんな事になるか・・・あわわわわ」


 エステルが止める間もなく飛び出していってしまったレティシアに、彼女は頭を抱えては慌てふためている。

 エステルは領主の命令でレティシアを連れ戻すためにこんな場所にまでやってきたのだ、それが彼女をみすみす前線へと行かせてしまい、挙句死なせでもすれば大変なことになってしまう。

 しかしだからといって、彼女を追って危険な場所には足を踏み入れたくないと、エステルはその場でうろうろと右往左往してしまっていた。


「先輩!ここは僕が見ておきますから、先輩はレティシア様を!!」

「ピ、ピーター君・・・で、でも」

「いいから、行って!!」

「う、うん!!」


 そんな彼女に、ピーターがここはいいからレティシアを追えと声を掛けてくる。

 その声に戸惑うエステルに、彼はさらに強く言い聞かせている。

 それに混乱したままその場をうろうろしていたエステルは押し切られ、訳も分からないままレティシアの後を追っていく。


「・・・お前、汚いな。そうやって、自分は安全な所で高みの見物かよ」

「僕はギルド職員だからね、こんな危険な仕事は業務外だよ。それに僕がこんな事に巻き込まれたのも先輩の所為だし・・・責任は取ってもらわないと」


 混乱したまま言い包められてしまったエステルはともかく、その場面をはたから見ていたルイスには、ピーターが彼女を生贄として危険な場所に差し出したのがはっきりと分かってしまう。

 それを指摘し、冷たい表情をピーターへと向けるルイスに、彼は俯いてはその眼鏡で自らの表情を覆い隠してしまっていた。


「へっ、認めるのかよ。そんなんだから―――」

「・・・きつく縛るよ」

「痛ててて!?・・・お前、長生きするよ」

「そうかな?そんな事はないと思うけど・・・あぁでも、君は長生き出来なさそうだね」


 ルイスの推測を認めるピーターの発言に、彼はさらにそれに噛みつこうと口を開いている。

 そんなルイスの口を、ピーターは彼の傷口に巻き付ける包帯をきつく縛る事で塞いでいた。

 そのピーターの如才のない動きにやられてしまったルイスは、痛む腕を抱えながら彼に対して皮肉を口にする。

 そんなルイスにピーターが呟いたのは、嘘偽りのない本音であった。


「戦い、どうなりますかね?」

「へっ、最後は全部師匠が何とかしてくれるさ!・・・だから、大丈夫さ。きっとな」


 ルイスの治療を一通り終えたピーターは、戦いへと目を向ける。

 彼が呟いた不安げな言葉に、ルイスは余裕だと答えていたが、その瞳は不安げであった。

 彼らが向ける視線の先では、戦いが佳境に入ろうとしていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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