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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
トージロー
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最悪の結末

「・・・ではそのように」


 暗がりに響いたその声に、驚いた鼠が慌ててその場を離れていく。

 その僅かな物音に顔を上げた人影は、それが鼠のものだと知ると再び目の前の人物へと顔を向けていた。


「待て、例のものは?」


 既に話は終わったとばかりにその場を立ち去ろうとしていた人影に、小柄な人影はそれを止めようと手を伸ばす。

 そうして彼は、その人物に手を伸ばすと何かを要求していた。


「・・・ここに」

「おぉ!これは上物だ」

「・・・素晴らしい」


 手を伸ばしてきた人影にその場に足を止めた人物は、小脇に抱えていた何かを彼に差し出すと、その中身を開いて見せている。

 それを覗き見た小柄な人影は歓声を上げ、その様子にさらに小柄な人影もそれを覗いては満足そうに呟いていた。


「ふふふ、お主も悪よのぉ」

「いえいえ、貴方がたには敵いませんわ」

「「はっはっはっは!」」


 差し出されたそれを受け取った小柄な人影は、それを満足そうに抱えるとニンマリと口元を歪めては目の前の人物へと語りかけている。

 それに応えるようにその人物も、口元に手を当てては小柄な人影の耳元で囁いていた。

 そうして彼らは、お互いに笑いあう。

 その笑い声に、その場に残っていた鼠達も慌てて逃げ出していた。




「どこにも事件の記事が載ってない・・・これは、どうなの?安心していいの?」


 最新の記事を求めていつもの掲示板の前へとやってきたカレンは、その新聞の隅々まで読み込んでもそこに事件の記事がないことを確認していた。

 カレンは昨日一日中トージローを監視しており、彼が事件を起こす余地などなかったことを知っている。

 そんな状況下において、昨日が平和な一日であったことを知らせる新聞の内容を目にして、カレンはそれを喜ぶべきなのか不安に思うべきなのか分からなくなっていた。


「うぅん、違う違う!トージローを監視している間に事件が起きなかったって事は、逆にトージローが犯人かもしれないって事だから!私がトージローを監視している間に、別の所で事件が起きれば安心なんだけど・・・何か嫌な感じだな、事件が起きる事を期待するなんて。はぁ、でも今はとにかく監視を続けないと」


 平和な一日が訪れたという事実に安堵しようとしていたカレンはしかし、やはりそれでは安心出来ないと思い直す。

 トージローを監視下に置いたことによって事件が収まったという事実は寧ろ、彼が犯人であるかもしれないという可能性を高めている。

 それを改めて実感したカレンは、今日も昨日と同じくトージローを一日中監視しておくことに決めていた。


「そうだ、トージローは宿に置いてきたんだった!だったら、早く帰らないと!今度からはトージローも連れきた方がいいのかな?それか、宿に張り出される一日遅れの新聞で満足するか・・・」


 引き続き監視することに決めたトージローの姿を探して目線を巡らすカレンは、そこにその姿がないことを確認すると、彼を宿に置いてきたことを思い出していた。


「うーん、どうしよっかなぁ?別に一日遅れでもいいんだけど・・・やっぱり最新の情報が気になっちゃうし・・・あれ、ルイスにメイじゃない。どうしたの、こんな所で?」


 宿に置いてきたトージローに、慌ててそこへと急ぐカレンは、明日以降どうやって最新の情報を手に入れようかと頭を悩ませている。

 そんなカレンの目の前に、ルイスとメイの二人が現れていた。


「ここは通さないぜ、カレン!!」

「・・・通さない」


 そして彼らは、その小さな身体を精一杯広げては彼女の前に立ち塞がっていた。


「はぁ?何言ってんのよあんた達?悪いけど、子供の遊びに付き合ってる暇はないの。退いてくれる?」


 そんな二人の突然の行動に、カレンは思わず呆れたような声を漏らしている。

 そして彼女は子供の遊びに付き合っている暇はないと彼らの間に強引に割って入ると、そのまま強行突破しようとしていた。


「だから通さないって言ってんだろ!!」

「・・・通行禁止」


 しかしそんなカレンの行動を、ルイス達は許しはしない。

 彼らは左右からカレンの身体にしがみつくと、そこを絶対通しはしない彼女に纏わりついていた。


「だからそんな場合じゃないって言ってんでしょ!?」


 自らの身体にぶら下がるようにして纏わりついてくる二人に、カレンはそれを振りほどこうと両手を暴れさせている。

 しかしそんな彼女の行動にも、彼らは決して離れようとはしなかった。


「ちょ、この・・・いい加減に・・・ん?あんた達、口元に何かついて・・・あー!!」


 子供だからと手加減していたカレンは、余りにもしつこい彼らに本気で手足を振り回そうと考え始めている。

 そうして改めて彼らへと目をやったカレンは、その口元に何やら白いものがへばりついているのを発見していた。


「あんた達、それケーキのクリームか何かでしょ!?さては、レティシアに頼まれたな!!ケーキで買収されたんでしょ!!」

「ち、ちげーし!!これは生クリームとかじゃねーし!!すげぇ甘くて美味かったとか、全然知らねぇから!!」

「・・・メイも、チーズの奴を食べたりしてない。全然足りないとか、終わったらもう一個もらえるとか、知らない」


 何かに気がついたカレンの大声に動揺したのか緩んだ拘束に、抜け出したカレンは彼らに指を突きつけてはその思惑について叫んでいる。

 そしてそれを指摘されたルイス達は、明らかに動揺した様子を見せ、彼女が聞いていないようなことまでべらべらと喋りだしていた。


「いや、完全に買収されてんじゃん!!てか、もう白状しちゃってんじゃん!!まさか、レティシアがここまでやるなんて・・・恋する乙女の行動力を甘く見てたな」


 もはや完全に白状してしまっている二人に、カレンはそれを指摘しては丁寧に指を指している。

 そしてレティシアがここまで直接的な手段を用いてくるとは考えていなかった彼女は、自らの見通しの甘さを嘆いては頭を抱えていた。


「とにかく、今はそれどころじゃないの!レティシアには私が後で謝ってあげるから、ここを通して・・・ちょっと待って。じゃあトージローは、今レティシアといるの?じゃあ、宿に戻っても意味は・・・あんた達、レティシアがどこにいるか教え―――」


 彼らの思惑を看破したカレンは、今はそれどころではないと主張してそこを押し通ろうとしている。

 そんなカレンをそれでも押し留めようとしたルイス達も、彼女がレティシアに話をつけてくれると口にすれば無理に粘る必要もなくなってしまう。

 そうして彼らの間をようやく通り抜けたカレンはしかし、今更宿に戻っても意味がないことに気がつくと、慌てて彼らの下へと舞い戻っていた。


「おい、広場の方で何かあったってよ!!」

「何でも、領主の娘が人質になってるとか・・・」

「マジかよ、大事じゃねぇか!?」


 そんなカレンの下に、何やら騒ぎの声が響いてくる。

 そしてその内容は、彼女にとって何やら聞き逃せないことを話してはいなかった。


「・・・え?領主の娘って、それレティシアことじゃ・・・」


 この街の領主の娘とは、つまりレティシアの事だ。

 そしてそのレティシアは今、トージローと一緒にいる筈であった。

 カレンが連続誘拐事件の犯人ではないかと疑っている、トージローと。


「ルイス!あんた、これ知ってたの!?トージローが、あいつが吸血鬼だって!!」

「はぁ、吸血鬼!?何言ってんだよ、お前!?俺はシア姉が、師匠と会いたいからって協力しただけで・・・」


 トージローがレティシアを攫い、それを人質に取っている。

 そんな最悪の事態を想像したカレンは、それを結果的に手助けした事になるルイスへと掴みかかると、それを責めるように激しく揺すっている。

 そんな彼女の言葉にもルイスは目を白黒とさせるばかりで、その態度から何も知らないとはっきり示していた


「何も知らないからって!あんたの所為でレティシアは危ない目に遭ってんのよ!?くっ、今はそれどころじゃ・・・行かないと」


 カレンの想像が正しいのならば、例え何も知らなかったとしてもルイス達がレティシアの誘拐に手を貸したのは間違いない。

 それを責めるカレンはしかし、今はそれどころではないとルイスの襟首を放すと、そのままレティシアが人質に取られているという広場へと向かっていく。


「何なんだよ、一体。シア姉が攫われたのは俺の所為とか・・・訳分かんねぇ」

「・・・ルイス兄、ルイス兄」

「何だよ、メイ」

「・・・師匠が吸血鬼って、本当?」


 カレンによって突き飛ばされるようにその場に放されたルイスは、締め付けられた首元を擦りながら彼女を去った方へと視線を向けている。

 そんなルイスの服の裾を引っ張っては、メイが純真な瞳で彼を見上げていた。


「・・・知るかよ。とにかく俺達も行くぞ!」

「・・・ん」


 メイが尋ねてきたことは、ルイスも先ほど初めて耳にした事だった。

 それを知らないと吐き捨てたルイスは、手を振ってはメイを促すとカレンの後を追って駆けていく。

 その彼の言葉に頷いたメイも、帽子が飛んで行ってしまわないように押さえると、その後追いかけて駆けだしていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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