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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
トージロー
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情報

「はぁ・・・トージローが犯人じゃないって分かって安心したのはいいけど、それで何か解決したって訳でもないからなぁ・・・」


 通りをとぼとぼと歩くカレンの口からは、重たい溜め息が漏れる。

 怪しい動きをしていたトージローが、レティシアと逢引きしていただけだったと知り、その疑いを晴らしたものの何も進展していない事態に、彼女の足取りは重い。


「あ、これ美味しいな。流石は貴族が用意した軽食・・・いや、レティシアがトージローのために用意したから美味しいのかな?うーん、そう思うとちょっと微妙な感じが・・・」


 カレンは通りを歩きながら、サンドイッチを摘まんでいる。

 それは、先日会ったレティシアから貰ったサンドイッチであった。

 その中身はチーズとハムだけというシンプルなものであったが、流石は貴族であるレティシアが用意したものであるためか、一つ一つの素材の質が良く、カレンも思わず感心してしまうほどの美味しさであった。


「うぅ、でも他に食べるものなんてないし・・・ごめんね、レティシア。トージローに食べてもらうために用意したものかもだけど、有難くいただかさせてもらいます」


 感心するほど美味しいサンドイッチも、それが自分以外の誰かのために用意されたものだと知っていれば微妙な心持にもなってしまう。

 しかし冒険者としてまともに働くことの出来ない、カレンの懐は寂しい。

 そんなカレンにそれを躊躇っている余裕などなく、目を瞑っては軽くレティシアに謝罪の言葉を告げた彼女は、手にしたサンドイッチに思いっきり齧りついていた。


「はぅ、やっぱり美味しい。あ、こっちは具が違うんだ。卵と、こっちは何だろう?何かの野菜・・・いや、イチゴだこれ!?うわっ、ありなのこの組み合わせって?うーん、でもレティシアのセンスなら間違いないのかなぁ・・・」


 躊躇いを振り切って齧りついたサンドイッチは、金欠で空腹なお腹に濃厚なカロリーという美食を届けてくる。

 それに舌鼓を打ったカレンは、小脇に抱えていたバスケットの中を覗いてはそこに残っていた変わり種のサンドイッチに驚いていた。

 その数種の果物とクリームが挟まれたサンドイッチは、貴族の間で最近流行している最新のものであったが、そんな貴族社会のトレンドなど知らないカレンからすればゲテモノにか見えない。

 しかしそんなゲテモノも、レティシアが選んだと考えれば美味しいのかもと考えることも出来る。

 カレンは呑み込んだ定番のサンドイッチに、次はそのゲテモノをと手を伸ばそうとしていた。


「やっぱり、こっちにしよっと。うん、これこれ!やっぱり定番よね!あ、見えてきた」


 しかしそれへと手が触れる瞬間にそれを横へとスライドさせたカレンは、定番の卵サンドを手に取っている。

 そしてその定番の味に頬を緩ませているカレンは、目的地の姿をその目に捕らえていた。


「宿に貼ってある新聞は一日前の奴なのよね。そういう倹約のお陰で、宿代が安く抑えられてるんだから文句も言えないけど・・・あそこにはあんまり行きたくないんだよなぁ」


 カレンが目指しているのは、彼女が先日壁新聞を剥がし取ったあの掲示板であった。

 新たな事件の情報を求める彼女にとって、最新の新聞は必要不可欠であった。

 しかし宿に張り出されているそれは、タルカが近くの酒場から譲ってもらっているものであり、それは一日前のものであった。

 そのため彼女は最新の情報を手に入れるためにそれが張り出されている場所に向かう必要があり、それが結局あの掲示板しかなかったのであった。


「ふぅ、落ち着け私。もう散々落ち込んだんだから、いまさら何が書いてあっても平気でしょ?・・・よし!」


 掲示板の前にまで辿り着いたカレンは、そこで目を閉じては深呼吸をしている。

 今日の新聞にも、先日と同じような自分の事を扱き下ろす記事が載っているかもしれない。

 そしてこの掲示板に張り出されたそれには、さらに自分を中傷するような落書きや言葉が書き込まれている可能性がある。

 それを警戒するカレンはしかし、もうそれには慣れたでしょうと自分に言い聞かせると、覚悟を決めてその目を開く。


「・・・何だ、私の記事なんてもうどこにもないや。ははっ、それはそれで何だかショックだな。もうどうでもいい存在って言われた感じで・・・」


 覚悟決めて開いた目で見たのは、自分とは全く関係のない見出しの記事であった。

 それどころか、どこを探してももはやカレンについて書かれている記事など見つけることが出来なかった。

 それに安堵したカレンはしかし、乾いた笑みを漏らしていた。

 その自分に関係のない記事ばかりが並んだ紙面はまるで、自分の事などもはや世間は何の関心もないのだと、カレンにはそう言われているように感じられた。


「うぅん、それより今は事件の記事を探さないと!どれどれ・・・うーん、大して進展ないなぁ。これじゃ手掛かりなんて―――」


 そんなショックを振り払うように首を振り軽く頬を叩いたカレンは、ここに来た目的を果たそうと事件の記事を探し始めている。

 しかしそこには先日と変わり映えのしない記事が載っているばかりで、手掛かりを失ったカレンは渋い表情で溜め息を漏らそうとしていた。


「あぁ?何だよ、カレンじゃねぇか。何やってんだ、こんな所で?」

「ひゃう!?わ、私はカレンなんて人じゃ、『この街に現れたニューヒロイン』とか『期待のホープ』とかじゃないですぅ!!人違いじゃないんですかぁ!?」


 そんなタイミングで掛けられた声に、カレンは背中を跳ねさせては素っ頓狂な声を上げている。

 そして彼女は小脇に抱えていたバスケットで顔を隠すと、自分はカレンなんて人ではないと苦しい言い逃れを試みていた。


「・・・って、何だグルドか。別にいいでしょ、何だって」


 またかつてのファンが絡んできたのかと怯える彼女は、その隠れたバスケットの向こう側に見慣れたごつい顔を目にすると、安堵したかのようにホッと一息ついていた。

 カレンに声を掛けてきたのは、かつて彼女とひと悶着あったあの先輩冒険者、グルド達であった。


「あん?何だはねぇだろ、何だは。こっちは親切で・・・ははぁん、そういう事か」

「な、何よ?気持ち悪いわね・・・」

「聞いたぜ、カレン。お前、領主と喧嘩して仕事を干されてるってな。そんで金に困って、求人でも探してんだろ?どうだ、図星だろ!だから言ってただろ?自分がやったなんて見栄張ってねぇで、さっさと全部あの爺さんのお陰ですって白状しちまえって!その忠告を無視した挙句がこのざまじゃ、世話ねぇな!!」


 声が掛けてきたのがグルド達だと知り、急なぞんざいな態度を見せるカレンに、グルドは鼻白んだ表情を見せている。

 しかし彼は何やら訳知り顔でニヤつくと、彼女の肩に手を掛けてきては勝手な憶測を語り始めていた。


「違うわよ!!そんなその日暮らしの仕事を求めて彷徨ってたんじゃないっての!!私は事件の手がかりを探してたんだから!!あの吸血鬼の事件の!知ってるでしょ、冒険者なら!特別依頼にもなったあの事件よ!!」


 そんな彼の手を振り払うとカレンは彼らに向き直り、そこまで落ちぶれてはいないと叫んでいた。

 そして彼女は掲示板に張り出された壁新聞を指差すと、そこに掲載されている事件を調べているのだと手の内を明かしてしまっていた。


「へぇ、あの事件をねぇ・・・実は俺らも調べてんだよ、あの事件」

「っ!?だったらどうぞ!そこに事件について書かれた記事が載ってるわよ!大した情報は乗ってないけどね!!」


 カレンに強引に振り払われた手を冷やすように振っているグルドは、彼女の言葉に感心したように声を漏らしている。

 そして自分達も今それを調べているのだと話す彼らに対し、だったらそこの新聞を読めばいいとカレンは捨て台詞を吐くと、そのままそこを立ち去ろうとしていた。


「おい待てよ!まだ話は終わっちゃ・・・」

「何よ!!もう用はないでしょ!?それともまだ馬鹿にし足りないってわけ!?」

「いや、そうじゃねぇけどよ・・・」

「だったら、引き留めないでくれる!?御存じでしょうけど、今私は名誉を挽回しようと必死なの!!用がないなら、邪魔しないでくれる!?」


 折角の名誉挽回のチャンスも、他の人間に手柄を攫われてしまっては何にもならない。

 明確なライバルの出現に焦るカレンは、敵意を剝き出しにしてはグルド達を寄せ付けない。

 そんなカレンにグルドは何とか食い下がろうとしていたが、カレンは彼に指を突き付けては邪魔をするな拒絶を告げるばかりであった。


「用がないなら、か・・・じゃあ、こいつならどうだ?」

「お、おいグルド!それは・・・」

「構やしないだろ?どうせこの件は俺達の手にゃ負えねぇ・・・あの爺さんでも何とか引き込まねぇ限りはな」


 用がないなら邪魔をするなと告げ、そのまま去っていこうとするカレンに、グルドは懐から何やら書類を取り出すと意味深な表情を浮かべている。

 そんなグルドの振る舞いを、彼の仲間であるタックスは慌てて止めていたが、彼は構やしないと肩を竦めるばかりであった。


「・・・何よそれ?もしどうでもいいものだったら、ただじゃ・・・」


 懐から取り出した書類をひらひらとはためかせているグルドに、カレンは足を止めると彼の下へと近づいていく。

 そして彼が差し出した書類を受け取ると、その中身へと目を落とそうとしていた。


「その事件の手がかりだ。例えばそうだな・・・次に犯人が現れそうな場所を特定するような、な」


 それよりも早く、グルドはそれが何であるかについて口にしている。

 カレンが追っている事件の手がかりだと。

 そしてその犯人が次に現れるような場所すらも、特定している情報なのだと。


「・・・は?」


 そんな驚きの事実に、カレンは固まり呆けたようにグルドの顔を見詰めている。

 そのカレンの表情にも、グルドは冗談だと明かすことはなかった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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