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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
トージロー
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予言

「っぷ!?わははははっ!!二階級降格だって!?そんなの、聞いた事ねー!!!」


 どこかで生演奏でもしているのか、しっとりとした音楽の流れてくる店内に、それをぶち壊しにするような無遠慮な笑い声が響いている。

 その笑い声の主、眼帯の男デリックは腹を抱えては笑い転げてしまっている。

 彼はそれが面白くて仕方がないのか、その両足もテーブルの下で暴れさせており、それがガンガンとテーブルを叩いてはその上に並んだ食器を打ち鳴らしてしまっていた。


「ちょ!?デリックさん、声が大きいですって!ここじゃ、それは・・・」


 大声を上げては笑い転げているデリックに、当然周りの目は集まってくる。

 そんな周りの目を気にしてか、デリックの対面の席に座っている金髪の少女カレンは、彼にもう少し声を控えるように語りかけていた。


「あぁ?別に構やしねぇだろ?何だよ、何かあったのか?」

「えっ!?いやその、それは・・・」


 そんなカレンの言葉に、体重をどっぷりと背もたれに預けては開き直ったデリックの態度は、流石は凄腕の冒険者といった所か。

 彼は逆に何でそんな事を気にするのかとカレンに尋ね、彼女はそれに背中を跳ねさせると、奇妙なほどに動揺してしまっていた。


「・・・お客様。本日は、お連れの方はいらっしゃられないのですか?」

「ひゃい!?えぇ、はい!今日はその、別行動と言うかなんというか・・・あははっ」


 そんな彼女の背後から、老執事風のボーイが声を掛けてくる。

 彼の声に再び背中を跳ねさせ、上ずった声を上げたカレンは、後頭部に手を回すと引き攣った笑みを浮かべている。

 彼女が目の前のボーイの視線から逃れるようにきょろきょろと動かしている瞳の先には、落ち着いた様子の豪華な店内の様子が映っている。

 そこはかつてカレンがトージローと訪れ、実質出禁となっていたあのレストランであった。


「ん、どうした?何かあんのか?」

「いえデリック様、何でもございません。本日もお越しいただき、誠にありがとうございます」

「おぅ、ならいいんだ!ま、こいつもここが気に入ったらしいんでな」


 カレンとボーイの間に奔った緊張感に、デリックは気がつくと不思議そうな表情で何かあったのかと尋ねていた。

 そんなデリックの疑問にカレンは一瞬焦った表情を見せていたが、流石のボーイもデリックという上客相手には強く出られないのか、軽く誤魔化すと丁寧にお辞儀をするばかりであった。


「それはそれは・・・結構な事でございます。それではお連れ様も、どうぞお楽しみくださいませ」

「うぅ・・・何だか、棘があるなぁ。まぁ、あれを考えれば当たり前なんだけど・・・やっぱり別のお店にしてもらった方がよかったのかなぁ。でもここのご飯、美味しんだよなぁ」


 デリックが今日、このレストランに足を運んだのはカレンがここを気に入ったからだと膝を叩いている。

 その言葉にボーイはニッコリと微笑むと、カレンに対しても丁寧にお辞儀をしていた。

 それは礼儀正しい仕草ではあったが、カレンには何か当てつけのように感じられていた。


「んでよ、話は戻るんだけどよ・・・あん?何を話してたんだっけ・・・?あぁ、そうだそうだ!!カレンがやらかして、二階級降格したっつう話だったな!!わははははっ!!」


 折り目正しい仕草で頭を上げ、そのまま立ち去っていくボーイを見送ったデリックは、テーブルに肘をついては話題を戻そうとしていた。

 しかし思いっきり逸れてしまった話題に、一瞬何の話をしていたのかと彼は首を捻る。

 そしてようやくそれを思い出した彼は、その笑いをもぶり返してしまったのか、またしても大声で笑いだしてしまっていた。


「そういやお前さぁ、つい最近二階級特進したばっかだったよなぁ?」

「えぇ、まぁ・・・」

「それが半月も経たずに、今度は二階級降格って・・・ひー!!面白れぇー!!」


 デリックがカレンに出会ったのは、彼女が二階級特進となる切欠となった依頼での事であった。

 それから半月も経たずに今度は二階級降格という、前代未聞の処分を受けているカレンに、デリックは再び腹を抱えては笑い転げてしまっていた。


「笑い事じゃないですよぉ!?私、本当に困ってるんですから・・・これからどうしたらいいか。それでデリックさんに相談に来たんですから!!もっと真剣に考えてください!」

「おぉ、悪い悪い・・・つい、面白くってな。しかし二階級特進ってだけでも珍しいのに、二階級降格とはな・・・カレン、お前ここで死んでも歴史に残っぞ」

「ふ、不吉なこと言わないでくださいよ!?」


 腹を抱えて笑い転げるデリックに、笑い事ではないとカレンはテーブルに腕を伸ばしては身を乗り出している。

 その行動が周りの目を集めてしまい、カレンはすごすごと元の席に戻っていたが、どうやらその言葉によってデリックも少しは彼女が真剣なのだと思い出すことが出来たようだった。


「でだ、これからどうするべきか・・・だったか?」

「は、はい!是非、デリックさんの意見を聞かせてください!」

「うーん、そうだなぁ・・・カレン、お前この街を出ろ」

「・・・は?」


 軽い冗談で場を解したデリックは姿勢を正すと、真剣な表情で腕を組んでいる。

 そんなデリックの姿にカレンは前のめりで意見を求めるが、彼が口にしたのは予想もしない言葉だった。


「えっ、街を出ろって・・・あはは!そんなぁ、冗談ですよねデリックさん?」

「ん?別に冗談で言ったつもりはねぇぞ。それより、丁度俺も依頼でこの街を少し離れるんだ。そのついででいいってんなら、近くの街まで連れってやるが・・・どうする?」


 確かに大変な状況だと相談にはやってきたが、街を出るなどと考えるほどには深刻な状況ではないと、カレンはデリックの提案を笑い飛ばしている。

 しかしそんなカレンの態度にもデリックは真剣な表情を崩さず、寧ろ仕事のついでに近くの街まで連れていってやるという具体的な提案までしてきていた。


「へ?嘘・・・もしかして、そんなにやばい状況なんですか、私?」


 そのデリックの態度を目にすれば、流石のカレンもそのへらへらとした笑みを引きつらせてしまっていた。


「・・・まぁ、な。カレンお前の処分、領主が介入してきたってのは本当か?」

「え?はい、本当ですよ。その手紙、私も見ましたから」

「そうか。その街の領主が冒険者の処分に口出し出来るって規約な、まぁ嘘ではねぇんだが・・・あれ、とっくに形骸化してんだよ。一応規約としては残ってるが・・・実際に行使されることはほとんどない。んでだ、それが行使されるって事はよっぽど・・・」

「よっぽど・・・?領主様の機嫌を損ねちゃった、とか?」

「そうだ。わざわざ形骸化した規約まで利用してくるって事は相当お冠だぞ、ここの領主」


 その顔に浮かべた笑みを引きつらせているカレンに、デリックは彼女の処分に領主が関わっているのかを尋ねている。

 それならば実際に書面で確認したと返すカレンに、デリックはさらに表情を渋くすると、かなり不味い事態になったと話していた


「えぇ、そんなぁ!?私、領主様とは直接会ってもいないんですよ!?それがどうして・・・」

「さぁ、お貴族様の考える事なんて俺らにゃ分かんねぇよ。とにかく、領主の権限ってのは絶大だ。しかしその権限はその領地に限った話でな・・・だったらそこから離れるのが得策ってもんだわな。幸い、冒険者の仕事ってのは場所を選ばねぇからな」


 デリックが語る深刻な状況に、カレンは心当たりがないと叫んでいる。

 確かにカレンは依頼でやらかし、領主の娘でレティシアを危険に晒してしまったが、結果的には彼女を無事守り通したのだ。

 それで二階級降格になるのは納得出来ても、そこまで嫌われる理由はないと彼女は考えていた。


「で、でも!それってデリックさんの想像ですよね?流石にそんな酷いことになるなんて、私にはちょっと想像出来ないっていうか・・・」

「そうか?間違いねぇと思うんだがな・・・そうだな、例えば今度ギルドに行ってみるといい。カレン、お前が入った途端張り出された依頼が片っ端から剥がされるとか・・・有り得なくもねぇんだぞ?」

「あはは、まさかー」


 デリックが語る不吉な未来に、カレンはやはりそんなのは有り得ないと笑い飛ばそうとしている。

 そんな彼女にデリックはやけに具体的な未来を語っては、そうなってしまうかもしれないとカレンに警告するが、彼女はそれをまともに取り合おうとはしない。


「他にはそうだな・・・領主の息のかかった店から、出禁にされたりな。あぁ、宿から追い出されるって事も考えられる。そうなったら、流石にどうしようもないだろ?」

「いやいや、そんなの有り得ないですって!えっ、冗談ですよね?」

「・・・やっぱり、一緒に来るか?」

「い、いえ!それはちょっと・・・まだ、いいかなーって」


 カレンが簡単に笑い飛ばしてしまった不吉な未来を、デリックは次々に予言していく。

 その笑いごとで済まない状況に、カレンは冗談だと笑い飛ばそうとしていたが、デリックはむっつりと腕を組んだまま。

 彼は真剣な表情でカレンに一緒に来るように再び誘っていたが、彼女はそれに言葉を濁してはやはり断ってしまっていた。


「・・・そうか。お前がそれでいいってんなら、無理強いはしねぇけどよ・・・あぁ、そうだ。何かデザートでも追加で注文するか?」

「えっと・・・いや、いいですはい。お腹一杯で、あはは・・・」


 カレンの返答に残念そうな表情を見せたデリックも、彼女に無理強いは出来ないと引き下がっている。

 そして彼はその暗い空気を変えようと、カレンにデザートの追加注文を促していたが、彼女はもはやそんな気分ではないとそれを断ってしまっていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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