表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
栄光時代
43/78

虚像の終わり

「グルゥ?」


 そしてそれは、オーガトロルの胸へとふらふらと飛んでいき、そこに着弾すると僅かな火傷の後だけを残して、弾けて消えてしまっていた。


「・・・え?そんな、嘘でしょ?」


 全身全霊の一撃が、大した傷も与えられずに終わってしまう。

 その絶望に、カレンは立ち尽くしていた。

 何より彼女を絶望させたのは、それがあのフォートレスオーガを一撃で屠り、あまつさえ城門に巨大な穴を開けた一撃であったからだ。


「あぁ、そっか・・・やっぱりあれも、私の力なんかじゃなかったんだ」


 しかしそれも、それらが全て自らの力でなかったとすれば簡単に納得出来る。

 何故ならそれらが起きた時にはすぐ傍に、あのトージローがいたのだ。

 彼ならば、そんな事も簡単に出来てしまうだろう。

 つまりはそういう事なのだと、カレンはようやく理解していた。


「はー・・・薄々、気づいてたんだけどなぁ。私には出来る訳ないって・・・何で信じちゃったんだろ。信じたかったのかな?そっか、信じたかったんだ・・・私にも出来るって」


 あんなとんでもない力が自分の中にあるなんて、カレン自身信じてはいなかった。

 それでも彼女は信じたかったのだ、自分が特別な人間なのだと。

 その結果がこれだと、カレンは自嘲の笑みを漏らす。


「ガアアァァァ!!!」


 そんなカレンの事などお構いなしに、オーガトロルは雄叫びを上げる。

 その振り上げたこぶしが狙っているのは、カレンではなくその目の前のレティシアであった。


「駄目・・・駄目だよ、そんなの。私でしょ!?私が悪いんだから、私を狙いなさい!!貴方を攻撃したのは私なんだから!!」


 レティシアを狙うオーガトロルの姿に、カレンはそれを否定するように首を横に振っている。

 そして彼女は、そこに割り込もうと駆け出していた。

 しかし消耗しきった彼女の足は遅く、とてもではないが間に合いはしない。


「お、お茶でもいかが?その・・・お茶菓子も用意してありますの」


 もはや為す術のない状況に、それでもレティシアは一縷の望みに賭けて、オーガトロルの気を逸らそうとしている。

 その手には、バスケットから零れた焼き菓子が握られていた。


「ガアアァァァ!!!」


 しかしそんなものでオーガトロルの手が止まる訳もなく、そのこぶしは振り下ろされてしまっていた。


「駄目ぇぇぇぇぇ!!?」


 カレンはそれを何とか止めようと、杖を振るう。

 しかしその先からは、指の先ほどの炎も飛び出てはこなかった。



「むぐむぐむぐ・・・おほっ、こりゃ美味いのぅ!」



「えっ?」


 自分では何も出来ない絶望に叫んだカレンが次に聞いたのは、レティシアの悲鳴やそれが潰される不快な音ではなく、どこか聞き覚えのある声であった。

 それに顔を上げたカレンが目にしたのは、レティシアの手から焼き菓子を奪いそれを頬張っているトージローの姿と、まるで彼がその中を通り抜けたかのように人型にくり抜かれたオーガトロルの姿であった。


「おぉ、そうじゃ!カレンファイヤー、じゃったかいのぅ?」


 そして焼き菓子を一通り楽しんだトージローは、腰に佩いていた剣を抜き放つと、それを背後へと振るう。

 そこからは周囲を真っ白に照らすような凄まじい炎を巻き上がり、再生しつつあったオーガトロルを灰一つ残らず燃やし尽くしてしまっていた。


「おほっ!魔法じゃ魔法じゃ!!格好ええのぅ・・・ところでお嬢さん、さっきのもう一つないかのぅ?」


 自分が放った魔法を、まるで人ごとのように驚いて見せるトージローは、レティシアに手を伸ばしては彼女を助け起こしている。

 そして指を咥えては、彼女に先ほど口にしたばかりの焼き菓子をおねだりしていた。


「・・・これだもんなぁ。敵わないよ、トージローには・・・はははっ」


 死を覚悟してすらいた絶体絶命のピンチも、トージローに掛かれば焼き菓子のついででしかない。

 その圧倒的な力に呆然としているカレンは、堪えきれずに笑いだすと目元を覆って空を仰いでいた。

 その端っこからは、一筋の雫が零れ落ちてゆく。


「あ、そうだった!レティシア、大丈夫?レティシア・・・?」


 自らの力なさを反省するよりも、今は心配しなければならないことがある。

 それを思い出したカレンは、レティシアに駆け寄ると声を掛ける。

 しかし彼女からは、一向に反応が返ってこなかった。


「トージロー様・・・」


 そのレティシアは、トージローの事を一身に見詰めながらぽつりと呟いている。

 その瞳は、先ほどまで彼女がカレンに向けたものよりもキラキラと輝き、うっとりとしていた。


「・・・えっ?」


 それはどう見ても、恋する乙女のそれであった。

 その事実が受け入れられずに、カレンは思わず彼女の表情を二度見してしまう。

 それでも、そのうっとりとした表情が変わる事はなかった。


「師匠ー、師匠ー!!どこ行っちゃったんですかー!!?もう、すぐに・・・げっ、カレン」

「・・・ど、どうしよう、ルイス兄?」


 トージローは焼き菓子を欲しがりレティシアを見詰め、そのレティシアは彼を一身に見詰めている。

 そんな二人に、カレンは事態が呑み込めずに固まってしまっていた。

 そんな三人の下に、騒がしい声が近づいてくる。

 彼らの周囲では、トージローが放った炎の残り火が、まだ僅かにくすぶり続けていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

 もしよろしければ評価やブックマークをして頂きますと、作者のモチベーション維持に繋がります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ