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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
栄光時代
40/78

迂闊な出発

「それでね!私がバーン!と魔法をぶちかますと、フォートレスオーガが消し飛んでたわけ!もー、大変だったんだから!!デリックさんも訓練だ何だっていって、ちっとも手を貸してくれないし・・・だから新聞にあったみたいな格好いい共闘とか、実際には全然なかったんだから!!スパルタよスパルタ!もう少しで死ぬところだったんだから!」


 身振り手振りを交えて、調子よく自らの武勇伝を語っているカレンの前には、レティシアが淹れたのであろう紅茶が湯気を立てている。

 そしてその湯気に霞むことのないほどに眩い瞳を輝かせているレティシアが、その向こうに佇んでいた。

 カレンが一つエピソードを話す度に嬉しそうに拍手をし、時には鼻息も荒く前のめりに聞き込んでくる彼女の姿に乗せられて、カレンは先ほどは誤魔化したエピソードまでも暴露してしまっていた。


「あ、不味・・・これは話しちゃ駄目だったんだ。えっとね、レティシア。これは違くて・・・」


 興奮の余り、デリックに無理やり戦わされていただけという真実を披露してしまったカレンは、それを話し切った後になってようやく、それが話してはならない事だと気づいて口を手で覆っていた。

 新聞の記事によってそれが師弟の美しい共闘劇だと信じ切っているレティシアには、その真実はショックだろう。

 カレンは慌ててそれを誤魔化す言葉を呟きながら、恐る恐る彼女の方へと視線を向けていた。


「まぁ!それほど厳しく指導なさるなんて・・・これが師弟愛というものなのですわね!!?あぁ、素晴らしいです!師匠から弟子に、そしてその弟子からさらに弟子へと綿々と受け継がれていく物語・・・あぁ、何と麗しいのでしょう」


 しかしカレンの心配をよそに、レティシアは明かされた真実にもなぜかうっとりと両手を重ね、陶然とした瞳をこちらへと向けていたのだった。


「・・・あれ?ちゃんと聞いてた、レティシア?私、デリックさんに無理やり戦わされて、もうちょっとで死ぬところだったんだよ?」

「はい、勿論ですわ!!そういう特訓だったのですわよね!?獅子は我が子を千尋の谷に落とすと聞き及びます。まさにそうした愛ゆえの厳しさ・・・あぁ、何と麗しい師弟愛!!私、感動いたしましたわ!!」


 レティシアの予想外の反応に、カレンはそれが自分に都合のいいものにも拘らず思わず突っ込みを入れてしまう。

 しかしそんなカレンの言葉にもレティシアはさらにキラキラとその瞳を輝かせ、荒い鼻息でこちらへと迫ってくるばかり。

 その迫力は、もはや何物にも止められそうはなかった。


「あー・・・うん。まぁ、レティシアがいいんならいいんだけど。絶対そういうんじゃないと思うんだよなぁ・・・何か楽しんでる感じだったし」


 こちらへと身を乗り出しているレティシアに、椅子の背もたれが許す限界まで背中を仰け反らざるを得なくなっているカレンは、彼女の迫力に諦めるように納得を呟いている。

 カレンはあの時のデリックの姿を思い出しては、絶対にレティシアの語るような意図はなかったと断言するが、その呟きは恐らく彼女の耳には届かないだろう。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・も、もう堪えきれませんわ!!カレン様、森へ参りましょう!!冒険に向かうのです!!」


 実際、カレンの呟きなど耳に入っていない様子で興奮しているレティシアは、肩で激しく息をすると急に顔を上げ、何かを決意した瞳をカレンへと向ける。

 そうして彼女は庭園の外に広がっている森を指差すと、冒険に向かおうと叫んでいた。


「えっ!?で、でもレティシア!依頼は冒険のお話をするだけって・・・」


 そんなレティシアの提案にカレンが難色を示したのは、それが依頼の内容と違うからだ。

 しかしそれ以上に、如何にも貴族らしい深窓のお嬢様といった見た目のレティシアを連れて森に冒険に向かうなど、カレンには危険すぎるように思えたからであった。


「あら?そうでしたわね・・・そうですわ!なら、こうしましょう!気分を出すために、森でお話をするのです!!それなら、何の問題もありませんわよね?」

「うっ!?そ、それは・・・」


 依頼の内容を理由に難色を示したカレンに、レティシアは唇に指を当てて一度考えると、今度は両手を合わせてはアイデアを閃いたと音を立てる。

 そしてそれをそのまま頬へと当てた彼女は、カレンが断るために持ち出した依頼の話を、森へと向かう理由にすり替えて提案していたのだった。


「アシュクロフト様、ご安心くださいませ」

「わっ!?セ、セバスさん!?一体、いつからそこに・・・」

「お嬢様が必要とされる時に現れる、それが執事の務めでございますので」

「は、はぁ?そ、そうなんですか?流石、貴族の執事・・・何か凄いな」


 レティシアからの提案にカレンが言葉に窮していると、その背後から突然声がしてくる。

 それに驚いたカレンが背中を跳ねさせては振り返ると、そこにはいつの間にか先ほど見かけた執事、セバスが現れていた。


「そんな事よりもカレン様、ご安心くださいませ。裏の森は、グリザリド家によって厳重に管理されている場所、危険な魔物など出る由もありません」

「そうなんですか?そ、それなら・・・大丈夫かな?」


 突然背後に現れた彼に驚くカレンに、セバスはそんな事は執事ならば当然だと、まともに取り合おうとしない。

 そんなセバスの言葉にカレンが思わず感心していると、彼はある提案を口にしていた。

 その内容は、裏の森ならば安全なのでレティシアを連れ出しても問題ないというものであった。


「はい。ですがそれではお嬢様が失望されてしまいますので・・・こちらで相応しい獲物を用意して参ります。それをアシュクロフト様に討伐していただきたいのですが・・・よろしいでしょうか?」

「はぁ・・・分かりました」


 その見事な白髪をオールバックに固めた老執事は、目をキラリと輝かせながらそれだけではないと囁いている。

 彼は主人の安全を守るだけではなく、その望みも満足して見せると言い、それにカレンも協力してくれるようにと頼みこんできていた。


「こういう時のために用意しておいた、あれを使う時ですね。久々のジビエ料理ですか・・・ふふふ、腕が鳴ります!」

「・・・あれ?この人も何だか、楽しんでない?」


 それにカレンが頷くと、老執事は早速準備に取り掛かるのだと、この場を後にしていく。

 その去り際に彼が呟いた言葉は、主人に忠誠を尽くす忠臣というよりも、取っておきの企みを披露する前の子供ような響きをしていた。


「カレン様ー!!何をしてらっしゃるんですかー?早く行きますわよー!!あら、そういえばお話を伺うんでしたわね。でしたらティーセットとお茶菓子も用意しませんと・・・」


 ウキウキといった様子でこの場を去っていく老執事に、カレンが何ともいえない視線を向けていると、待ちきれないといった様子のレティシアが急かすように声を掛けてくる。

 もはや一刻も早く森へと向かおうと手を振るレティシアは、そこに向かう体面上の目的がお話にあると思い出すと、慌ててティータイムの道具を揃え始めている。


「はぁ・・・まぁ、何とかなるよね?」


 その姿を目にしながら、軽く溜め息を漏らしたカレンは椅子を立ち上がると自らの得物を手にする。

 そして彼女は、慌ただしくティータイムの道具を揃えているレティシアの下へと近づいていった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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