モデル
「ふふーん、やっぱり装備を新調すると気分がいいわねー!」
新調した装備をさっそく身に着け、それをアピールするように手足を伸ばしているカレンは、上機嫌にそう口にしている。
トージローの面倒を弟子という名目でルイス達に押しつけてから、どれくらいの日にちが経っただろうか。
それからの日々は、カレンにとってとても充実したものであった。
それを表すように、通りを歩く彼女の表情は明るい。
そんな彼女の姿は、周りの目も自然と集めてしまうだろう。
「おい、あれ・・・」
「あぁ、もしかしてあのカレン・アシュクロフトじゃないか?」
ただでさえ目立つ長い金髪を棚引かせているカレンが、輝くような笑顔で通りを歩いている。
その姿に目を引かれた人々は、口々に彼女の存在を指し示しては噂し始めていた。
彼女こそ、あのカレン・アシュクロフトではないかと。
「おっと、いけないいけない・・・見つかっちゃった。いやー、人気者は辛いなー!」
そんな人々の声に慌てて顔を隠し、大通りから路地へと足を運ぶカレンは、そんな境遇の辛さを愚痴りながらも、どこか嬉しそうに顔を緩ませていた。
「自由に街も・・・ん、あれは・・・おーい、ルイス!メイちゃーん!」
人気のない路地を歩き、そこを少し進んだカレンは、寂れた公園へと差し掛かる。
そこに知り合いの姿を見つけた彼女は、手を振りながら小走りでそちらに駆け寄っていた。
「何だ、カレンか。今、修行中なんだから、邪魔しないでくれよな」
「何だって何よ、愛想悪いなもう・・・あれ、トージローは?一緒じゃないの?」
何やらその身体の至る所に重りのようなものをつけながら、蹴りつけた木から落ちる木の葉に向かって一心不乱に剣を振っていたルイスは、カレンの声に一旦それを止めている。
そんなルイスの奇妙な修行風景に一瞬戸惑ったカレンもいつもの事とそれを流すと、彼らの師匠であるトージローがこの場にいない事について尋ねていた。
「・・・師匠は、極秘任務中」
「そうだぞ、だから秘密だ!」
頭の上に水の入った容器を乗せ、それを零さないように気をつけながら片足を上げ、さらに両手に小枝を握っては何やら唸っていたメイが、カレンの質問にぼそりと答えている。
その言葉に同意するように、ルイスもまたその辺の木の棒を削って作ったのであろう木刀を掲げていた。
「えー、何よそれー?お姉さんにも教えてよー?」
「だ、駄目だ!師匠との約束なんだ!絶対に教えないぞ!!」
そんな二人の頑なな態度に、カレンはニンマリと唇を歪ませると、ルイスの肩をなぞるように指を這わせては、私にも教えてと甘えている。
しかしルイスは彼女の手をすぐに振り払うと距離を取り、警戒するように木刀を構えて見せていた。
「ふーん、ならいいや。ちゃんと日が暮れる前には帰ってくるのよー」
唸り声を上げてはこちらを警戒するルイスの姿に、カレンはあっさりと聞き出すのを諦めると、門限は破らないようにと告げて去っていく。
ボケた老人がその面倒を見ている二人から離れて行動している、その事実だけ見れば大事のように思えたが、どうせいつもの遊びだと考えカレンはそれを真剣には捉えてはいなかった。
彼らにトージローの面倒を任せて数日、このような事は何度かあったのだ。
そしてその時は、何事もなく彼は帰ってきた。
どうやらトージローも、孫のような二人は可愛いらしく、その言う事は良く聞くらしい。
そのためカレンは、どうせ今日もそんな事だろうと考え、その場をそのまま後にする。
「・・・カレン・アシュクロフトさんですよね?」
「ん?そうだけど・・・あー、バレちゃったかぁ!仕方ないなぁ、もぅ!だってオーラの隠し方とか知らないしなー!はー、有名人は辛いなー!!」
公園を後にし、別の場所へと向かおうとしていたカレンに、男が声を掛けてくる。
「それで、私に何の用?サインなら―――」
「いえ、私こういうものでして・・・」
また見つかってしまったと、残念がりながらも嬉しそうなカレンに、男は名刺を取り出しそれを差し出している。
「グリザリド市民新聞?」
「はい、そこの記者をしております、タケナカと申します。実は次の壁新聞の一面で貴方の記事を扱う事になりまして、つきましてそこに貴方の絵を掲載したいと思いまして・・・・その許可と、出来ればモデルをお願い出来ないかと」
タケナカと名乗ったその男は、あのカレンの記事が載っていた新聞の記者であるようだった。
彼はカレンの記事が再びその新聞の一面を飾ると話し、さらには彼女にそこに乗せる絵のモデルになって欲しいと頼んでいた。
「えーーー!?私にモデルー!?」
「えぇ、是非!!噂のニューヒロインの姿を皆、一目見たいと願っているのです!」
タケナカの言葉に、カレンは目を丸くしては驚いている。
そんな彼女に、タケナカはそれを皆が待ち望んでいるのだと猛プッシュしていた。
「えー?でもなー、モデルなんて初めてだしー?流石に恥ずかしいかなー?」
「そこを何とか!皆が期待しているんです!!それが乗れば、うちの売り上げも確実に伸びるんです!どうかお願いします」
記事が載るのは嬉しいが、流石にモデルをするのは恥ずかしいとカレンは難色を示している。
そんな彼女に、タケナカは頭を下げては必死にお願いしていた。
「うーん、そこまでして頼むんなら・・・ちょっとだけですよ?」
「おぉ、ありがとうございます!!さぁ、こちらへ!!絵描きも待機しておりますので!!」
タケナカの必死なお願いに、カレンは渋々といった様子でそれを了承する。
タケナカはその声に顔を上げると、すぐに彼女の手を掴みそのままどこかへと連れていこうとしていた。
「えっ!?それって、今すぐなの!?ちょ、心の準備が・・・待って、ちょっと待ってぇぇぇ!!?」
モデルを了承したとはいえ、まさか今すぐにそれをやるとは思っていなかった。
突然の事態に心の準備が整わないカレンは、驚き戸惑っている。
しかしそんなカレンなどお構いなしと、タケナカは彼女を引っ張っていく。
そんな彼に為す術なく引っ張られていく、カレンの悲鳴だけが空しく響き渡っていた。
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