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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
栄光時代
30/78

デリックの特訓 2

「ほら!そうじゃない、もっとこう・・・腰を使え、腰を!!」


 カレンの背後からは、興奮した様子のデリックのアドバイスが飛んでくる。

 それは身振り手振りも交えた、大変に熱の籠ったアドバイスではあったが、酷く感覚的なものであり、今のカレンには何の参考にもなりそうもないものであった。


「ガアアアァァ!!!」

「ひぃぃぃぃ!!?」


 そしてそんなアドバイスに耳を傾ける暇もなく、カレンはただ必死に自らの命を守るために戦っていた。

 雄叫びを上げて殴り掛かってくる、フォートレスオーガの迫力は凄まじい。

 それに悲鳴を上げながらもカレンが何とか対応出来ているのは、フォートレスオーガがその得物を失い素手で殴りかかってきているからだろう。

 デリックに城門へと叩きつけられた際に、その手に持った丸太を粉々に破壊されたフォートレスオーガは、代替の武器を見つけられないままカレンとの戦いに挑んでいる。

 そんな有利な状況を作ってくれたデリックに、カレンは感謝する気などない。

 何故ならばそれによって、この地獄のような均衡状態が形作られてしまったのだから。


「だーかーらー!!そうじゃねぇって言ってんだろ!?もっと腰を使ってぶん殴るんだよ!!そうすりゃ、そんな奴なんて一発だろ!!」

「無理ですぅぅぅ!!そんなの私には出来ませぇぇぇん!!?」


 必死にフォートレスオーガの攻撃を凌いでいるカレンの姿に、デリックは不満げに声を荒げるともっと出来るだろうとこぶしを振り上げている。

 そのアドバイスは彼の圧倒的な身体能力を基準にしたものであり、カレンにはとてもではないが不可能なものだ。


「お願いですから、もっとちゃんとしたアドバイスを・・・ひぃ!?」


 それを叫んだカレンはしかし、今の状況を打破するには彼のアドバイスに頼るしかなく、さらに声を荒げては有用な言葉を引き出そうとしていた。

 しかしその甘えが、今度は隙にもなる。

 カレンがデリックの方へと顔を向け、前方から注意を逸らした隙に、フォートレスオーガは思いっきり腕を振り上げると、それを振り抜いていた。


「うおおぉぉぉ!!?」


 その隙を狙った全力の一撃は、確実にカレンの息の根を止める威力を持っている。

 明確な死の予感に息を呑んだカレンは、一瞬の思考停止に声を張り上げると、今までしたことのなかったほどに身体を仰け反らせていた。


「おぉ!?それだよ、それぇ!!いいぞ、カレン!!それを続けるんだ!!!」


 その鼻先を、死の一撃が通り過ぎてゆく。

 そんなカレンの見事な動きに、デリックは歓声を上げるとそれでいいんだと手を叩いていた。


「・・・そんなの、出来るわきゃないでしょぉぉぉぉ!!!」


 無理な動きに背骨が軋み、何かがブチブチと千切れていく音が耳に響く。

 そして何よりも大きな何かが、カレンの頭の中で切れてしまう音がした。


「グアアアァァァ!!?」


 一撃で仕留めようとする全力の攻撃を空振ってしまえば、当然そこには隙が生まれてくるというもの。

 そこにブチ切れた叫び声と共に跳ね起きたカレンが飛び込めば、彼女はフォートレスオーガの胸元にまで入り込めるだろう。

 彼女はそこで、怒りと共に自らの中の魔力をも解き放つ。

 彼女の手の先から立ち上った炎が、フォートレスオーガの全身を包んでいた。


「おぉ、そんなことも出来たのか!悪くはねぇが・・・それ、原始魔法だろ?何でそんなもん使ってんだ?」


 炎に包まれたフォートレスオーガは、悲鳴を上げながら城門の方へと向かっている。

 その姿にふらふらと倒れ込むような動きで後ろに下がってきていたカレンを、デリックが受け止める。

 彼はカレンが見せた魔法に感心した声を上げていたが、それ以上にどこな腑に落ちていない様子だった。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・げ、原始魔法?何ですか、それ?」

「あん?そんな事も知らないのか?あのおっさん、何も教えてねぇのかよ・・・」


 絶体絶命のピンチを乗り越えた余韻に激しく呼吸を乱しているカレンは、デリックの言葉に初めて聞いたと首を捻っている。

 そんな彼女の様子にデリックは呆れたように首を振ると、軽く頭を抱えてしまっていた。


「あのなぁ、カレン。さっきお前が使った魔法は、原始魔法つって魔力をそのまま放つやり方でな、効率がそりゃあもう悪いのよ」

「えっ、そうなんですか!?でも、私・・・これ以外のやり方なんて、知らなくて」


 カレンが先ほどやった魔法の使い方は、とても効率の悪いやり方なのだとデリックは語る。

 しかしそんな事を言われても、カレンはこのやり方しか知らないのだ。

 それをはっきりと口にするカレンに、デリックは何かを考えるように口に手を当てていた。


「まぁ、魔法の使い方ってのは色々あるらしいんだが・・・冒険者がよく使うのは、即席魔法っつうやり方だな。これは、そうだな・・・それこそ呪文を唱えて、魔法を放つってやり方だな。ほら、聞いたことないか?」

「あ、お話かなんかで見たかもしれません!えっ!?あんな感じで、私も魔法が使えるんですか!?」


 元々、身体を張って戦うタイプの冒険者であるデリックは、それほど魔法の知識に精通している訳ではない。

 そんな彼が何とか乏しい知識を引っ張り出して語るそれは、かなり曖昧なものだ。

 それでもその内容はカレンの興味を刺激するには十分な代物であったらしく、彼女はキラキラと輝く瞳をデリックへと向けていた。


「んー・・・即席魔法を使いこなすには、相当な訓練が必要らしいんだが・・・」

「私、頑張ります!!」

「うん?そうか、じゃあ仕方ねぇな・・・」


 期待に輝く瞳を向けてくるカレンに、デリックはすぐに身に着けられる訳ではないと難色を示している。

 しかしやる気に満ちた様子で両手を胸の前に掲げているカレンの姿に、デリックは押し切られるとその使い方を明かそうとしていた。


「イメージだ」

「・・・へ?イ、イメージですか?」

「おぅ!イメージするんだ!こう例えば炎の球がバーッと飛んで、敵にぶつかってバーン!みたいな・・・そんな感じのを!分かるか、こうバーッとだな・・・」


 何か技術的な解説が聞けると瞳を輝かせていたカレンに待っていたのは、身振り手振りを交えたデリックの感覚的な説明であった。

 もはや気合で何とかしろと言っているレベルのデリックの言葉にカレンが聞き返しても、彼の身振り手振りが激しくなるばかり。

 それ以上、有用な情報が出てくるとは思えなかった。


「ガアアアァァァ!!!」


 そしてそんな彼女の戸惑いを、敵は待ってはくれない。

 身体にまとわりつく炎を城門に叩きつける事によって何とか消火したフォートレスオーガは、復活の雄叫びを上げては再びこちらへと向かって来ていた。


「おっ、奴さんもまだまだやる気のようだな。そんじゃ、即席魔法習得チャレンジってとこだな。頑張れよ、カレン」

「え、あの・・・もっとこう、何か・・・きゃあ!?」


 もっと明確な指導をと求めるカレンの背中を、デリックは軽い手つきで押し出している。

 そして適当な手つきで手を振っている彼に、もはや何かを教える気はないのは明白であった。


「えっ・・・?それだけの情報で、その即席魔法って奴を?う、嘘でしょ・・・?」


 祖父の形見である霊杖を抱えながら、カレンは途方に暮れたように立ち尽くす。

 その正面には、猛烈な勢いで怒り狂ったフォートレスオーガが突っ込んできていた。


「っ!?や、やるしか・・・やるしかない!!」


 助けを求め、デリックの方へと視線を向けてもひらひらと気軽な様子で手を振るばかり。

 頼りのトージローも、そんな彼の横でボーっと立ち尽くしていた。

 そんな彼らの様子に、もはや自分でどうにかするしかないとカレンは覚悟を決めて得物を握り締める。


「イメージするんだ!!イメージしろ、イメージ・・・最強の自分、最強の攻撃・・・あの時の、トージローの力を・・・」


 フォートレスオーガを倒すには、即席魔法を使うしかない。

 そしてその手掛かりは、デリックのいい加減なアドバイスしかなかった。

 藁にも縋る思いでそれに頼るカレンは、目を閉じイメージする。

 魔法を、目の前の魔物を一撃で葬り去るほどの強力な一撃を。

 彼女が知るそのイメージは、一つしかなかった。


「おぉ、魔法か!ええのぅ、ええのぅ!」

「あん?だから危ねぇから下がってろっていってんだろ、爺さん。ん?ちっ・・・もう一匹いやがったか・・・ありゃ、こいつらにはちと手が余るか。しゃあねぇ、一仕事と行きますか!おい、そこのあんた!爺さんを頼んだぞ」


 そんなカレンの姿を眺めていたトージローが、何やらぶつぶつと呟きながらそちらへと近づいていく。

 デリックはそんなトージローを押し留めようとしていたが、どうやらそれどころではなくなってしまったらしい。

 彼が視線を向ける先には、カレンの目の前にいるのと同じ魔物の姿が。

 すでにゴブリンの相手で手一杯な兵士達の姿に、それを相手するにはデリック自身が出るしかなくなっていた。


「えっ!?その爺さんの面倒って、あぁいっちゃった・・・俺だって戦いたいのに」


 魔物の下へと駆けていったデリックに、トージローの面倒を任された若い兵士は、不満そうに唇を尖らせている。


「・・・大丈夫だよな?爺さん、そこでじっとしてるんだぞ!いいな!」


 若さ故か戦いに逸る彼は、戦場とトージローを見比べると何かを決意し頷いている。

 そして彼はトージローに一声かけると、自らも戦場へと足を踏み入れていた。


「イメージしろ、イメージするんだ・・・あいつを一撃で倒す、魔法を」


 薄く目を開いたカレンは、トリップしたかのようなぼんやりとした表情でぶつぶつと呟いている。

 彼女が握りしめる杖の先端には、燃え盛る炎の塊が生まれつつあった。


「こうすれば、ええんかいのぉ?」


 そして彼女の背後で、それを見よう見まねで真似るトージローの剣の先には、もっと巨大な炎の塊が。


「ガアアアァァァ!!!」

「っ!?これで、倒れろぉぉぉ!!!」


 雄叫びを上げる、フォートレスオーガの声は近い。

 それに目をカッと見開いたカレンは、炎の塊を宿した杖を振りかぶると、それを投げつけるように振り下ろしていた。


「グルゥ?・・・ガア―――」


 カレンの杖の先端から放たれた炎の塊は、フォートレスオーガの身体に間違いなく命中する。

 しかしそれは、その身体に焦げ跡一つ残さずに消え去ってしまっていた。

 その拍子抜けする威力に、それを一瞬警戒していたフォートレスオーガは再び雄叫びを上げようとする。

 しかしそれは、一瞬で途切れ、再び響くことはなかった。


「・・・ど、どうなったの?」


 全力で振り下ろした杖の勢いに、そのまま一回転してしまったカレンは、どうにか身体を起こす

と顔を上げる。

 そこには、フォートレスオーガの足が見えていた。


「あぁ、そんな・・・やっぱりこんなの、私には無理だったんだ」


 その姿に、カレンは自らの失敗とその最後を悟って絶望してしまう。

 顔を上げようとしていた彼女は、再び俯きその先の景色へと目を閉ざす。


「お、おぉ・・・やった、やったぞ!!」

「凄ぇ・・・何者なんだよ、あの子は!?」


 しかしカレンの絶望とは裏腹に、周りからは何故が歓声が上がり始めていた。

 それは明らかに、自らの成果に驚き、讃える声だ。

 カレンはそれに戸惑い、再び顔を上げる。


「えっ、嘘・・・」


 そこには足だけとなったフォートレスオーガの死体と、円状にぶち抜かれた城門の姿があった。


「ま、及第点ってとこだな」


 その光景を呆然と見上げているカレンの背後に、デリックが現れる。

 彼は皮肉げに唇を釣り上げながら。よくやったとカレンの肩を軽く叩いていた。


「デリックさん・・・私、私やりました・・・やりましたよ、デリックさん!!私にも出来たんです!!やった、やったーーー!!!」

「おっと、汚れちまうぞ?ま、そりゃ後でもいいか・・・しかし、これどうしたもんかね?」


 デリックのその言葉にようやく自分がやったことを理解したカレンは、ぽろぽろと涙を零しながら彼へと飛びつき、抱き着いていく。

 それを軽く受け止めたデリックは、後頭部を掻くと綺麗に丸くくり抜かれた城門を見上げていた。


「おほー、魔法じゃ魔法じゃ!」


 その背後では、何やら嬉しそうにはしゃいでいるトージローと、切り札を失い引き揚げていくゴブリン達の姿があった。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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