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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
栄光時代
29/78

デリックの特訓 1

「ぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!?死んじゃう、死んじゃうぅぅぅ!!?」


 高所からの落下による浮遊感は、想像の中の死の感覚に似ている。

 それは覚悟する暇もなくそれを味わわされたカレンに、混乱させるには十分な恐怖であった。

 手足をジタバタと暴れさせてはそれから逃れようとしている彼女は、既にその感覚が終わっている事にも気づいていない。


「それ、もう終わったぞ」

「ぐぇ!?・・・生きてる?生きてるの私?うぅ、良かったよぅ・・・」


 そんな彼女の事を、デリックはぞんざいな手つきでそこらに放り出している。

 そのぞんざいな扱いにお腹を強かに打ち付けたカレンはしかし、その痛み生の喜びを味わっては涙ぐんでしまっていた。


「グルゥ?ガアアアァァァ!!!」

「おっ、こっちに気づいたか。話が早くて助かるねぇ!そうだ、お前の敵はこっちにいるぞ!!」


 城門を打ち壊そうと、そこに先端を尖らせた巨大な丸太を打ちつけていたフォートレスオーガは、壁の上から降ってきた存在に気がつくと雄叫びを上げ、そちらへと向かっていく。

 それはその存在こそが、ここにいるどんな存在よりも圧倒的な脅威だと認めたからだろう。


「ガウッ!!ガアアアァァァ!!・・・グルゥ?」


 そしてそのフォートレスオーガは突撃の勢いのまま抱えた丸太を突き出すと、勝利を確信したかのように声を上げる。

 しかしその手応えに違和感があったのか、それとももっと生物的な直観に従ったのか、彼はその先の様子を覗くように首を伸ばしていた。


「・・・ま、こんなもんだよな。亜種とは言っても、所詮はオーガ。あのオーガトロルとは比べ物にはならねぇなっと!」


 フォートレスオーガが繰り出した巨大な城門をも破壊する攻撃を、デリックはその構えた大剣の腹で軽々と受け止めていた。

 彼はその一撃で、そこを一歩たりとも動いてすらいない。

 そして軽くそれを払って見せた彼の動きに、フォートレスオーガは大きく弾かれてしまっていた。


「そんじゃ、軽く仕事でもこなしますかね」


 その得物すら弾かれてしまったフォートレスオーガが、その場から動かなかったのは恐怖のためか、それとも強者故の矜持の為か。

 しかしそんなものなど嘲笑うように、デリックは軽い調子で大剣を振るう。

 その彼の調子とは裏腹なほどにその太刀筋は鋭く、間違いなくフォートレスオーガを一撃の下に葬り去ってしまうだろう。


「おっと、そうだった」


 しかしデリックはその切っ先がフォートレスオーガに辿り着く寸前に何かに気がつくと、大剣を手の中で回転させ、その腹でフォートレスオーガを弾き飛ばしていた。

 弾き飛ばされたフォートレスオーガは、彼が破壊しようとした城門に叩きつけられる。

 その衝撃は彼が丸太を叩きつけた時とは比べ物にならないほどに激しく、危うくそれが破られてしまいそうなほどに城門を揺り動かしていた。


「お、おぉ・・・デリックだ、あのデリック・キングスガーターが助けに来てくれたぞ!!!」


 その凄まじい衝撃は、挨拶代わりの一撃としては十分過ぎるものだろう。

 城門から響いた轟音にそちらへと視線を移した兵士達は、そこに叩きつけられたフォートレスオーガと、その前に佇むデリックの姿を目にしていた。

 その圧倒的な存在感に、彼らはこぶしを握り雄叫びを上げる。

 心強い味方の登場に湧き上がった歓声は、割れんばかりに響き渡っていた。


「さぁ、これで安心だ!強敵はデリックさんに任せて、俺らはゴブリン共を―――」

「そうだ、丁度いい。カレン、こいつはお前が相手しろ」


 デリックの登場にもはや勝利は間違いないと安堵する兵士達は、それでも自らの務めを果たそうとゴブリンの討伐に向かっていく。

 そんな彼らの背後で、デリックは有り得ない言葉を放っていた。


「「・・・えっ?」」


 呆気に取られ、あんぐりと口を開けたのは何も兵士達だけではない。

 それをデリックから告げられたカレンもまた、彼らと同じように大口を開け、呆気に取られて表情を浮かべている。

 そんな彼らが口にした言葉は、奇しくも同じものだった。




「何を驚いてるんだ?オーガトロルを倒したお前なら、これぐらい余裕だろ?」

「っ!?そ、そうだった・・・あははははっ!!そうですよねー!あれー、おかしいなー?私ったらー!」


 呆気に取られた様子のカレンにデリックは肩を竦めると、目の前のフォートレスオーガよりももっと強力なオーガトロルを倒したのなら余裕だと口にしている。

 先ほど彼の前で軽々しくそれを口にしてしまったカレンには、今更それを否定することは出来ない。

 そのため彼女は誤魔化すように笑い声を上げながら、デリックの言葉を肯定してしまっていた。


「で、でも!ここはデリックさんの雄姿が見たいなー?何て・・・ほら、実際に戦う姿を見れば、色々と参考になると言いますか!!」

「ん?だから俺がここからアドバイスしてやるんだろ?」

「あっ、そんな感じですか。そうですかそうですか・・・」


 自らがついた嘘が崩壊しないようにしながら、何とかこの窮地から抜け出す方法を探すカレンは、デリックの戦う姿が見てみたいと必死にアピールしている。

 しかし彼女の言い分は、デリックの言葉によって完全に封殺されてしまっていた。

 戦う姿を見て参考にしたいと口にした彼女の言葉は、アドバイスをしてやると話すデリックにもはや言い訳にもならなくなる。


「おっと、奴さんもやる気になったようだぞ?ほら、しゃんとしろ!」


 何かに気づいたかのように声を上げたデリックは、カレンの事を前へと押し出している。

 それに為す術なく、カレンは杖を抱えたまま運ばれてしまっていた。


「ガアアアアァァァ!!!」

「ひっ!?」


 デリックが気づいたのは、城門に張り付いていたフォートレスオーガがそこから降り立ち、こちらに向かって敵意を向け始めた姿であった。

 雄叫びを上げ敵意を剝き出しにするフォートレスオーガは、大きい。

 その迫力に、カレンは下腹部が湿り気を帯びるのを感じていた。


「おぉ?何じゃ何じゃ、この騒ぎは?お祭りかのぅ?」


 そこにどこからか、ふらふらと歩いてくる人影があった。

 それはカレンとフォートレスオーガの間ちょうど中間にまで進むと、そこにぼんやりと立ち尽くしている。


「トージロー!!!」


 その人影、トージローの姿にカレンは歓喜の声を上げる。

 その姿は彼女にとってまさに救世主、勇者の姿に見えていた。


「私を助けに―――」

「爺さん、どっから現れたんだ?全く・・・危ねぇから下がってな」


 歓喜の涙すら浮かべ、トージローへと飛び掛かろうとしていたカレンの手は、虚空を抱きしめるだけ。

 突然現れた老人の姿に、デリックは至って常識的な振る舞いとして彼を素早く保護し、安全な場所へと運んでいた。


「あ、あぁ・・・そんな、そんなぁ」


 ようやく現れた救世主があっさりと退場し、カレンはその絶望に膝を折る。


「ガアアアアァァァ!!!」

「何してる、カレン!早く立て!!」


 しかしそんな彼女を、周りは待ってはくれなかった。


「ひぃぃぃぃ!!?」


 背後から迫るフォートレスオーガの迫力に、カレンは必死に手にした杖を振るう。

 その杖は確かにデリックの言う通りただの杖ではなく、フォートレスオーガの一撃に耐えて見せていた。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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