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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
冒険の始まり
15/78

意外な実力

「嘘でしょ!?こいつら、何でこんなに・・・強いのよ!?」


 楽勝だと高をくくって始めた戦いは、何度矛を交えても決着がつかない一進一退の攻防となっていた。

 いや一進一退と表現したのは、カレンがそう考えていたいからのものでしかない。

 実際は目の前のグルドの仲間の冒険者達は明らかに手加減しており、カレンに大怪我をさせないように戦っているからその状態を維持されているに過ぎない。

 彼らが本気でカレンを殺そうとしていたならば、彼女などとっくにこの世にいないだろう。

 つまりこの戦いなどは、戦いと呼べるようなものではなかったのである。


「何でこんなに一方的に・・・実力なら、私の方が上の筈なのに!?」


 今も必死に身体へと迫っていた刃を打ち払ったカレンは、理解出来ないと叫び声を上げている。

 それは実力ならば自分の方が上なのにという、今の状況からは信じられない訴えであった。


「いや、実際実力なら嬢ちゃんの方が上だろうよ・・・驚いたことにな」

「はぁ?だったら何でこんな事になってんのよ!?」


 しかしそんなカレンの負け惜しみともいえる発言を、まさに彼女を圧倒している相手側が肯定していた。

 少しばかり戦いの手を緩めたグルドの仲間の茶髪の冒険者は、皮肉げに唇を吊り上がらせるとカレンの実力に驚いたと口にしている。

 そんな彼の言葉に、カレンはそれならば余計に今の状況が理解出来ないと叫んでいた。


「いや、そんなのチームワークに決まってんだろ?別に俺達ゃ一人で戦ってるんじゃないんだ、一人で嬢ちゃんに勝てなくても二人で勝ちゃあいい。そんで今はこの人数で掛かってる訳だ・・・そりゃこうなるわな」


 カレンの疑問に小首を傾げた茶髪の男は、そんなの当たり前だといわんばかり肩を竦めて見せている。

 彼は周りの仲間達へと視線を向けると、自分達は協力して戦っているのだと示していた。


「チームワーク・・・それがパーティの力」


 チームワークだと、圧倒の理由を口にする茶髪の男に、カレンはその言葉を噛みしめるように繰り返す。

 その言葉は、個々で勝手に戦っているだけのカレン達には決して存在しなかった言葉であった。


「ま、そういうこった。そんじゃ新人冒険者への授業はこんぐらいにして・・・ガッド!!」

「あいよ!タックス、さっさと決めちまおうぜ!」

「そうだな!あんま時間かけてっと、あのやべぇのが・・・っと!」


 カレンが示した理解の仕草に満足したのか、タックスと呼ばれた茶髪の冒険者は満足げに頷くと、仲間の冒険者へと声を掛ける。

 その声に応えた小柄で筋肉質なガッドと呼ばれた冒険者は、カレンの後ろの回り込むように動いている。

 そして正面からは、タックスがカレンの下へと飛び込んできていた。


「えっ!?ちょ、えっ!?こんなのどうすれば・・・きゃあ!!?」


 死角に回り込んできた敵と、正面から突っ込んでる敵の同時攻撃に、カレンはどちらに対応すればいいのかと混乱してしまっている。

 そしてカレンが背後から迫る敵の恐怖に負け、そちらへと注意を向けた瞬間にタックスが正面から彼女へと圧し掛かり、その身体を組み敷いてしまっていた。


「ま、俺達が本気なればざっとこんなもんだわな。さて、向こう側はっと・・・何だありゃ?」


 カレンを組み敷きその上へと乗っかったタックスは、彼女の首筋へとナイフを突きつけている。

 そうして彼女を完全に制圧した彼は、もう降参だろうと首をしゃくると、もう一つの戦いの方へと視線を向けていた。

 その視線の先には、彼の予想もしなかった光景が広がっていた。




「おらおらおらおらおらおらおらおらおら、おっっっらぁぁぁ!!!」


 裂帛の気合を込めて叫ぶ声の一つに、繰り出されるこぶしは二つか三つ。

 繰り返される叫び声に、繰り出されるこぶしの数は数多に上るだろうか。

 それはグルドの身体から立ち上る蒸気に霞んで、もやのように立ち上っていた。


「はぁはぁはぁ・・・どうだ、参ったかぁ!!?」


 最後の一撃を残った気合全てを込めて放ったグルドは、その限界を超えたラッシュに荒い呼吸で激しく肩を上下させている。

 彼がそれを僅かに整えて、勝ち誇る雄叫びを上げてもまだ、その先の光景は明かされてはいない。

 熱を帯び火照った身体が汗を蒸気と化して作ったもやは、今だ彼の標的の姿を覆ったまま、その結末を隠してしまっている。

 その彼がボコボコにした筈の、トージローの姿を。


「飯はまだかいのぅ・・・お嬢ちゃんや、さっき飯の話を・・・んあ?お嬢ちゃんかい、ずいぶん大きくなったのぅ」


 そしてもやが晴れ、その姿が現れる。

 全くの無傷で、自分が攻撃された事すら気づいていないトージローの姿が。


「何で・・・何で、効かねぇんだよぉぉぉ!!!?」


 目の前のグルドをカレンだと勘違いして声を掛けてくるトージローの姿に、彼は頭を抱えて叫ぶ。

 そんな悲痛な叫び声にも、トージローは不思議そうに首を傾げるだけであった。


「おっかしいだろ!?避けるんなら、まだ分かる。防いだり受け流したりで無傷なのも、理解は出来らぁな。でもよ・・・こんだけもろに食らっといて、無傷ってのは一体どういう訳なんだよぉぉぉ!!?」


 今、目の前のトージローの様子からも分かる通り、彼は自分が攻撃されていると理解してすらいない。

 そんな彼がグルドの攻撃から身を守ろうとする訳もなく、彼はただただ無防備にグルドの攻撃を受け続けていた。

 それなのにも拘わらず、かすり傷一つ追わずケロリとした様子のトージローの姿に、グルドはその不条理を否定するように叫び声を上げていた。


「何だありゃ?一体どうなってんだ・・・?」

「おいおい、嘘だろ・・・?あのグルドのこぶしを受けて、無傷だと・・・?」


 その光景は、グルドの仲間であるタックスにとっても不可解な光景であった。

 彼らはトージローにやられこそしたが、それは彼の不可解な動きに空回りし自爆した結果であって、彼に打ちのめされた訳ではなかった。

 そのためこうして正面切ってグルドが殴り掛かれば、あっという間に決着がつくと高を括っていたのだ。


「あー・・・やっぱりこうなったか、だから止めとけっていったのに」 


 そんな異常な光景も、カレンにとっては何の不思議もない。

 彼女はショックを受けている様子のグルドや周りの冒険者の姿に、やっぱりこうなってしまったかと頭を抱えると、深々と溜め息を漏らしていた。


「やっぱりって・・・そりゃ、どういう意味だい嬢ちゃん?」

「どういうって、そのままの意味よ。トージローにあんなのが通用する訳が―――」


 もはや争う気配も見せないカレンに、押さえておく意味がなくなったのか、タックスは彼女の上から降り、その正面へと回っては発言の意味を尋ねている。

 そんな彼の質問にカレンは肩を竦めると、まるで当たり前の事のように断言する。

 トージローに、グルドの攻撃などが通じる訳がないのだと。


「おい!止めろ、グルド!!それを持ち出したら洒落にならない!!懲らしめてやるだけって話だったろ!?」


 そんなカレンの言葉を遮るように、筋肉質な小男ガッドの声が響く。

 彼はグルドの方へと顔を向けると、彼の下へと駆け寄ろうとしていた。


「お前が、お前が悪いんだからな爺さん・・・この俺を、散々コケにしやがって。もうこうなっちまったらなぁ・・・後には引けねぇんだよ!!!」


 ガッドの視線の先には、自らの得物である巨大な斧を両手に握りしめ、それを振りかざしているグルドの姿があった。

 それを使ってはもはや、手加減がどうだという話ではないだろう。


「グルド、止めろ!!ガッド急げ!!どうにかグルドを・・・!」

「分かってる!!だが、ここからじゃ・・・!」


 完全にブチ切れてしまい理性を失ってしまっているグルドに、仲間達も慌てて彼を止めようと駆け寄っていく。

 しかしその距離は遠く、今更駆けつけても間に合いそうもない。


「あ、やば・・・」


 そして怒りに駆られ、全力でそれを振り下ろそうとしているグルドの姿に、ようやく彼の事を敵だと認識したのか、トージローも自らの得物へと手を伸ばしていた。

 そのトージローの姿に一人、この目の前の光景が茶番に過ぎないと傍観していたカレンが、始めてその表情を青ざめさせる。


「駄目よ、トージロー・・・止めなさい、お願い止めて・・・逃げて、グルド!!逃げなさい!!!」


 惨劇の予感に青ざめるカレンは、目の前の光景を否定しようと頭をフルフルと振るっている。

 彼女はトージローに対して制止の言葉を掛けるが、そんな言葉が彼に届くことは今まで一度だってなかった。

 であれば、惨劇を防ぐには手は一つしかない。

 グルドを一刻も早く、その場から退避させるのだ。


「えっ!?そっち!!?」


 カレンが口にしたその意外な言葉に、グルドを止めようと急いでいたタックスは思わず振り返り突っ込んでしまう。

 そんな彼の背後では、グルドが今まさにその手にした斧を振り下ろそうとしていた。

 そしてそれに反応し、トージローもまたその手にした剣を振り払おうとしている。

 惨劇の予感に、カレンはその目をきつく閉ざす。


「グルアアァァァ!!!」


 その時、森の奥から恐ろしい雄叫びが響く。

 その声は、物凄い勢いでこちらへと近づいてきているようだった。


「何だ、この声は・・・?魔物ぐああぁぁっ!!?」


 そしてそれは、現れる。

 斧を振り下ろす途中で固まっていた、グルドを吹き飛ばして。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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