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ボケ老人無双  作者: 斑目 ごたく
冒険の始まり
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伝説の始まり

「ふっふっふ・・・ついに来たわよ、デカルテの森!!」


 腰に手を当て、不気味な笑いを漏らしながら俯いているカレンの目の前には、鬱蒼とした森が広がっている。

 俯いていた状態から突如顔を上げ、カレンはその森へと手を伸ばす。

 彼女の手には、その得物である木で出来た古ぼけた杖が握られていた。


「ここから、私のカレン・アシュクロフトの伝説が始まるんだから!!見ていなさい、あっという間に・・・」


 彼女はそのポーズのままで、自らの決意を語るように大声で叫ぶ。

 勇者のお付きの神官として栄光ある冒険の旅に出るという当初の予定とは異なるが、ここが彼女の冒険の始まりの場所であることには変わりがない。

 それを噛みしめるように宣言している彼女の瞳は、希望で燃えている。

 そしてその視界の中を、トージローがぼんやりとした表情でふらふらと横切っていた。


「ちょっと、トージロー!!折角、雰囲気出してたんだから邪魔しないでよね!!あぁ、もう!ここに来るまでだって、散々苦労したっていうのに・・・なに?杖が欲しいの?それなら後で買ってあげるから・・・ほら、ちょっとそこで大人しくしてて!」

「ほぁ?」


 いい感じに乗っていたところを台無しにされたカレンは、腕を振り回しては怒りを露わにしている。

 そんな彼女の声にも、トージローはさっぱり意味が分からないと、ぼんやりとした表情を向けてくるばかりであった。

 彼は何やら物欲しそうにカレンが手にしている杖へと手を伸ばしており、それを引き離されてもなおそれへと視線を向けていた。


「はぁ・・・もういいわ」


 そんな彼の表情にこれ以上言っても無駄だと悟ったカレンは、溜め息を漏らすと諦めを口にする。


「でも、いい!戦闘になったら、ちゃんと働いてもらいますからね!分かった?」

「おぉ!分かっちょる、分かっちょる!任せるがええ!!」


 これから始まる冒険で、自分達を馬鹿にし見放した連中を見返してやる、そうした決意を表明することを諦めたカレンは、顔を上げるとトージローに指を突きつけている。

 そうして本番である冒険ではちゃんと活躍するようにと言い聞かせてくるカレンに、トージローは任せろとその骨と皮ばかりのような腕を掲げて見せていた。


「本当に分かってるんでしょうね・・・?ま、頼りにしてるから」


 噛み合った会話に、彼女の要望に応えるように振舞ったトージローの姿にも、カレンは目を細めては半信半疑な視線を彼へと向けている。

 しかしそんな疑いの視線にも変わらず腕を掲げて見せているトージローに、彼女は鼻から抜くように息を吐くと、その肩を軽く叩いていた。


「ふっふっふ・・・トージローの力があれば、こんな依頼なんて楽勝なんだから。あっという間に達成して、驚かせてやる!そうしたら、一気に昇格出来るかな?ま、それはどっちでもいっか!どうせすぐに上に上がれるんだから!」


 トージローの圧倒的な力さえあれば、こんな依頼など楽勝だとカレンは高を括る。

 彼女は既にこんな依頼など達成したも同然だと考え、その後の計画について頭を巡らせているようだった。


「さ、行くわよトージロー!こんな森の入り口じゃ流石に・・・あら?」


 輝かしい未来の計画で頭が一杯なカレンは、早速とばかりに森の奥へと踏み入れようと足を延ばす。

 彼女はトージローへと手を伸ばしながら森の奥へと向かおうとしていたが、その向かおうとしていた先から何やらガサガサと草を踏み分けるような物音が聞こえてきていた。


「あらあらあら?こんな森の入り口でもう遭遇するなんて・・・そりゃあ、依頼にもなるってもんね」


 草を踏み分け、森の木々の間から顔を見せたのは、カレンが討伐を依頼された対象の魔物、ゴブリンであった。

 褐色の肌をした小柄な人型の魔物である彼らは、その醜悪な顔を突き合わせながら何やら話している。

 そんな彼らの姿に、カレンは討伐の依頼も出るのも納得だと、腕を組んでは頷いていた。


『っ!?ニンゲンだ!!』

『ニンゲンだ、ニンゲンのメスだ!!』


 その進行方向へと立ち塞がり、仁王立ちで腕を組んでいるカレンに、やがて彼らも気がつきそのガチャガチャとした耳障りな声を上げる。

 それらが何を言っているのかカレンには分からなかったが、彼らがそれぞれに粗末な得物を掲げ始めたのを見れば、何がしたいのかは理解出来る。

 敵対している種族同士、殺し合いが始まるのだ。


「ふふん、逃げずに向かってくるなんていい度胸じゃない!!さぁ、やるわよトージロー!!ここから私達の伝説が始まるんだから!!」


 見つけた獲物を逃がさないためか、周囲に広がりながらこちらへと向かってくるゴブリンの姿に、カレンは笑顔を浮かべると自らの得物である杖を構えている。

 そして隣にぼんやりと佇むトージローへと声を掛けると、彼女もまたそちらに向かって駆け出していた。

 その先に、栄光が待っていると信じて。

 ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

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