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石巫女  作者: 長月
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旅立ち

エウレンタスと呼ばれるこの世界は、力こそ最上主義だった。この力とは人が生まれながらに持つもので、遅くとも5歳になる頃には全ての人は何かしらの能力を持っている。極稀に生まれながらに何も持たず、5歳になっても何の能力も発現しないものがいる。レインは正にそれだった。レインのように何の能力も持たない者を人々は「無能」と蔑み、生まれた家によっては我が家の汚点として奴隷として売り飛ばし、いなかったものとして扱うことも珍しくなかった。

レインには世界でトップクラスの実力を持つパーティー「レーゲン」の元リーダーの父とその副リーダーだった母がいて、二人の兄がいる。二人の兄は両親の能力に似て戦闘に適していた事と幼き頃より両親に鍛えられていたのもあり、数多のパーティーから勧誘が来ている程の実力者だった。そんな中レインが売られずにいるのは父の「能力の有無と、人が人として生きていくことに何の関係があろうか」の信念によるものである。

常として親の考えが子に伝わることは難しいもので、二人の兄は最初こそその考えのもとにレインに優しく接していたが外界との接触が増え、能力を使用すると褒められ感謝されるが、無能は役立たずと虐げられる。そんな一般的な考えに染まった為、レインに冷たくそして虐げるようになっていた。二人にとって両親の考えこそが異端であり、自分たちこそが正しいのだと思っていた。が、現役を引退したとはいえ両親との力の差は歴然としていた為、思うことはあれど言葉には出さなかった。

両親の目が届かない所で虐げられていたレインにとって、唯一心安らげる時は両親と共に過ごす時だった。しかしそれはレインが12歳になった日に終わりを告げた。

「レイン。お前ももう12歳だ、そろそろ一人で生きていけるようにならなくてはな。」

父から告げられたその言葉は幼いレインにとって、先の見えない長い苦しみの扉が開く音に聞こえた。両親の保護がなくなったと思った二人の兄はレインを奴隷のように扱い、訓練と称して折檻を加えていた。両親に相談するも「頑張りなさい」としか言ってもらえずレインは塞ぎ込み、虐げられるのが嫌で外で過ごす事が増えた。最初こそ自由に過ごせていたが、近所の子供達に自分に能力がないことが分かると、途端に無能と呼ばれ暴力を振るわれるようになった。

森の外には魔物がいるため、村の決まりで子供達は比較的に魔物が出にくい村の入口付近の森でしか遊べなかったので、レインは森の中はおろか外に出ることはすら出来なかった。弱い魔物にも歯が立たないレインだが、森の中には足の速い魔物がいないので魔物に見つからないように隠れながら、一度こっそりと森の外に出たことがある。そこには今まで見たことのない魔物が闊歩し、偶然にもレインはその時に魔物が他の魔物を襲って食べているのを目撃してしまった。レインは見つかれば次は自分の番だと恐怖のあまり走り出し泣きながら家に辿り着き自室に籠った。それも1時間後には兄たちに見つかりおもちゃにされた。

それからレインは兄たちや、そして村の子供たちから逃げ続ける。そんな日々が3年続いたある日、レインはとある遺跡で少女と出会う。


時は戻り、レインは石像から出てきた少女と話していた。少女はフウと言った。フウは自身が「石神様」への供物だという事、気付いたら石化していた事。そして、石化している間の意識はあった事を話した。それを聞いたレインは自身の情けない所を見られていた事に、恥ずかしくなり消えてしまいそうになった。そんなレインを見てフウはクスクスと笑い「でも石の上からとはいえ、体を触ったことは許さないから」と笑顔で言われレインはすぐさま謝罪した。

その日レインはフウを連れて自宅に帰り両親の許しを得て、一緒に住むことになった。二人の兄は無能の弟がどんな女を連れてきたのかとちょっかいを出してきたが、フウに返り討ちにされ次の日からはレインが一人の時を見計らって手を出していたが直ぐにフウに見つかり返り討ちにされていた。そんな日々も一週間もすれば大人しくなっていた。フウの能力は全盛期の両親に匹敵する程の力と練度だった。村の子供達にもフウの能力が周知される頃、レインに平穏が訪れた。

「フウのおかげでいじめられなくなったよ、ありがとうフウ」

と笑顔で言うレインの表情にはどこか悲痛さを感じられた。「うん」フウにはそれ以上の言葉を紡げなかった。また守ってあげるから。この一言を言えばレインが消えてしまいそうだったからだ。

その夜フウはレインの父に自室に呼ばれた。部屋に入るとそこには父「カスト」と母「ミト」がいた。フウはこの家に来た時に両親には旅の途中で遺跡の中でレインと知り合って仲良くなったと説明していたが、それが嘘だと二人には初めから分かっていたようだった。二人はフウに何者なのか?なぜレインに近づいたのかを問いた。その問いにフウは信じてもらえるか分からない事と、何よりレインと離れる事を恐れはぐらかしていたが、その心情を察したミトが「私たちは今でこそこんなだけど、若いころは世界中を冒険していたのよ?だからどんな不思議なことを言われても信じるし、あなたが望むならいつまでもここにいなさい。もちろんレインも一緒にね。」その言葉にフウは安堵し全てを打明けた。

「・・・まさか石巫女だったとは。それならあの力も納得出来る」

カストは驚きながらそう言った。

「石巫女?」

フウは聞きなれない言葉に聞き返した。

「君のように石神に供物にされ石化された巫女の事だよ。昔冒険者をしている時に見かけて、色々と調べたのだが結局石化は解けず、石化の理由は恐らく保存食としているためだという結論に達した。それは、「石神様」と呼ばれるものは世界各地で崇められていて、その殆どに石巫女がいた。そして君がいたという場所に俺たち二人で行ったがそんな遺跡は全く見つけられなかった。どうやらレインだけが入れるようだ。」

「うん。レインもそう言ってた」

フウは石化している時にレインがそのような事を言っていた事を思い出した。

「それにしても、石巫女に選ばれた娘はその村の一番の力を持っているとは思っていたけど、全盛期の私たち二人掛かりで何とか勝てるかどうかじゃないかしら。」

そうミトは感嘆した。

「?私は一番じゃないよ?」

まるで幼子が疑問を口にするように、フウはきょとんとした顔で言った。

「あれ?どうしたの?」

カストとミトはその言葉に愕然とし、固まってしまった。

「おーい」フウは二人の目の前でそう手を振るが二人は時が止まったように動かなかった。


翌朝フウはレインの部屋を訪ねたが、そこにレインの姿はなかった。それから家の中を探し、両親やなぜか敬語の二人の兄に尋ねたが誰も知らなかった。それならとフウはレインを探しに森に向かった。能力を使いレインのもとに着いたフウが見たのは、棒切れを持ち木に向かって打ち付けているレインの姿だった。熱心なその姿に邪魔してはいけないと、フウは近くの木にもたれかかった。

暫くして疲れて倒れこんだレインの横にちょこんと座り「どうしてこんな事をしているの?」と聞くとレインは「弱いから」一言そう言い、息を整え立ち上がり再び木に対峙した。

太陽が中天に差し掛かり、フウは近くの川から汲んできた水を疲れて息も絶え絶えのレインに渡し、血だらけの掌を魔法で回復させていた。そんな悲痛な顔を見てレインは「ごめん」と呟いた。「明日もするの?」俯きながら聞くフウに「明日もするし、今日の昼からもする」そう即答するレインにフウは無理やり笑顔を作り「わかった」そう返した。

昼食を食べに帰る道中フウはレインに向き直り

「レイン。約束して、鍛錬の前は必ずご飯を食べる事!それから私も連れて行くこと!分かった?」

「いや、別にフウはいなくても「分かった?」

その迫力に負けたレインに残された道は首肯しか残されていなかった。

その夜、フウはカストの部屋に行き、今日のレインの様子を伝えなぜ突然あんな事を始めたのか?自分に出来る事は無いのかを相談した。

「あれでも男の子だからなぁ。レインが無利しすぎないようにフウはそばにいてやってくれ。」

あまりにも不可解で簡潔な答えにフウは納得出来なかったが、それ以上の答えは出なさそうなのでひとまず納得することにした。


それから二年の月日が経ち、レインは17歳になっていた。

レインとフウの二人はこれから冒険者として旅に出るため、両親に別れの挨拶をしていた。

「レイン。まさかお前に剣の才能があるとはな、昔教えた時は才能が感じられなかったが、どうやら父さんの見る目がなかったようだ。12歳のあの日にお前が一人で生きていけるようにと突き放してしまい辛い思いをさせてしまったな。本当にすまなかった」

「分かってたよ父さん。確かに辛い日々だったけど今は感謝してる。」

頭を下げるカストにレインはそう笑顔で答え

「それに、そのおかげでフウと出会えたしね」

そうフウの目を見つめながら言った。

「あらあら、次に帰って来る時は二人の結婚式かしらね」

「ちょっと母さん。何言って「頑張ります!」

とレインの言葉を遮りフウは鼻息荒く答えた。

「母さん。次は結婚式じゃなくて孫を連れてくるかもしれんぞ?」

カストのその言葉にレインは勝手に話が大きくなっていくことに落胆した。

「はっはっは。まあ冗談はここまでにして、レイン。人の痛みを知り、努力を怠らないお前なら大丈夫だとは思うが、決して人を見下さず自分が正しいと思ったことに力を使いなさい。それからフウ。レインが無茶しないように支えてやってくれ。」

二人はカストの言葉に頷いた。

「それじゃあ、これは私たちからあなたたちに。」

レインはカストからペンダントを、フウはミトから指輪を貰った。

「これは私たちがまだ冒険者だった頃に付けていたもので、きっとあなたたちを助けてくれるわ。」

「そんな大事なものなら兄さんたちに送った方が。」

「これは強きものから弱きものを守れる清き心の持ち主にしか効果が発揮しないんだ。残念ながら、あの二人にはそれがない。だから父さんたちはお前たちにならと思ったんだ。」

「分かった。俺にそれが出来るかは分からないけど頑張るよ。ありがとう父さん、母さん。行ってきます!」

「行ってきまーす!」

二人は両親に手を振り、旅立ちの一歩を踏み出した。


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