始まりと旅立ち
初めまして。長月と申します。この度は数多ある作品の中から読んで頂き有り難う御座います。この作品はふとタイトルが浮かんでそこから練り上げたものです。素人中の素人なので、誤字脱字などが有れば教えて頂けたら感涙します。遅筆なので、温かく見守っていただけたら幸いです。
プロローグ
はぁはぁと息を切らしながら疾走する音が木々を掻き分ける。その後ろからは虐げる事に悦を覚えた嘲笑を含んだ声が複数聞こえる。しかしその速度は大して早くもなく、わざと追詰めるようにしていた。
(ちくしょう!なんで僕がこんな目に・・・)
少年はそんな事を思いながら、ひたすら走った。肺は火が付いたようで足は軋むように痛い。胸は早鐘を打ち付け煩かった。それでも足を止め、彼らに捕まりいつものように動けなくなるまで暴行されるよりはましに思えた。
少しして、少年の足が歩いているのか走っているのか分からない速度まで落ちた頃、ふらついた少年は木の根に躓き目の前の斜面を転がり落ち全身を強打した。疲労困憊の体には意識を絶たせるには十分な衝撃だった。薄れゆく意識の中で少年は、追ってきた彼らの声が自分を探しているのを聞いた。
(あぁ、今日も捕まってしまった・・・)
数時間後、少年が目を覚ますと周りには誰もいなく太陽は中天を過ぎていた。風が奏でる音を聞きながら周りを見渡すと後ろには、荘厳だがどこか愁いを帯びた遺跡が建っていた。
(こんな所にこんなものがあったっけ?)
と疑問に思ったが、村に戻っても彼らに捕まるだけなので時間潰しにと中に入ることにした。少年が遺跡に足を踏み入れると、微かに声が聞こえた。それは今にも消え入りそうな声で助けを求めていた。
(助けて)
その声に少年が辺りを見渡すが誰もいなく、心地良い風が木々を揺らす音だけが変わらず聞こえてきた。空耳だろうと少年は遺跡の中に歩を進めた。
中はまるで別空間に入ったかのように静寂が辺りを支配していた。ここの主が静寂を好むのなら自分は間違いなく異物として淘汰されるだろうと想像し身震いした。辺りを警戒しつつ歩むこと数分。少年は気付いた。この遺跡には動物の姿も、植物の姿も見当たらないことに。少年が思う遺跡とは、蔦や苔が生えトカゲや蝙蝠などが住んでいるものだった。そう思うとここは遺跡と呼ぶには不似合いな、最近作られたように新しかった。
自身の村からそんなに離れていないのに、こんな大きなものを人知れず作られた事に疑問を覚えたが、少年はそんな事より目の前に広がる見たこともないものに夢中になりつつあった。それから30分程経ったであろうか、大きな扉の前に立った少年の頭に声が響く。
(助けて・・・)
それは初めに聞いた時よりも鮮明に聞こえた。空耳ではなかったその悲しみを帯びた声に導かれるように少年は扉を開いた。そこはとても広く何もない簡素な場所で真ん中に長い階段があり、天井からは一筋の光が差し込みその頂上を照らしていた。少年が階段を上り頂上まで辿り着いたそこには、膝立ちで祈りを捧げる少女の石像があった。
「綺麗だ」
少年は思わずそう言葉にし、頬に触れた。光で暖められたからであろうか、少年の掌に仄かな温度が感じられた。
「僕の名前はレイン」
と石像になぜ名前を告げたくなったのか、なぜ身の上話をしたくなったのか分からないが、レインは日が暮れるまで石像に話続けた。
翌日からレインは毎日誰にも会わないであろう早朝に起き、弁当を持って石像の横で一日の大半を過ごす事になった。勿論、石像からの反応はないがレインには苦痛ではなく、むしろ唯一心休まる場所だった。不思議とあれ以来助けを求める声は聞こえてこかなかった。
そしてこの遺跡はなぜか他の人には見えず来ることも出来なかった。それはある日の帰り道にいじめっ子達に捕まり案内させられた時に分かったのだ。ここにはいじめっ子達にはただの森に見え、彼らはレインが消えていくのを見る事しか出来なかった。いじめっ子にはレインの声が聞こえないが、レインにはいじめっ子達の声も姿に認識出来た。
そんな日々が続きレインの両親も初めは不審に思っていたが、毎日いじめられてふさぎ込みがちだった我が子が、毎日弁当を持って楽しそうに怪我無く過ごしているのを見て。見守ることにしていた。
レインが少女の像と出会って三か月が経ったある日。その日はレインの15歳の誕生日だった。レインはいつものように少女の像に話しかけ、自分の誕生日だと告げるとおめでとうと聞こえた気がした。レインは少女の像の顔をじっと見つめ「喋った?」と頬に手を当てると、温かかった。
(何かおかしい)
と疑問に思ったレインは服や髪を触るが冷たかった。温かく感じられたのは、肌の部分だった。「えっ?」と両手で温度を確かめるように両頬を触ると、そこから徐々に石像が消え白い肌に変わっていった。それは頬を中心に広がりすぐに全身に広がった。呆気にとられたレインは少女と目が合い、思わず後ずさった。それを見た少女は頬を赤らめ「エッチ・・・」と一言いい、レインの視界は右にずれ直ぐに左頬が熱を放った。