軟禁
扉の外には鋭い槍を持った衛兵、窓から見える青空の景色は等間隔に刺さる鉄格子によって遮られていた。
城内を自由に歩き回る事は愚か、部屋からもまともに出られない。食事を持ってくる(と同時にサボりに来る)フェミニさんを除く他の給仕、衛兵、その他諸々、皆、だんまりのまま二日が過ぎようとしている。
「はぁ、これは分かりやすく軟禁されてるなぁ」。
身動きの取れない現状にため息をする他無かった。
唯一の情報源であるフェミニさんとも、小言を交わす程度、一帯いつになったら呼ばれるのだろうか。
「ねぇ、フェミニさん、俺、いつになったら呼ばれるのかね」。
「さぁどうですかね、あの王の事ですし、三日後か、傍また一週間後か、ひょっとして一年後なんて事も」。
おいおい、んな適当な
茶菓子を摘みながら好き勝手するフェミニの姿にも慣れ始めた。
「前々から思ってたけどフェミニさんって王に対する忠誠とかそういうの無いですよね」。
「お、鋭い洞察力、流石ですね」。
「そりゃお褒めに預かりどうも、でもなんで?こういう仕事している人って基本忠誠心から来るナントカって奴じゃ無いの?」。
「そういうのは無いです、私は王室専属では無いので」。
専属?
「私はメイドです」。
「はい」。
「流れのメイドです」。
「はい?」
「【流浪のメイドさん】なんですよ、どうです?カッコいいでしょう」。
「はぁ」。
「まぁというのは半分ジョークです。実は私はその腕を買われて王、直々にスカウトされた【バトルメイドさん】なんですよ」と手に持ったモップを手慣れたように回しピシッと決めた。
「フェミニさん、もう良いよ」。
「なんですか、つれないですね」と茶を啜る。
「流れ、と言うのは本当です。前は別の貴族の給仕でした。ので王への忠誠と言うものは薄いのかもしれません、そもそも私は王政反対派ですから」。
「じゃあ、なんでこの仕事を」。
「───お金です」。
恥じらいも無く食い気味にフェミニは答える。
流石というか何というかブレない軸が彼女にはある。
「やっぱり王宮ともなるとお金余る程あるのでしょう、ホントに………虫唾が走る」。
「ん?今なんて?」。
「いえ、何でもありません。では、そろそろ行きますね、長居すると給仕長にどやされてしまいますから」。
「はぁ」。
確かにフェミニは何かを呟いた、でもそんな事、この時の日向には少しも気には成らなかったのだ。
一人の一般男性用が生活するのには広すぎる空間。どこに居ても無償にそわそわして体中がむず痒くなる。そんな空間でも心を落ち着かせられる場所はあった。窓際の鉄格子のはまった小窓の席、そこから見える空の景色、その空を見ている時だけが唯一自分一人になれた気分になれる。
こっちの世界に来る前もそうだった。
見えるのはいつも鉄格子越しの空で、それでも空は綺麗で、例え薄暗い雲が掛かってもいつかは晴れて又綺麗になる。いつ、どこ、どんな時でも空の色は変わらなくて何時も一緒でそういうのがすごく落ち着く。
流れる心地の良い風、燦々と照らす日光、眠気とまどろみ、重くなった瞼が閉じるその時、空を自由に羽ばたく鳥が見切れる。
(あぁ、いいなぁ俺も……自由に空を飛べたら……)
そして亜堂センリの世界は静かに暗転する。