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時空を超えた想いを繋ぐ使者たち  作者: さかき原枝都は
ファーストステップ・バイオマシン
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3.創世の女神 倉塚 桜

 ふと、僕は「ユリカ」の事が気になった。


 二階の自分の部屋に行き、ドアのカギをロックした。その後、端末と僕の部屋にある大型のディスプレイを接続した。

 僕はその端末に触れ、生体認証をさせた。


 端末は、ディスプレイのドライバーを認証させディスプレイを起動させた。その表示は色んな記号や数字の羅列だけしか表示されなかった。


 僕は持ってきていたサングラスをかけ、ディスプレイを見る。すると記号などの羅列は、ちゃんとした日本語の表示で表されていた。


 このサングラスは一種のブラウザの役目を担っている。研究所の外で、サーバーにアクセスするときには必要なアイテムだ。なにせこの暗号化された内容を普通に表示させるのには、現在の世界では不可能に近い技術なのだから。

 僕は、研究所のバイオサーバーにアクセスするよう端末に指示する。


 「005673821にアクセス。認証、シズクナナキ、認証コード358249」

 バイオサーバーからの問い合わせがくる。


 「研究員ナンバー358249、七季雫。アクセスアドレス確認。…… 生体認証確認。プロトコル認証ポートゲートプログラム変更…… 変更確認。特殊ゲート回線に切り替えます」


 ようやくディスプレイに研究所のOSが表示される。


「只今、専用OS展開中。現時刻より監視衛星「ライザック6号」によりあなたの作業を監視します。OS展開完了。サーバー005673821にアクセス完了。358249ワークスペース展開完了」


「こんにちは雫。今日はご自宅でのお仕事ですか?」


 バイオサーバのセンターオペレーターがいつもの様に柔らかい話し方で語りかける。と言ってもバイオサーバーが作り上げ、自分で制御しているオペレーターだ。


 「ユリカの状況を表示してくれ」

 僕は端末に指示する

 オペレーターは


 「了解しました。あなたが作業終了宣言をしてからの経過を表示します。ユリカを三次元ホログラムで写しますか」

 「そうしてくれ」


 バイオサーバーは指示通りの内容を表示し、端末から不透過三次元ホログラムが投影された。

 ディスプレイには、今までの作業内容が事細かに表示されている。ホログラムで投影されているユリカの体はおよそ八十パーセント完成している。だが、僕の担当しているフェイスはまだ投影されていない。

 実はまだ完成していないのだ。


 大まかなデッサン構造はすでに完成して認証をもらっている。だが大本となる表情のデザインが出来ていないのだ。


 「やっぱり顔が無いとなんかへんだよなぁ」


 そう思いながらも作業は進んでいなかった。

 現在「ユリカ」は脳のデザイン設定も終了し、仮想世界で実社会の体験学習をしている。

 一分を一日として、日常の生活を体験している。


 三百六十五分で一年。それを十八回、成長させながらその場面場面を体験させている。

 学校に行って勉強をしたり、部活動をしたり、家で料理をしてみたり。さまざまな経験をさせている。仮想の両親の中、かわいがれながら。


 その経験を、数千人のパターンで経験させる。だからこの作業時間は、三百六十五分掛ける十八回掛けるその体験シュミレート人数分ということになる。


 僕が作業内容を確認していると、最高チーフの「Dolly・Rivera ドリー・リベラ」が割り込んできた。

 「あら、雫、お休みなのにご熱心ですこと」

 「やあ、ドリー。なんかユリカの事が気になって来てみたんだ」

 「あらまぁ、どうしたのかしらねぇ。明日彼女にプロポーズする人がねぇ。もしかしてユリカにも惚れてた」

 「そんなんじゃないよ。ドリー」

 僕は彼女にだけ、桜にプロポーズすることを伝えていた。


 そこへもう一人割り込んできた。それは、ボディデザイナーの『 Guido ・Frescobaldiグイド・ フレスコバルディ』だ。イタリア出身の陽気な奴だ。

 「ヘェーイ雫。プロポーズするって本当かぁ」

 「え、あ、あの。なんでグイドまで来るんだよ」

 「いやーな。あの奥手の雫がようやく愛しの彼女にプロポーズするって訊いたら、黙っておられんだろう」


 「ハイハイ、奥手でわるうございました。でもグイドと比べたら、どんな人も奥手になるんじゃないの」

 「こりゃあてきびしいなぁ。これでも俺は一途なんだぜ」

 グイドは高笑いをした。


 「そうだ、ドリーちょっと訊きたいことがあるんだけど」


 僕はドリーに、あのデス・キラー病について訊いてみた。

 ドリーはそのことを訊くと、顔を曇らせた。そして

 「私には分からないわ、あのセクションからは何も報告は上がっていないからね」


 そして、端末にダイレクトメッセージが送られてきた。このダイレクトメッセージについては、バイオサーバーは関知しない。文字数百三十文字一日三回の使用制限付きだ。

 

 「雫、今はその事には触れてはいけないわ」

 

 ドリーは僕の質問を遮った。

 その事に触れてはいけない。どう言うことなんだろう。それにドリーはわざわざダイレクト回線を使って、僕にメッセージを送ってきたんだろう。


 だがこの研究自他が謎だらけの研究を行っているのだから、僕はあまり深く考えなかった。

 それにドリーは、僕をこの研究所に導いた張本人なのだ。

 僕はその頃のことを思い出していた。


 以前僕は、どうしてこの研究所に引き入れたのか、ドリーに訊いた事がある。

 あの時、大学院の修士課程の修了のため、僕直属の教授に論文を提出した。


 「そうねぇ。あなたのとこの教授、実は私の元彼だったの。久しぶりにね、あの人のところに行ったら。私の顔見るなり、「君はこの論文をどう見るかね」だって、久しぶりに遭ったのに挨拶もなしでよ。仕方ないから私も見させて戴いたわ、あなたの論文を」


 僕はその話を訊いて呆気にとられていた。

 「正直、驚いたわ。日本にこんなユニークな発想を持つ人がいたなんて信じられなかったわ。でね、閃いたの。こんなむちゃくちゃな論理を、最もらしく論理付けられる人は、私たちの研究に役に立つ存在だってね」 


 それは、褒めれれているのか、それとも単なるおかしな人とでも思われたのか、その真意は分からなかった。


 そして、僕はドリーにもう一つ質問をした。

 僕が専攻している研究は物理学だ。それなのになぜ、ユリカのプロジェクトに配属されたかだ。


 「それはね『Believe』が言ったのよ。あなたの申請書を提出したら、七季雫はユリカに就かせろってね。フェイス担当はねぇ、あなたが一番若かったからよ。だって、若い人が見惚れるくらいのフェイスでないといけないでしょ。ユリカは若い女性なんだもの。それにあなただったら、美人のフェイスをデザインしてくれると思ったからよ」


 僕はドリーから事の次第を訊いて、この研究所に来たのは、単なる偶然が招いた事なのかと思った。でも僕は、この研究所でユリカに出会えたことに有為を感じていた。

 僕はドリーから送られてきたダイレクトメッセージの返事を

 「解った」としか伝えなかった。


 ドリーは、その返事を訊くと、悲しげな表情をした。本当は、そのことについては知っているが、公表できないというじれんまがある様に思えた。

 グイドは、自分には関係のない事だと言う様に会話には、入ってこなかった。


 そして、この会話を終わらせるように

 一階から母さんが僕を呼んできた。

 「雫、夕食よ」

 僕は、母さんに聴こえるように大きな声で

 「分かった、今行く」と答えた。

 それを訊いたドリーは

 「雫、どうしたのいきなり大声なんか出して」

 ドリーはびっくりしていた。


 「いや、ごめん。母さんが夕食だって」

 「そう、雫はいいわね。お母さんの手料理味わえるんだから」

 グイドが会話に入る

 「うらやましいな。俺なんかマンマの味なんかもう忘れてしまったよ」

 グイドが羨ましそうに言った。

 「それじゃ、そろそろ離脱するね」

 「そうね。それじゃ明日頑張ってね」

 ドリーはにこやかに言い

 グイドは、画面いっぱいに顔を押し付けて

 「明日の報告待ってるからな。絶対報告しろよ」

 なんとなく彼らしいと思った。


 僕は、端末にクローズと意思指示した。

 バイオサーバのセンターオペレーターが答える。


 「今までの作業内容を全てバックアップしました。作業を中断してもよろしいですか」

 「ああ、そうしてくれ」


 「了解しました。サーバーから離脱します。サーバー005673821離脱完了。「ライザック6号」でのあなたの監視を中断します。 認証コード358249の作業終了を完了します。OSの展開を削除します。削除完了」


 そして、ディスプレイは黒くその光を閉じた。

 

 次の日、僕は製作をお願いしていたリング屋に向かった。

 愛車の二千五百CCのバイクを飛ばして。


 リング屋に入るとその担当者が

 「七季様、この度はご婚約おめでとうございます。ご依頼のエンゲージリングをお持ちいたします」

 なんと言うか、待ち構えていたような対応だった。


 このリングは僕がデザインした。


 細いリングのトップに桜の花びらを二枚ずらして重ね、その上に小さなダイヤとピンクサファイアを置き、下から回り込むプラチナリングがその桜の花びらを包みこむようなデザインだ。その桜は、光を受けると薄く桜色に輝くように設定した。


 僕は思い通りのデザインに仕上がったリングを確認した。

 リングは、薄いピンク色をした、桜の花びらをイメージしたケースに入れた。

 

 そして僕は、桜の待つマスターの店へと向かった


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