表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

第五幕「大夢」①

 再来週から中間テストということもあるのだが、今夜から明日明後日かけて雨の予報ということで、久しぶりに部活が休みになった。サッカー部顧問で体育教師の犬飼先生が、

「まあゴールデンウィーク中はお前らもよく頑張ったから」

とか言ってたけど、『どうせデートなんだろ?』と、部員たちは愛情を込めて陰口を叩く。他の生徒たちはどうなのか知らないけど、犬飼先生が英語教師の工藤先生と付き合ってるのは、サッカー部員はみんな知っている。

 お正月にデート現場をたまたま目撃したってのもあるけど、三学期に入った頃から天候がすぐれないと、練習が休みになることが多いのも事実。きっと犬飼先生も、週末の雨が待ち遠しいんじゃないかなあなんて、邪推してしまうのも仕方のないことだ。

 とはいえ、もちろん部活においては手抜きなんかはしていない。むしろ厳しくなったくらいだ。サッカー部のOBでもある犬飼先生にとっては「今年こそ全国へ!」っていう気合が入りまくってるんだけど、そこまで期待されてもなあ、とも思う。

 美園台高校は、県内では一応強豪の部類に入る。ただし、公立校の中では、っていう話。まあ頑張ってはいるけど、余程くじ運がいいか、強豪私立が潰し合ってくれないことには難しいだろうことは肌で感じている。

 でもまあ週末の土日が休みになってくれることは、正直ありがたい。雨が上がるようなら多少のランニングとか家の手伝いとかはするかもだけど、ここのところ少し勉強が遅れ気味なので、この二連休で取り返したいところだ。もちろん俺の場合、スポーツ推薦もないわけじゃないけど、あまりそれには期待してないから、普通に受験することになるだろう。

 美園駅から西へ電車で六駅、更にそこから徒歩で十二分、美園台高校から家までドアトゥドアで片道四十五分の道のりは結構遠い。

 高校に入学するときは、かなり迷った。俺の父は転勤族であるため、もしもの時に実家から通うのは難しくなる可能性が高かったし、そこそこ強いサッカー部があって、しかも寮生活とかはなしで、それでいて大学進学も目指せる、そんな高校を考えていたんだけど、いざ探そうとするとこれが困難極まりない。

 そうこうしてるうちに受験も間近に迫った中学三年の正月、父の実家に里帰りしたとき、祖父の提案があって美園台高校を受けることに決めた。中学のサッカー部の仲間の誰もいないのは不安だったけど、理想の条件はほぼほぼ満たしていると言っていい。そんなこんなで今、俺、高山大夢は祖父母の家に居候中だ。さすがに来年からは一人暮らしをするだろうとは思うけど。

 日も落ちて、街灯もまばらな一車線の産業道路を少し急ぎ足で歩く。今は薄暗くて見えないけど、道の両側には広大な畑が広がっている。

「ただいま~~」

 家の中から漂うカレーの匂いは、俺の空腹を否応なく刺激していた。

「おっかえり~~っ!」

 廊下の奥から軽やかな足音と共に走ってきたのは、俺の従姉弟二人。姉の方は幼稚園の年長組の芙美歌ふみか、弟の方は年少組の廉太郎れんたろうだ。二人は俺の下半身に突進してそのまま抱きつく。

「なんだ、今日は飯食いに来てたのか?」

 俺は少しよろめきながら従姉弟二人の頭をなでる。

「うん、今日はカレー」

「バターチキンカレー」

 うん、知ってる。胃袋を刺激する暴力的な香りが家の外まで匂ってきてたし、それに今日は金曜日。高山家では父の幼いころから金曜日はカレーと決まっている。もちろん祖父母の家だけではなく、俺の実家でもそれは同じだ。

「そっか、ちょっと荷物置いてくるね。お祖母ちゃんに大盛りでご飯よそっといてって言っといて」

「分かった~~」

「お祖母ちゃん、ヒロ兄ちゃん、ご飯大盛りだって~~」

 従姉弟たちはドタドタと廊下をUターンして居間に戻っていく。そして俺は、バッグに入った洗濯物を洗面所にある洗濯かごに入れて、部屋着に着替えるために、祖父がプレハブの物置きを改造して作ってくれた自室に一旦戻った。

 祖父母の家は農業を営んでいる。父の弟である俺の叔父さんが祖父の跡を継ぐ形で、今は祖父母の家から50メートルほど離れた土地に一軒家を建て、奥さんと子供二人の家庭を築いている。

 叔父はウチの父と違って体を動かすことが好きだったことから家業を継ぎ、今ではまだあまり手が付けられていない「イタリアン野菜」を試行錯誤しながら作っているみたい。なんでも美園市の東の郊外にあるなんとかっていうイタリアンレストランと専属契約しているようで、そのせいもあってか売れ行きは好調。近所の道の駅とかに出荷しても、午前中のうちに商品がさばけてしまうくらいの人気にはなっていると聞いている。

 たまに俺も叔父の仕事を手伝ったりすることもあったりもして、まあ第一次産業は厳しいみたいな話もあるけど、こんな仕事もいいなあとかも思うこともしばしばだ。先のことはまだ分からないけど、俺の将来の選択肢の一つには入っていたりもする。

 俺の友人たちの話をすると、ソラは将来、デザイン関係の仕事に就きたいみたいなこと言ってて、既に志望校を選別し始めているし、タケに至っては調理師の専門学校に行くことは本人の中では決定しているらしい。

 ソラは学校では目立たない存在ではあるし、勉強もそこそこ。何か問題を起こすわけじゃなく、俺から見ると割りと世渡り上手みたいな雰囲気がある。人に弱みなど見せたりしないし、ソラからは愚痴とか聞いたことがない。ただいつもニコニコしているにも関わらず、その笑みを絶やさないままナチュラルに毒を吐いたりするので、ときどきビックリさせられる。でもそれは本当に俺たちの前でだけのようなので、きっと他人との距離の取り方が上手いんだろうなあ、って思う。

 タケは基本的にムードメーカー。そのくせに成績は学年でトップクラス。最初に出会ったときは背も低いし童顔であったため(目つきは良くないが)なんか弟的な感じだったのだが、たまに真面目な話とかすると、常に何らかの正解に近い形で答えを導いてくれる気がするので、今となっては精神的な兄貴みたいな存在になっている。普段のはっちゃけ具合とのギャップの振り幅が、こんなに大きい奴も珍しい。

 まあ友人たちはこんな感じなので、俺がこの中で一番ノーマルな高校生じゃないかと勝手に思ってるんだけど(奴らが聞いたら否定するかもだけど)、おそらく彼らに比べたら、俺が一番精神的に幼いんじゃないか、って考えてしまう。将来のことに関してもそうだ。やってみたいことはたくさんあって、どうしても一つに絞れない。

 もしサッカーで食っていけるならそれに越したことはないんだけど、犬飼先生のように体育教師もいいなって思うし、祖父や叔父のように農業もやってみたいと思う。何か一つに未だ絞れない優柔不断な自分がときどき嫌になることがあって、寝つきが悪い夜もあったりする。いっそソラやタケに相談してみようか。何か答えを出してくれるかもしれない……。


ご無沙汰してます。

久しぶりに更新です。


五幕の主人公?の大夢君のキャラがあまり定まってなくて

結構ブレブレな気がします。


次回は何とか来週中に。

年度末は何かと時間が取れませぬ(泣)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ